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ドラゴン娘とラノベ作家の現代生活  作者: 福耳 田助
序章:ドラゴン娘と出会う
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4.ドラゴン娘とラーメンを作る


 という訳で場所は変わって台所。

 テーブルの上に、冷蔵庫からも材料を出して並べていく。


 まず丸鶏を一日煮込んで作った鶏スープ。

 この丸鶏は近くの農家で潰した廃鶏を安く譲ってもらったものだ。

 年を取った鶏は肉は固すぎて食えないが、煮込むと良い味の出汁が出る。


 続いては煮豚。

 これも同じ農家で、枝肉を割安で譲ってもらえた。

 煮豚は三日前に仕込み、それからずっと汁に漬けたまま冷蔵庫で寝かせてある。

 そうすると芯まで味が染みるのだ。


 半熟煮卵。

 煮豚の煮汁を薄めて作った漬け汁にスライス生姜を加え、ゆるめの半熟卵を一晩漬けてある。

 漬ける前に楊枝や竹串で穴を開けてやると短時間で黄身にまで味が染み込み、同時に余分な水分が抜けて半透明のゼリーのような黄身に仕上がる。


 長葱。

 農協の直売所で買ってから外の雪に埋けておいた葱。

 雪に野菜を埋めると保存が効くし、栄養や甘みが増す。

 ただし野菜の種類によっては、余りに低温で冷やすと変質して駄目になる物もあるので注意が必要だ。


 最後に麺。

 これだけは市販品だが、他の商品と比べるとかなり高い長期熟成麵を選んでいる。

 この麺は確りと小麦の味が感じられてとても美味しい。


 使う材料を全て用意し終えたら、まず麺茹で用のお湯を沸かす。

 このお湯は後で丼を温めるのにも使うので多めに沸かしておく。

 この間に具の用意だ。

 と言っても煮卵はそのままで良いので葱と煮豚を切るぐらいしかする事は無い。


「さて作るか」

「我はどうすれば良い?」

「この葱を刻んでくれ。明日も使うんでその一本は全部刻んじゃって良いから」

「分かった」


 この場にグランディーネが居るのは本人の希望だ。

 只御馳走になるのも申し訳ないから手伝わせて欲しい、と。

 大してする事は無いと言ったのだが、本人の気が済まないようなので手伝って貰う事にした。

 お嬢様らしいので不安はあったが、多少ぎこちなさはあるものの出来ない訳では無いようなので大丈夫だろう。

 俺は俺で煮豚を切っている。

 モモ肉の煮豚なので非常に薄切りだ。

 肩ロースやバラ肉なら厚切りでも美味いが、モモ肉は薄切りの方が美味い。


「ふぅ、全部切れたぞ」

「ああ、じゃあタッパー…その容器に入れてくれ。最後に上から散らすんだ」

「分かった…」


 返事を返し手を動かしながらも、グランディーネの目線が俺の手元の肉に釘付けになっている。

 や、やりずらい!


「…美味そうな肉じゃの。何の肉じゃ?」

「これは豚っていう家畜の肉だよ」

「ブタ?」

「豚ってのは…、ああそうだ」


 俺は一度包丁を置き、居間から一冊の冊子を持って来る。


「ほら、これが豚だ」


 俺が持ってきたのは農協が毎月近隣に配っている広報誌。

 お得な直売会の情報なんかが載っていて結構便利なのだ。

 そこに件の肉を分けてくれた農家が載っていて、豚の写真もあるのでそれを見せる。

 こうして見ると豚って中々可愛いよな。

 まぁその可愛いのの肉をこれから食う訳だけど。


「おお、豚というのは“ピグ”の事じゃったか!」

「…これも向こうにいたのか?」

「うむ、この絵を見る限り姿形は全く同じじゃな」

「…そうか。“人間”もそうだし、鶏といい豚といい、案外近い世界なのかもな」


 言いつつ、俺はグランディーネに切ったばかりの煮豚を一枚差し出す。


「味見してみるか?」

「(ごく)…い、いやそのような行儀の悪い事は!」


 そう言いながらも目は釘付けである。


「味見だよ味見。作り始めてからなんだけど、この世界の食べ物がグランディーネの口に合うか分かんないからな。スープをいい匂いって言ってたから味覚もそう違わないとは思うが、どうせなら美味い物を食って欲しいし」

「そ、そうか!そういう事なら一つ頂こう!」


 薄いが大振りな肉を嬉しそうに受け取り、そのまま半分ほどを噛みちぎるようにして口に入れる。


 もぎゅもぎゅ…くわっ!


