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ドラゴン娘とラノベ作家の現代生活  作者: 福耳 田助
序章:ドラゴン娘と出会う
3/37

3.ドラゴン娘、無言で空腹を訴える


「じゃあ心当たりは無いのか?」

「うむ」

「帰る方法も?」

「全く分からん」


 ミルクと砂糖たっぷりの甘いコーヒーを飲む――ブラックはお気に召さなかったらしい―――彼女と向かい合う。

 お互いの知識―――俺のは漫画ラノベ知識だが―――の擦り合わせの結果、やはりこれは異世界転移だろうという事で見解は一致した。

 しかし彼女には全く心当たりは無いという。

 見聞の旅の途中、野営をして気付けばこの状況だったらしい。


「ヒントも何も無いんじゃあなぁ…」


 きゅるる…


「ん?」


 頭を悩ます俺の耳に、何やら可愛らしい音が聞こえてくる。

 音の発生源に目をやると、仄かに頬を染めるグランディーネの姿が。


「…腹減ってんの?」

「…うむ」


 恥ずかし気に顔を俯けながら、消え入りそうな声で返事をする。


「恥ずかしい話じゃが、丸一日ロクに食べていないのじゃ。地図が古かった所為で補給の当てにしていた村が廃村になっていた上、狩りをしようにも獲物も全く出ず…」


 寝る前に最後に残った保存食の堅パンを齧ったのが最後だと言う。

 そりゃ腹も減るか。


「それに先程から何やら良い匂いが…」

「匂い?っ鍋!」


 やべえ忘れてた!

 慌ててストーブに載せっぱなしになっていた鍋を覗き込むが、多少煮詰まった感はあるものの、焦げたり沸騰し過ぎたりはしていない。

 というかストーブの火が消えかかっている。

 そういやそもそも薪を取りに行ったんだった。


(クーク)のスープか。旨そうじゃの…」


 俺の肩口から顔を出し鍋を覗き込んでくるグランディーネ。

 真横に美人の顔があるのもあれだが、背中になんかすごい柔らかい感触が!


「…この国じゃニワトリって言うんだが、そっちにも同じような鳥がいるのか?」


 それは結構重要な情報の気がする。

 背中の感触を務めて無視しながら尋ねる。


「うむ、“クーク”といって、農村などで飼われている家畜じゃ。普段は卵を産ませて年を取ったら潰して肉にするのじゃが、年寄りの肉だからとても固い。それでも庶民にとってはごちそうじゃ。王侯貴族や金持ちの為に食肉用として育てられているものもあるが、こっちは高級品じゃな」

「うーん、同じ種類の生き物なのかな?」

「全く同じかは分らんが、少なくとも匂いは同じじゃな」


 話しつつもグランディーネの目線は鍋に向けられたまま動かない。

 ていうか涎、涎!


「…食べるか?」


 しかしいざ尋ねるとグランディーネはハッとした様子で離れ…ああ、もうちょっとくっ付いて…いや違う、そうじゃない。


「い、いや、有難い提案じゃが、そこまで世話になる訳には…」


 きゅるるるる…


「…」

「…」


 気まずい沈黙が…。


「…もう夕食時だし、自分の分も作るついでだからから気にするな。一人分も二人分も大して変わりゃしない」

「…馳走になる」

「まぁ実はこのスープがメインて訳じゃないんだけどな」

「こんなに手の掛かってそうなスープが、メインでは無いのか?」


 グランディーネは驚いているが、言うほど手間は掛かってない。

 下拵えした材料を鍋に放り込んだ後、ストーブに載せて時々あくを掬って放置しただけ。

 細かい火加減の利かない点だけは難だが、薪ストーブは煮込み料理には大変便利である。


「このスープはあくまで材料の一つ。メインには麺を使う」

「麺?麵料理にこんなに沢山のスープを使うのか?」


 不思議そうな様子から察するに、恐らく彼女の世界の麵料理はこちらで言う所のパスタのような、スープに浸すのではなくソースや具と絡めて食べる類の物なのだろう。

 ひょっとしたらスープを使う物もあるのかもしれないが、少なくともグランディーネは知らないらしい。


「ああ、“ラーメン”ていう料理だ」




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