7.ドラゴン娘とBLTサンドを食べる
「…飯でも作るか」
普段自分一人ならパンと牛乳で適当に済ますのだが、今日は客がいるからな、ちゃんと作るか。
「ベーコンがあったな、それと野菜が大根、人参、ジャガイモ、玉葱、長葱、レタスとトマト、か。…あれにするか」
メニューは決定。
早速材料を並べていく。
食パン。
スーパーで売ってる普通の市販品。
北海道の方言では上が平らなアメリカ式食パンを角食、丸く膨らんだイギリス式を山食と言う。
山食の方は余り使わないが。
ベーコン。
近くの農家の直売所で売ってる自家生産品。
ちょっと高いが、スモークの香りが素晴らしく大変美味。
レタスとトマト。
時期外れなので割高だが、サラダや添え物として使いやすいので割と常備している。
タルタルソース。
チューブの市販品。
手作りだと手間も時間もかかるので、今回は手抜き。
バターとからし。
これも普通の市販品。
調理開始。
まずフライパンを強火で熱し、油を引かずに薄切りベーコンを並べていく。
焦げないよう注意しながら、時々裏返しカリカリに焼き上げる。
この間に野菜の用意。
レタスの葉を剥いで水洗い、量の目安は一人前三、四枚程度。
トマトは輪切り、皮が気になるなら湯剥きしておく事。
室温に戻したバターにからしを混ぜてからしバターに。
バターだけでも良いのだが、ベーコンの脂っ気があるので辛みがある方が美味しい。
ベーコンが焼きあがれば具材の用意は終了。
後はパンをトースターに仕込んで、と。
「お?」
すると丁度そのタイミングで…
「…良い匂いがする…」
ドラゴン娘のご起床である。
まだしっかり空いていない目を擦りながら、鼻だけはひくひくと匂いの元を探しているようだ。
匂いにつられて起きたのか、起きたら偶々匂いがしていたのか。
…彼女の名誉の為にも後者という事にしておこう。
「おはよう。もう朝食出来るから、先に顔洗って来いよ」
「…ん」
辛うじて返事を返しまたふらふらとリビングを出ていく。
…頭ぶつけるなよ?
ちなみに今の彼女の格好は俺のジャージ上下。
丁度おろしたての新品があったのでそれを貸している。
勿論サイズは全く合わないのでだぼだぼだ。
ぶかぶかのジャージ、彼シャツならぬ彼ジャージ(彼氏ではないが)、…新しい扉が開きそうだ。
と言っても翼があるので当然普通には着れないし、サイズも全然違う。
下は単に余っている部分を纏めて、安全ピンで留めれば良いのだが、上はそうもいかない。
そこで上はサイズが大きいのを利用して、余っている布地部分を左右から引っ張り、翼に巻き付けるようにして留めている感じ。
あれだ、南国とかの女の子が、Tシャツの裾をお腹の所で縛ってるのを前後逆にしたような。
必然へそ出しである。
くびれたお腹と、裾を縛ることで強調された胸が大変素晴らしい。
チーン
おっと、アホな事考えてる場合じゃない、パンが焼けた。
取り出したパンの片面にからしバターを塗り付け、ベーコンを一人前五枚程度で並べる。
その上にレタスを載せてからタルタルソースを掛け回し、更にその上にスライストマト。
仕上げに同じくからしバターを塗ったパンで挟み、出来上がり。
「BLTサンド完成~」
後はどっちもインスタントだが、コーンスープとコーヒーを出して準備完了。
「おはようコーヘー…」
と、タイミング良くディーネも戻って来た。
「おはようディーネ、ってどうした?」
なんか凄く複雑そうと言うか、微妙な表情を浮かべている。
今の数分間で何があったんだ?
「不覚じゃ…我は自分が情けない」
「何だいきなり」
「宿を借り世話になっている身でありながら、家主よりも遅くまで惰眠を貪ってしまうとは…。しかも朝食の支度まで全てやらせてしまった…」
「ああ…」
…律儀な奴だな~、そんな気にする事ないのに
しかしその律儀さは俺のダチ連中にも見習ってほしいぜ。
あいつらと来たらやりたい放題だからな。
「とんでもない事が起きた訳だし、なんだかんだ言ってもやっぱり疲れてたんだろ?大して手間かけたメニューでも無いし、気にするな。」
「じゃが…」
「それによっぽど嫌な奴でもない限り、家主が客人をもてなすのは当然の事だ」
「むう…」
「一緒にラーメン作って食べた仲、だろ?」
その言葉にディーネの顔はきょとんとした表情に変わる。
何しろそれは昨日、彼女自身が言った言葉だ。
「…そうじゃったな」
ようやくディーネの顔は笑顔に変わった。
よしよし。
「ほら、冷めないうちに食べようぜ」
「うむ!良い匂いじゃな!」
卓に着くディーネに倣い俺も腰掛け、手を合わせて。
「頂きます」
「イタダキマス」
早速メインのBLTサンドを両手で持ってかぶりつく。
ザクッ シャクシャク カリ
サクサクのトーストに、シャキシャキのレタスとカリカリのベーコン、そこにトマトの甘みと酸味が加わって…。
うん、やっぱりBLTサンドにはマヨネーズよりタルタルだな。
「美味い!」
ドラゴン娘もお気に召したようだ。
「パンも野菜も良いが、この肉が美味い。これは燻製肉か?」
「それはベーコンて言ってな、塩とスパイスで漬け込んだ肉を乾燥しない程度に燻して…」
そのまま和やかに朝食は進んだ。
昼や夜ならともかく、朝食を誰かと一緒に取るのは何時振りかな―――