「うおっ!?」


 いきなりカッと目を見開かれ、ちょっとびっくりした。

 無言のまま残る半分を口に入れ咀嚼。

 ど、どうだったんだ?

 何も言わないけど、食べてるからには不味いという事は無かったんだと思うが…。


「…まい」

「ん?」

「美味い!美味いぞコーヘー!」

「お、おお、そうか」

「ピグの肉は何度も食べた事はあるが、こんなに美味いピグ料理は初めてじゃ!コーヘーは宮廷料理人なのか!?」

「い、いや俺の仕事は作家だよ。料理は只の趣味だ。プロの料理人ならもっと美味く作るさ」

「これでも途轍もなく美味いのに、本職の料理人はこれ以上じゃと言うのか…!異界の料理人は凄いのじゃな…」


 大袈裟と思わなくもないが、絶賛されて悪い気はしない。


「…もう一切れ食う?」

「食べるぞ!」


 ついもう一枚差し出してしまう。

 嬉しそうに肉を頬張る姿は何だかほっこりするね。


「コーヘー、湯が沸いとるぞ?」

「と、いかん」


 二枚目を食べ終わり、名残惜しそうに指に付いている煮汁を舐めるグランディーネに言われ、急いで残りの煮豚を切り終え、スープの仕上げにかかる。

 ラーメン屋ならばスープとタレを別々に作って直前で合わせる訳だが、素人料理なのでここはスープに直接味付けをしてしまう。

 ガーゼで出汁ガラを濾したスープに煮豚の煮汁を加え、塩で味を調整。

 更に隠し味として市販の鰻のタレを少々。

 市販のタレやソース類というのは旨味の宝庫だ。

 隠し味として上手く使うと料理のコクと深みが増す。

 他には天丼のタレや焼き鳥のタレもお薦めである。


 スープに向き合う俺の後ろでこっそり三枚目を摘み食いするグランディーネに気付かない振りをしつつ、一口味見。


「…うん、こんなもんか」


 これで具もスープも準備オーケー。

 さぁ、いよいよ麺に取り掛かろうか!


「あちち…」


 先に鍋のお湯を丼に注ぎ、それから麺を投入、キッチンタイマーを一分三十秒でセット。

 麺用の湯切り笊は無いので普通の笊を用意。

 それから綺麗な布巾をグランディーネに渡す。

 …口の端にタレ付いてるぞ。


「グランディーネ、丼のお湯を捨ててからその布巾で拭いてくれ」

「?この湯には何の意味があったんじゃ?」

「単に丼を温めただけだよ。食べてる間少しでも冷めづらくするためだな」

「成程のう、細かい事にも気を使うんじゃなぁ…」


 なんか変な所で感心されとる。

 まぁ日本人の食に対する情熱は変態的なレベルだしな…。

 それはさておき、用意された丼に作り置きの鶏油チーユを落とす。

 すると固まっていた油が丼の熱で見る見る溶けて、何とも言えない良い香りが広がる。

 その匂いを嗅いだだけでグランディーネは何とも幸せそうな顔だ。


 ピピピ ピピピ ピピピ―――


 丁度のタイミングで麺が茹で上がり、急いで笊に上げ手早く湯切り。

 片手で湯切りをしつつ、もう片手で丼にスープを注ぐ。

 丼に麺を投入しスープの中で軽くほぐしてから具材をトッピング。

 因みにメンマはあまり好きじゃないので載せない。

 店で載ってる分には食べるけどね。

 俺の分はチャーシュー三枚、グランディーネの分は五枚載せてやる。

 更に煮卵を載せ、葱を散らして…


「完成!」

「おお~!」


 自家製鶏ガラ醤油ラーメン出来上がり!





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