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記憶の花と悪魔の神様  作者: うさぎ荘
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第八話 「神様という名のホントは悪魔」

その異様なお出で立ちにただただ仰天するばかりの私は腕で顔を隠し、悲鳴を上げた。


その化け物のような者は私の方へ近付き、私の腕を取って恐ろしいほどに睨みつけてきた。


「おい、お前今悪魔って言ったよな?」


「ひ・・・ひえ、言ってません・・けど・・。」


私はその昔、祖母から言われた事を思い出して、もしかしたらこの方が悪魔と言ってはおいけないお方!?と思い、瞬時に訂正した。


その方はしばらく睨んだ後、まじまじと顔を覗き込んだ。


「お前、もしかして・・・美津子か?」


その時、その方の表情なのだろうか、目や口の大きさまで変わった気がする。


そして私は、はっきりと祖母の言葉を思い出した。


「もしかして、あなたは神様ですか? 」


祖母は神様を見ても決して悪魔と言ってはいけない、と言っていた。


この目の前にいる異様な方がきっと神様なのだろう。


神様は不思議な雰囲気だ。


さっきまでは一瞬で飲み込まれてしまいそうな怖い表情をしていたのに、今はとても優しく愛おしそうに私を見つめてくる。


「美津子に似てるが、美津子の親戚か?」


「あなたがこの祠に住んでいる神様なんですね?」


神様らしき人は私の頰を片手で掴み強めに握った。


「何でさっきから俺の質問に質問で返すんだ?俺が先に質問してんだ。答えろ!」


私は涙目になりながら「みぃふぅほぉはぁはひのそほへふぅ。」(※美津子は私の祖母です)


と一生懸命しゃべりづらさと恐怖心を堪えて答えた。


「何だ。美津子の孫か。どおりで青臭ぇと思ったぜ。」


神様は私の頰を掴んでいた手を離し、少しがっかりしたような雰囲気を醸し始めた。


「そういやついこの前あいつに別れの挨拶したような気がするしなぁ。」


「じゃあ、やっぱりあなたが神様なんですね?」


「いや、どちらかというと悪魔だな。」


「じゃあ悪魔様、今回この町で・・・。」


私は再び頰を掴まれた。


「俺が悪魔に見えるのか!?悪魔顏してるのか?」


「いいふぇ、かふぃざふぁでふぅ。」(※いいえ、神様です)


