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記憶の花と悪魔の神様  作者: うさぎ荘
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第五話 「瀧君という名の初恋」

私はこの春、高校に入学した。


中学までの同級生も半分くらいは同じ高校に進み、他の地域から来ている人もさほど多くはなかったので、人見知り気味の私としては緊張し過ぎずに学校生活を送る事が出来た。


祖母の死から三年近く経ち、私達は少しずつ変わっていった。


瀧君は声変わりをして、髭も濃くなった気がする。


相変わらず手先が器用で、小学生の時は図画工作のコンクールで郡の代表に選ばれた。


中学の時は美術の作品コンクールで、美術部でもないのに県の主催するコンクールにまで進む事が出来た。


順調に評価の上がっている瀧君は私の誇りでもあるが、何だか遠い世界へ行ってしまうかのような寂しさを覚えた。


だが、何より驚いているのは史香ちゃんだ。


この三年弱でグッと大人っぽくなった。


髪の手入れは以前よりも念入りになったようで、艶やかな髪は更に艶を増している。


栄養バランスの良い食事をしたいと私の朝食やお弁当の手伝いをするようになった。


そして、自らの意思で色々な習い事を始めた。

習字、そろばん、華道、英語に日本舞踊。この子はいつ休息しているのだろうか。

そしてどこへ進みたいのだろうか・・・。


しかし、私の目から見ると彼女は何か焦っているようにも見えた。それほど早く大人になりたいのだろうか。それも、自らのお小遣いや貯金を使ってまで・・・。


史香ちゃんに直接聞いてみた事はあるが、答えてはくれなかった。


ただ、学校で彼女が相当モテるのは事実だ。

夜、川之江家で私がご飯を作っていると同級生の男の子から電話がかかってくる。

私は小学生のうちから変な虫が付かないよう、厳しく「習い事に行っていますので。」と内容も聞かずお断りの対応をし、大半の男子は学校でも彼女に近付かなくなった。


用事は大した事ではなく、ただの連絡網だったり、クラスの数人で出かけるから史香ちゃんも・・・という小学生らしい内容だったのだが、私の過度な「居留守電話」には何も言わなかった。

ただ、その度に翌日に教室で電話してきてくれた男子に「昨日はお姉ちゃんが・・・」と説明し謝っていたらしい。


私は後になってそれを知り、自分の事を「良く出来た駄目な姉」だと感じた。


例外的におじさんは相変わらず何も変わっていない。ただの変態である。

でもそんなおじさんが私も町の人達も皆大好きだよ。

以上。


私はといえばちょっぴり背が伸びて、少しだけ胸が大きくなった。


この前なんか史香ちゃんと一緒にお風呂に入った時、どうしたらそんなに大きく育つのか、と羨ましがられた。


私は湯船の中で胸を張り、堂々と見せつけてやった。


しかし、実際にはどうして大きく育ったのか私にもわからなかった。


テレビや雑誌でこれがいいらしい。と聞くと何でも試してみた。


きっとそのどれかが良かったのかもしれないし、そもそも祖母も大きい方だったので遺伝なのかもしれない。


そんな都市伝説まがいな事を本気で信じ、継続するという涙ぐましい努力をして、結果大きくなった事を自慢する私であったが、この数年後・・下克上が起こり、史香ちゃんに完全敗北を認め、ひれ伏す事になるのを私はまだ知らない。


