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16.

「テュコ、起きてたの!? てゆーか、身体は? 大丈夫?」

「クレハ、随分叫んでたから、起きちゃったよ。ふあ……まだちょっと痛いけれど、一応大丈夫だよ。……よいしょ」


 テュコは、レジの残骸を蹴って移動させる。すると、そこには場違いなドアが現われた。床にドア。何だか、不思議の国のアリスみたいだな。

 ドアノブを回してドアを開ける。すると、真っ暗闇の中に、石造りの階段が続いているのだった。


「……“ロッテリア”って、何なのさ」

「“コッペリア”ね。いつになったら覚えてくれるのー?」


 テュコは冗談めかしてくすくすと笑ってから、寂しそうな目で、そこを見つめていた。

 そうして、ランプに灯を入れて「人形だよ」と呟く。


「お爺ちゃんの最高傑作だって、呼ばれてた。お爺ちゃん、有名な“人形師ニンギョウシ”なんだ。王様に幾つも献上してたくらい。昔は弟子もいっぱい居たらしいけど……やっぱり、人形って流行はやりじゃ無いから」


 独り言のように呟きながら降りていくテュコの後を、よじよじしながら降りてゆく。一段一段が意外ときつい。と、テュコは私の体たらくに気がついたのか、私の身体を抱えると、肩の上に乗せるのだった。


「インコかよ」

「あはは……」

「で……そのコッペナントカは、もう無いって?」

「盗まれちゃったんだ」


 かつーん。かつーん。

 ゆっくりと階段を降りてゆく。


「お爺ちゃんのお葬式の夜だった。お爺ちゃんを埋葬して、家に帰ってきたら、この、お爺ちゃんの工房の扉が開いてて……変な落書きまでされてて。お爺ちゃんの最高傑作だったのに」

「そんな、凄い人形だったの?」

「お爺ちゃんは、生きた人形を作ろうとしてたんだ」


 小さな部屋にたどり着いて、テュコは私を床に下ろす。四方を石で囲まれた地下室。ランプの灯が、一つ、二つ、点されてゆく。


「ここでお爺ちゃんはコッペリアの研究をしてた。生きた人形なんて、僕には良く分からないけれど……でも、お爺ちゃんは本気だった。本気で、オートマタを作ろうとしてたんだ。コッペリアは、僕と同じくらいの身長の、女の子の人形。今でも覚えてるよ。綺麗な顔してた。ブロンドの長い髪、真っ赤なゴシックドレス、可愛いパンプス。魂を移す為に、色々やってたんだよ。研究の為にオートマタ捕まえたり、ほら、その床に書かれた魔方陣も、魂を人形に入れる為の実験で……ああ、そう、この写真がコッペリアだよ。……クレハ? どうしたの? クレハ?」


 私はもう、それから目が離せなかった。

 テュコが私の事を呼んでいるが、もう、そんな事は関係が無い。


 私は、分かってしまった。


 違うんだ。

 コッペリアは、盗まれたんじゃない。


 “自分の力で、外へ出て行ったんだ”。


 真っ暗な部屋には、かつてコッペリアが座っていたのだろう、ビロード張りの瀟洒な椅子がぽつんと置いてあった。

 そして、その後ろの壁には、テュコの言う“落書き”が書かれている。


 いや、落書きであるものか。

 この世界の全員にとって落書きであろうとも、私にとっては、断じて落書きなどではない。


「“人形は死んでいるから人形なのだ。故に、この世界は間違っている。”……」


 音読してしまう。

 赤いペンキで縦に書かれているのは、日本語の楷書だった。


 ひやりとした凜々しさを感じられる字で。

 端正で、清らかで、何物も寄せ付けない永久凍土のような字で。


 見覚えのある、字で。


 紛れもなかった。

 紛れもなく、待本雛子の字だった。

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