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4.

 自動人形オートマタ

 それは、主に中世から近世のヨーロッパで作られた機械人形のことだ。スイス・ドイツの時計技術とオルゴールの誕生による発条ぜんまいばねの発達と、ルネサンス以降の芸術の道楽化、そして時計技師達の気が遠くなるような凝り性の上に生み出された、機械仕掛けの西洋からくり人形。

 それらは、例えば踊ったり、オルガンを弾いたり、つとに人間らしい動きをするのだ。高級時計メーカー『ジャケドロー』の創始者、ピエール・ジャケ・ドローの作品の動画を見たことはあるけれど、あれはとんでもない。私はもうくまちゃんなので見られないと思うけれど、一回見て欲しい。少年の人形が、鉛筆でそれはそれは精巧な犬の絵を描くのだ。しかもそれらの作品は、ルイ16世やマリー・アントワネットを始め、当時の王侯貴族達に披露されたらしい。何たる歴史浪漫! キャー!

 そして、その後19世紀の中頃にフランスではオートマタの工房が登場し、100年近く庶民の楽しみとして、オートマタが広く人口に膾炙するようになったのです。人形達は、当時最先端の瀟洒しょうしゃなファッションを身につけ、驚く程複雑な動きを行い、オルゴールの賑やかな音色に乗って大勢の目を楽しませました。その時代のオートマタ作家と言えば、テルード、ボンタン、ヴィシー、ルレ・エ・ドゥカン、ランベール……嗚呼、素晴らしきオートマタ達よ!


「まあ、“からくり儀右衛門”田中久重の弓曳き童子とかも最高なんだけどね!」

「君は……何を言っているの?」


 少年は、ぽかーんとした表情で私の言葉を聞いているのだった。ふふん、どうやら私の大演説が余程心を打ったと見えるぞ。

 まあそれは置いといて、オートマタの歴史は兎も角、敵意がないと言う事は伝わったらしい。ならば、ちゃんと色々と説明してもらわねばいけませんわね。


「で? 百歩譲って私がオートマタという事は認めるけれど、何で私がモンスターなのよ。こんなに可愛いくまちゃんなのに」

「えっ、えっ。……あの、ちょっと、待ってね」


 少年は、まだ覚束ない足取りで廊下の向こうへと引っ込んで行く。そして、すぐに一冊の分厚い本を持ってくるのだった。『Monster Zukan』と書いてある。いやいやローマ字かよ、間抜けだな。


「確かここらのページに……あった。ほら」


少年が指差すページには、オズの魔法使いで見るようなブリキめいたロボットが両手を挙げている絵と、それから逃げる少年の絵が描いてあった。なんだか、戦後すぐの少年雑誌の付録みたいなダサさがある。


「えー、何々? この、もんすたー、は、きか、い、せ……読み難っ! ローマ字読み難っ! 読んで!」

「う、うん。『このモンスターは機械生命とも呼ばれ、その形態はロボット、からくり人形、ぬいぐるみなど様々である。動力は不明だが、魔力に関係するものと思われている。総じて人間への敵意を露にし、攻撃を仕掛けてくる』」

「……いや別に私、人間を恨んでないわよ」

「でも、僕に殴りかかって来たし」

「あ、あれは……あれよ! 親愛のぱんちよ!」

「死ねって言ってなかった……?」


 言ってたような気がしますね……。


「まーあ、とにかく! 私はくまちゃんになってしまった普通の女の子よ。モンスターじゃないわ。名前は吉良科暮葉、よろしくね」

「う、うん……? ええと、僕はテュコ。テュコ・オスカリウス。この“ねずみの王様工房”の店主だよ、よろしく、クレハ」


 店主……? 随分若いな。


「ええ、よろしくね」


 私は、そっと手を差し出す。

 テュコは、暫く間の抜けた表情で私の事を見つめていたが、やがて指で私のほわほわな手を優しく握って、ゆっくりと握手をするのだった。


 その瞬間だった。ばこん、と馬鹿みたいな爆発音が響いたのは。

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