私が小学生の時から仲の良い友達も皆何かしら変化や成長を遂げている。


特に大した成長もなく、他の子達からも遅れを取っている私ではあるが、私も成長した事が一つある。


それは何といっても恋をした事だろう。


その相手は何とあの瀧君だ。


きっとこれを言ったら友達は皆

驚くに決まってる。


自分でもなぜ藤村のおじさんでないのか驚いているくらいだ。


しかし、一番仲の良い麻友ちゃんに打ち明けると「だろうね。」と、極めてそれが当然であるかのような反応だった。


私が驚いた顔をしていると「誰が見ても一目瞭然・・・だよ?」と、私の好きな人がばれていないと思っていた事に驚かれた。


きっかけは何だったか、いつの頃からなのかはわからないが、意識しだしたのは覚えている。


それは二年前に起こった、というか起こした、今だに東暖家、川之江家で一切話題にする事を許されない「ホステス事件」であろう。


事の起こりはある晴れた日曜日の午後、午前中にやるべき事を片付け、縁側でぼーっとしていた時の事、門をくぐり我が家の玄関に向かう一人の美しい少女がいた。


史香ちゃんだった。


縁側にいる私を見つけると玄関に向かっていた足をこちらに向けて歩いてきた。


私が頭を撫でながら愛でて、「どうしたの?」と聞くと、


「お化粧の仕方を教えて?」

ときたもんだ。


私は思わず口に手を当て「まぁ!」と、今日び田舎の女学生でもやらない反応をしてしまった。


私は身震いした。

全身が震えたのできっと武者震いだ。


史香ちゃんは今のままでも十分可愛い。

素のままでもこれ程なのに、化粧をしたらどうなってしまうのだろう?という想像もつかない世界に惹き込まれていた。


私も小さい時から母のしていたのを見てたし、祖母からも教わったりした。


だからお葬式の時も着付け以外の身支度は全部自分で出来た。


とても上手く出来ていたので大人達はびっくりしていた。


藤村のおじさんと廊下ですれ違った時も


「哲也の葬式の時のみっちゃんかと思ったわ。」


と呟かれた後、昔を思い出したのか、ずっと我慢していた涙が思い切り溢れ出していた。


つまり私は未亡人みたいってか?

十三歳にして既に未亡人だってか?


そんな憂いのあある色気を出せる私が施すのだ。間違いなく超が付く程の美人になる。


単純にその美人になった史香ちゃんを見てみたいという好奇心から快諾し、今日は私が化粧をしてあげるから、それをお手本にして少しずつ教えていくという事になった。



私は両親が休日出勤して誰もいない川之江家に上がり、おばさんの化粧台へと向かう。

「あれっ、瀧君は?」と聞くと部活だそうだ。


そういえばお弁当作ってあげた気がする。


お化粧してるとこを殿方に見られなくて良かったと胸をなでおろし、まずは洗顔から顔の拭き方、化粧水、乳液の染み込ませ方など基礎的な事を教えた後は私の腕の見せ所!


子供なのでなるべく自然に且つお化粧前より可愛いらしくをテーマに約十五分で完成した時には私が一番驚いていた。


あまりの可愛さに恐れで全身の震えが止まらなかった。


本人も驚きを隠せないようで鏡から一切目をそらせずにいた。


私も負けてられん!と鼻息を荒くして自宅へ急いで戻り、自分の化粧道具を持ってきては可愛くなった史香ちゃんに対抗心を燃やした。


今日もお肌の調子が良い。イケる!!


自分を褒めたくなるくらいの出来栄えだった。


その間もずっと史香ちゃんは鏡の前にいた。


そして、私の化粧が終わると、


「このまま買い物に行かない?ねぇ、行こうったらぁ!」


と今まで見た事もない子供な駄々のこね方をした。本来はこれが普通なのに、史香ちゃんの場合は相当な違和感があった。


確かにこのまま落としてしまうのは勿体無い。


とりあえず私達は写真を撮った。

並んで、まるで本物の姉妹かのように仲良く写っていた。

私達はたかだか夕飯の買い物のためによそ行きの服を着てバスに乗り、駅前の商店街に向かった。


今日はいつもより振り向かれる事が多い気がする。色々な所で視線も感じまくった。


何かくすぐったいような感じがしながらいつも行く八百屋さんと魚屋さんへと入った。


どちらのご主人も鼻の下を伸ばしながらいつもよりも更におまけしてくれた。


その後も商店街をブラブラしていると変な人に声をかけられるようになってきたので、私達は急いでバスに乗ったのだが、そこで史香ちゃんが痴漢に会いそうなとこを危うく私が救い、事なきを得た。