「そうかぁ、神様かぁ?俺神様かぁ?見えちゃうのかよー。困っちまうなぁー。」


私は心底ムカついた。


こんなに怖いのに殺意を感じている自分が不思議だった。


一旦落ち着いてから私は今までの町の様子や出来事を話した。


内心この人に頭は下げたくないな、と思いながらも説明した。

意外と神様は真剣に聞いてくれた。


話を聞いている時の神様もまたさっきとは違う表情をしていた。

私にはこのお方は神様にも悪魔にも見えなかったが、本人が神様と呼ばれる事を望んでいるのだから仕方なくそう呼ぶ事にした。


なぜそう見えないのかはこのお方がとても中途半端なのだ。

まず頭の上に二本の角が生えていて、歯が牙だったり耳が尖っているのが悪魔っぽい。


顔や頭の形は人間と大して変わらない。


髪の毛は綺麗な真っ白の長髪で妙に神々しい。


ただ、前髪が片目を隠す程長く、そこから覗かせる目が余計に怖い。

初めて会った瞬間は目も口もあんなに大きかったのに、祖母の名前を口にした途端、急に小さくなった。


そして私の頰を掴んだ時は目が思い切り吊り上がり、まるで悪魔のようだと恐怖に感じる程だった。


きっとこのお方は神様に選ばれず、地上に堕ちてやさぐれてきたのだろう。

私はそう思う事で自分を納得させた。


神様は最後まで私の話を聞いた後、ゆっくりと話し出した。


「記憶の花だな。」


「記憶の花?何ですか?」


「あぁ、それは後で説明するが、まずは契約からだ。今の状態のまま説明しても理解しにくいだろうからな。」


そう言うと神様は私の頭を鷲掴みにし、力を込めていく。


痛い!痛い!と叫んでいると、ふと体が浮かんでいくような軽さを感じた。


いや、実際に浮いた。


浮いて、浮いて、自分の体が見えた程だった。

えっ?自分の体が下にある・・・。


「おー、抜けた抜けた。」


「ど、どういう事ですか?何してくれてるんですか!?」


「まずはこっちの世界に来ないとわからないからな。」


「全く意味がわかりません。ちゃんとわかるように説明してください。大体、こんな事しないとわからないって・・・。」


「あぁ、うるせぇ、うるせぇ。今説明してやっから。」


私はこれ以上ごねるとまた頰を掴まれそうなので黙って聞く事にした。


「まず、ここは『こっちの世界』であって『こっちの世界』ではない。」


「ここは、俺達のいた『向こうの世界』と『お前達の住んでいる世界』の間にある、いわば『狭間の世界』だ。」


「わかりました。ここは『死後の世界』って事なんですね?」


「いや、それはそれでまた別にある。」


久々に真剣に答えた私、思いっきり恥かいた。

顔が真っ赤になるも意外と神様は優しく説明を付け足してくれた。


「実際にお前は死んだ訳じゃないし、俺はお前の魂を抜いた訳じゃない。お前自身がこの『間の世界』に来てんだ。どうだ?わかりやすい説明だろ?」


全く理解出来なかったが、とりあえず、理解してなくてもいけるだろう、と頷いた。


「ただ、お前の本体がこのままだと何も摂取しないから数日経ったら死んじまう。祠の中なら俺が喰らうまでは余裕で保つから入れとくぞ。」


そういうと、神様は祠にある小さい扉を開けて無造作に私の本体を放り投げた。扉の中は普段見ていた時よりも広かった。



「ちょっと、私の体、もっと大切に扱ってください!」


「どのみち、俺に喰われるんだからいいだろ。」


「食べるってどういう事ですか!?」


「契約したじゃねぇか。お前言ったよな?自分はとうなっても構わないからこの町を救ってください、って。」


「確かに言いましたけど・・・。」


「この町は『記憶の花』を破壊すれば元通りになる。全てがな。」


私は目を大きく見開いて驚きながら神様に駆け寄り、質問した。


「本当ですか?この町も、いなくなった人達も、皆元通りになるんですか!?」


「あぁ、なるさ。大体、あいつらはいなくなっちゃいない。見えなくなってるだけだからな。」


「良かった・・・。」


私はほっとすると同時に涙目になった。


「まぁ、そうなった暁には契約が成立する。その報酬として、俺はお前の本体をひと呑みして『向こうの世界』に帰れるって訳だ。お互い得な話だろ。」


私は覚悟していた。

どんな事があってもこの大好きな町や人を守るって。

救ってみせるって。


でもこの町を救う条件が私の命?

皆には何て説明すればいいの?

皆を助けた代わりに私食べられちゃいましたー、ってか。


って、私が死んだ後の事はどうでもいい。

皆が助かればそれでいい。

皆、悲しんでくれるのかな?


泣いてくれるかな?


私はそれを思うと悲しくて、寂しくて涙がこみ上げてきた。


「安心しろ。お前が喰われる時は、皆からお前に関する記憶が無くなってるからな。」


「えっ?」


「当たり前だろ。お前の記憶があるのにお前がいなかったら大変な事になるだろ?」


「そ・・そうですよね。」


「だから安心しろ。記憶の花を破壊して皆の記憶が戻る前にパックリいってやるから。」


「はい・・・お願いします。」


私はとても気が重くなった。

将来自分を喰い殺すお方と一緒にいなければいけないなんて。


「それでそれを決行するのはいつなんですか?」


「あぁ、それを今から説明してやる。その前にこれを飲め。」


今、私の目の前には何色とも言えない飲み物がコップに入って出てきた。


「な、何ですか?これ・・・。」


「これからお前に三種の神具を渡す。これはその一つ目だ。」


「それで、これは何の成分が・・・。」


「つべこべ言わず飲んだ方が良いと思うが、まぁ、死ぬ訳じゃないからな。」


私はまず臭いを嗅いだ。とてつもない臭いがする。下水から汚物を含んだまま汲み取ったような、鼻の曲がるような臭いだった。


こんなのを味わってたら大変な事になりそうだったので、私は鼻をつまんで一気に飲み干した。


「おぉ!良い飲みっぷりじゃねぇか。じゃあ、本題に移るか。」


「そ、それで何が入って、何のための飲み物なんですか?」



「成分はトカゲの尻尾、ヤモリの糞に死んで乾燥させた蝉を砕いたのと蛙の内臓に山椒魚の白子に・・・。」


もう少しで私は飲んだ物全てを吐き出すところだった。


「も、もういいです。それじゃこの効果を・・・。」



「あぁ、それはな、この『全ての真意を見出す眼薬』の効果で、世の中の全てを見る事が出来るんだが・・・。」


「えっ?何の薬って?」


「だからぁ『全ての真意を見出す眼薬』だよ。」


「何ですか?その名前。変すぎますけど・・・。」



「名前の事はいいからあっちを見ろ。」


神様の指を指した方向を見てみたが、何も見えなかった。


「何も見えませんけど・・・。」


「これは集中しないとよく見えるようにならん。息を整えてからあの辺りを集中して見てみろ。」


私は言われた通りに深呼吸をし、集中して神様の指し示した方角を見続けた。


「あっ、何か薄っすらとですけど、見えてきました!」


「もう少し集中して見てみろ。もっと見えてくるはずだ。」


私は更に集中して見てみた。


「・・・えっ・・・。」


私は声を失った。

あれに驚き、恐れた。


「な、な・・・・・・何ですか・・・あれ・・・。」


「あれが『記憶の花』だ。あれを認識しないと話が始まらないからな。」


こんなに遠くから見ているのに、あんなに大きいなんて。


そこには何か巨大建造物のような巨塔のような、太くて長い柱のような樹木が何重にも絡み合い、海から雲を遥かに越した高さまで伸び、その柱のような樹木から垂れ下がった、人間が千人は乗れるであろう面積を誇る葉に、うちの裏山くらいはある大きさの花のつぼみが数十個は付いている巨大なそれを、神様はそれを「記憶の花」と呼んでいた。


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