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ドラゴン娘とラノベ作家の現代生活  作者: 福耳 田助
序章:ドラゴン娘と出会う
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2.ドラゴン娘と出会う


「薪割り薪割り、と」


 厚手のジャンバーを着込み、台所の勝手口から直接ガレージへ入る。

 二台分の駐車スペースがある大型ガレージの半分は薪と薪割り台で埋まっており、わが愛車(中古ワンボックス)がもう半分を占めている。

 薪ストーブは手入れも薪の用意も大変だが、暖房効率はかなり良いからな、手間さえ惜しまなきゃあ安上がりだ。

 早速丸太を切り出して作った薪割り台に薪を載せ、拘って買った鉞(スイス製)を用意する。

 薪割りは思い切って振り下ろすのがコツだ。

 頭上に鉞を振りかぶり、正に振り下ろそうとした瞬間…。


 ドッガァァァァァーーーーーーン!!!


「ぬおぉっ!?」


 何だ今の!?

 てかあぶねぇ! 足ぶった切るとこだった!


「雷か…!?」


 まさかその辺に落ちたのか?


「林に火でも着いてないだろうな…」


 俺は鉞を放り…もとい丁寧に立て掛け(高かったのだ)、慌てて飛び出す。

 若干弱まってきた吹雪の中周囲を見回すと、一本の木が真っ黒に焦げて倒れているのが目に入った。


「うわっちゃぁ…」


 この付近に生えている樹木の中では一番大きかった奴だ。

 それが根元から折れてしまっている。


「直撃か…。火は着いてないみたいだけど、これって通報とかした方が良いのかな?…ん?」


 木の根元に何か動くものが見える…?

 狐でもいたのか?

 …人じゃねーだろうな


「一応確認しとくか、人じゃなくても狐とかだったら放置も可哀そうだし」


 余談だが、野生の狐にはエキノコックスという寄生虫がいるので、絶対に触ってはいけない。

 北海道では山に近い場所だと町の近く、下手をすれば町中でも狐が居たりするので要注意だ。


 …それはさておき。


「………は?」


 姿を確認した瞬間、思わず固まってしまった。

 そこにいたのは、“人”だった。

 いや、正直人かは分からんが、少なくとも大まかには人型だ。

 何故断言できないかと言えば、色々とあり得ない点が多すぎる。


 まず人種、間違いなく日本人ではない。

 染髪とは明らかに自然さが違う黄金色の髪と、日に焼けた様子など全くない白い肌。

 目を閉じているから瞳の色は分からんが顔立ちは東欧系で、二十歳は越えてないだろう

 今時外国人など珍しくもない、と言われればその通りだが、観光地でもないこの町では外国人を見る機会などまず無い。

 少なくとも俺は知らん。

 かなりの美人さんだから噂になってもおかしくないだろう。

 …ついでに言うと中々素敵なスタイルをしてらっしゃる。

 特に胸部装甲が素晴らしい…いや失礼。


 服装も可笑しい。

 何というか、ナイトドレスっぽい形状の貫頭衣とでも言おうか、とにかく背中が完全に空いているのだ。

 おまけに足元は素足にサンダル。

 サンダルといっても突っ掛けて履くタイプではなく、古代ローマ人のような、足首やふくらはぎの方まで巻き付けるようにして履くあれだ。

 言うまでも無く真冬の北海道で外を出歩く格好ではない。


 だが何よりおかしいのは…。


「角と、翼と、尻尾が生えとる…」


 そう、その女の子の体には、ドラゴンのようなそれらが付いていたのだ―――


      ♦     ♦     ♦     ♦     ♦


「参ったねおい…」


 俺は目を覚ます様子の無い女の子を抱えて家に戻って来た。

 得体の知れない存在ではあるが、流石に放置も通報も忍びない。

 取り敢えず居間の真ん中に寝かせて毛布を掛けている。


「どうすりゃいいんだ?」


 頭を抱えるが妙案は何一つ浮かばない。

 角や尻尾の有る女の子を拾った経験のある奴がいるなら、是非教えてほしい。

 そのまま悩むこと数分、なんて言えば良いのか分からんがやはり消防か警察か、と考えたところで…。


「う…ん…?」

「!」ザザッ


 目を覚ましかけているらしい女の子から、俺は思わず距離を取って身構えてしまう。

 当然だ、放っとけなくて連れてきたが、どう見ても人間ではない。

 どういう存在かは分らんが、もし人間に対して敵対的な生き物だったら―――?


「むぅ…?」


 内心ビビりながら見守っていると、やがて女の子はゆっくりと身を起こし、ぐしぐしと両目を擦る。

 両手の甲でぐしぐしする姿は子供っぽくてちょっと可愛い。

 半ば寝惚けたままの目をこちらに向け、俺と目が合うとそのまま動きを止める事数十秒。

 ていうか瞳が真っ赤なんですけど! 形もちょっと爬虫類っぽいし!

 やっぱ人間じゃねえ!


「…ここは何処じゃ?其方は誰じゃ?」


 その瞬間俺は言い知れない感動に包まれた。

 のじゃ口調だ! のじゃロリじゃないけどのじゃ少女だ!

 まさか、のじゃ少女と話す機会が来ようとは!


「おい、どうしたのじゃ?」


 感動に打ち震える俺にのじゃ…いや、謎の少女は訝し気に声を掛けてきた。

 いかん、つい感動のあまり固まってしまった。

 少なくとも話は出来るようだし、今は取り敢えず返事を返さねば。


「…俺は大原公平、ここは俺の家だよ。外で凄い音がしたんで見てみたら君が倒れてたんで、家に運んだんだ」

「そうなのか?良く分からんが世話になったようじゃのう。礼を言うぞ」


 言いながら女の子はぺこりと頭を下げる…どうやら悪い子ではなさそうだ。


「名乗り遅れたが、我は“天竜”グランディーネ。竜神山脈の頂に住まう竜族の長が娘じゃ」


 あ、やっぱドラゴンなんだ…。

 後に何故人型なのかと聞いた所によると、本来の姿はやはり俺の想像通りの所謂ドラゴンらしい。

 しかしそれだとデカいし手は使えないしで不便なので、ある程度高位の、文明を築くような竜族は普段は人型で生活するのが普通なんだとか。


「所でここが其方の家というのは分かったが、それは一体どこにあるのかの?どうも我が居たはずのドルド大陸とは空気が違うようだが」


 わー、全然知らない地名が出てきた。

 しかも島とかじゃなくて大陸。

 これはやっぱあれか? あれなのか?


「…ここは日本という島国の、北海道という土地だ」

「ニホン?ホッカイドー?聞いた覚えが…いや待てよ?」


 形の良い唇に指を当てて、何やら考え込むグランディーネ。

 美人は何やっても絵になるね。


「…思い出したぞ。昔異界から召喚された勇者の故郷が、確かニホンとか言ったはずじゃ」


 俺が軽く現実逃避している間に、記憶を掘り起こしたらしい彼女は、


「という事は…」


 決定的な事を口にした。  


「ここはまさか、異界か?」


 ―――俺ももう現実は見えている。


 トラックに轢かれたって異世界転生なんかしない。


 異世界のお姫様に召喚なんかされない。


 学校や町ごと異世界に転移する事もない。


 実は社会の裏で謎の組織が暗躍してたりしない。


 何よりも、もし仮にこれらが現実にあったとしても、中年に片足突っ込んだアラサー中堅ラノベ作家なんぞお呼びじゃないだろう。


 だが、向こうから来る場合はあるようだ―――





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