痴漢は藤村のおじさんではなかった。


周りに知り合いがいない場所というのは心細いものだと感じる。


あの藤村のおじさんでさえ頼りにしたくなる心境である。


家に帰るといつもより疲れがどっと出た。


しかし、この後、史香ちゃんが「お兄ちゃんにも見てもらいたい!」という提案をしてきた。


かなり疲れてはいたのだが、このままの格好でお兄ちゃんをもてなそうよ?という提案に、瀧君がどんな反応をするのかなぁ?と楽しみになったので「ホステスごっこだね!」と命名し、私も無駄なやる気が出てきてしまった。



瀧君が帰宅した。


私と史香ちゃんはおめかししたまま、瀧君を出迎えた。


当然、瀧君は度肝を抜かれた。


「お兄ちゃんおかえりなさい。荷物持つね。お腹空いたでしょ?ご飯出来てるから。」


完全に調子を狂わされた瀧君は着替えに部屋へ戻っていく。


その間に私達は普段使わない可愛いエプロンを付け直し、瀧君がリビングに入って来るのを待った。


果たして瀧君が戻ってくると、瀧君の座る椅子を引き、おかずを置き、ご飯をよそった。


私はコップを置き、まずは喉乾いたよね?と、みかんジュースを冷蔵庫から取り出した。


私は瀧君に密着するくらいの至近距離でみかんジュースを注いだ。


肩と肩が触れ合いながら私も自分のコップへみかんジュースを注ぎ、史香ちゃんのも注いだ。


三人は乾杯してゴクゴク飲んだ。


完全に瀧君は戸惑っていた。


史香ちゃんは里芋の煮物を瀧君の手前に寄せてきた。


「これ、私が作ったんだよ。」


瀧君を見つめる史香ちゃん、そんなに見つめられたら私だって食べられないけど・・・。


瀧君はそれでも里芋の煮物を口に運んだ。


食べ終わるまで無言で見つめる史香ちゃん。


「な、なんか、フミ、今日ちょっと違うな。」


「そんなの、お兄ちゃんに可愛く見てもらいたいからに決まってるよ・・・。」


「それより・・里芋・・・どう?」


「お・・・美味しい・・・よ・・・。」


「わぁ・・・嬉しいな・・・。」


史香ちゃんは嬉し恥ずかしそうに下を向きながら左耳に髪をかきあげた。


私はそっと瀧君を見た。

瀧君の鼻の下が伸びていた。


瀧君の左には私の胸が瀧君の左腕にむぎゅっと当たっている事に今気付いた私。


反対には顔を赤く染め上げながら上目遣いの美少女史香。


私はもう笑いたくて仕方がなかった。

「食べないの?冷めちゃうよ、はい、あーん。」

更に調子に乗ってしまい、「あーん」までしようとした時だった。


瀧君は顔を真っ赤にして部屋に戻り、そのまま帰ってこなかった。


私達はひとしきり笑った後、どうしようか真剣に悩んだ。


ドアをノックしても全然返事をしない。


部屋から出てくる気配もない。


やりすぎてしまった事に反省した私達は、部屋の前にご飯を乗せたお盆を置いて「ごめんね。」と一言謝ってから台所へ片付けに行った。


史香ちゃんの報告では翌日の朝、瀧君の食器は全部台所の棚に綺麗に片付けられていたし、何事もなかったように普通だったという。


しかし、この後、瀧君の前で「ホステス」、「鼻の下」、「可愛いエプロン」など当時を連想させる言葉は両家内にて絶対禁句となったのは言うまでもない。


ただ、今振り返ると、ホステスって可愛いエプロン付けたり里芋の煮物とか出したっけ?とどうでもいい考え事をしながら、あの時感じた電撃が走ったような感覚が気になって仕方がなかった。


それはあの時、瀧君に密着してみかんジュースを注いだ時だ。


肩が触れ合った瞬間、何か頭の上から足の先まで強い電流がはしったような気がした。


そして、その後胸の動悸が止まらなくなったのも・・・。


これが私が感じた残念な初恋の始まりだった。


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