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記憶の花と悪魔の神様  作者: うさぎ荘
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第十五話 「変えたいという名の未来」

その後も私は全速力で飛び、ついに縄柱の近くまでやってきた。


花のつぼみを見ると、もう咲く寸前になっている。


私は急いで向かおうとして、神様を見付けた。

神様は目の前の敵とずっと戦っていた。


神様はボロボロだった。


だが、目の前の敵は傷一つ付いておらず、疲れている様子すら見えなかった。


神様だって相当強いはずなのに、そんなに強い人なの?


そんな神様の様子を見ると、余計に怖さが増してきた。


私は今この瞬間、この場所の映像を見てきた。


どんな方向から進んでも、どんな飛び方をしても私は霊玉を置く事がなく、腹を刺され真っ逆さまに落ちていった。


こんな映像を見ていて、どんなに覚悟していてもいざこの窮地に立つと怖いのは怖い。


でも神様はそれでも戦っている。

だから私はあの「縄柱の核」へと向かっていった。


私は最後の方法に賭けた。


全部ではないが、殆どのつぼみが同じ方向を向いて育っている。


そちらが表で、その反対側が裏側である。


その表側を神様が言う最強の敵が背中を向けて守っている。そこに神様は向かって、戦っている。


私は色々な方向から攻める映像を見たが、さすがに正面から攻めるのは無理だと思っていたし、そこから攻める映像は見えなかった。


私は今その花の正面側にいる。


しかし、私がいるのは彼らがいるのよりもずっと上空にいる。


私の「眼」では見る事が出来るが、向こうからは私の姿を確認出来てはいないようだ。


あの最強の敵の上空を飛び越え、「縄柱の核」に向かって全速力で上空から滑空する形で向かう事にした。


もしかしたらここからならいけるかもしれない。

未来を変えられるかもしれない。


と、わずかな期待を胸に思い切り突っ込んでいった。


こんな花さえなければ、この綺麗な海も青く澄みわたった空も全て楽しむ事が出来るのに・・・。


周りの景色を楽しみたい気持ちを抑え、「記憶の花」へと向かっていった。


神様達が真下に見え、飛び越えていく。


どうやら気付かれてはいないようだ。


私はこのまま気付かれない事を祈りながら核の場所へと向かっていく。

映像を見ている時はいつもこの辺で攻撃を受けるはずなのだが、まだ何も起きていない。


もしかしたらこれはいけるかもしれない、と気持ちが高まっていくのを感じながら、あともう少しで核の場所に辿り着ける・・・。


大分核が大きく見えてきた。


あと少しだ。あと少しで・・・今回は届きそうだ。核の場所に届いてこの霊玉を置けそうだ。


その時、私の目の前が真っ赤に染まっていった。


私は一瞬、何が起こったのか理解出来ず、周りを見渡す。原因は私のお腹に刺さった一本の槍のような、丸太のような、この花の幹から末端に伸びている枝だった。そのあまりに太く長い枝は人間を串刺しに出来るくらい硬い枝だった。


私のお腹から背中へ、その太い枝が抜けていく間、私は悲鳴を上げ、身をよじりながら痛みに耐えた。

そんな中でもこの霊玉を核に置きに行こうと試みるも意識が遠のき落下していった。


落下しながら私は神様の方を向いた。


ごめんなさい。

使命を果たせなくて。


がっかりされちゃったかな。


つまんない上に仕事一つちゃんと出来ないなんて・・・祖母とは偉い差だな。


駄目な女で・・・ごめんなさい。


「真帆ーー!」


神様が来てくれた。

でも今までの映像では間に合った事がない。私はそのまま落下していく。

今回もこの距離では届かないな。


私は神様が間に合わない所を確認して目を閉じていった。


私は誰かに呼ばれた気がして目を開けた。


「おい!真帆!しっかりしろ!」


そこには顔を涙で濡らしている神様がいた。


目は覚めたけど、意識はずっとぼんやりしたままだった。


「神・・・様・・?」


「悪い、真帆。俺の今ある力じゃ、傷を塞ぐ事しか出来ない。回復してやれなくて悪い・・・。」


「あれ・・・神様が助けてくれたの?」


「いや、俺は間に合わなかったが、運良くこに落ちたんだ。この巨大な葉っぱの上にな。」


私はしばらく考えた後、薄らと笑いかけた。


「そっか・・・ちょっとだけ・・変えられたんだ・・・未来・・。」


「あぁ、俺もそう思うよ。本当は下まで落ちて死ぬとこをお前の眼の力で見てたんじゃねぇかって思ってたけど、最後に諦めないで手を伸ばしたから変わったのかもな!」


「ふふ・・神様は何でもお見通しなんだね、私の事・・・。」


「当たり前だろ・・・。ずっと見てきたんだからな。」


「ありがとう・・・ねぇ、神様・・・これ・・受け取って・・・私・・もう駄目みたいなの・・・。未来は変えられてもやっぱり結果は変わらないみたい・・・・・・・。」


私はゆっくりと意識が遠のいていき、再び目を閉じた。


「おい!真帆!しっかりしろ!おい!真帆!」「おい!」

「おい・・・!」


「真帆!てめぇふざけんじゃねぇぞ!何こんな所で寝てんだよ!?諦めんのよ!?・・・・お前・・俺に言ったよな?この町を救いたいって、大好きな人達を助けたいって願ったよなぁ!?」


「おい!!向こうの世界に帰りたくねぇのかよ!?好きな男にもまだお前の気持ち伝えてねぇんだろ!?まだ何もしてねぇじゃねぇか!!もっと楽しい事、向こうでいっぱいしてから死ねや!俺は許さねぇぞ!こんなとこで死ぬなんて許さねぇからな!死んだら・・・俺が・・・殺してやるからなぁ!俺・・・お前が・・・いねぇと・・・つまんねぇんだよ

・・・だから・・・。」


「神様・・・うるさくて・・眠れないん・・・ですけど・・。」


「泣きながら寝る奴なんているのか?」


「うるさいです!眠かったんですよ!」


とは言うものの、本当にヤバかった。


一瞬、お花畑が見えた時は私もついにここまでか、と腹をくくった。


「ちょっと神様、いつまで胸ぐら掴んでんですか!?」


「あ・・あぁ、悪りぃ。」


「ちょっと!今どさくさに紛れておっぱい触ったでしょ!?」


「当たり前だろ!触ったよ!そんな柔らかそうなもん見せられたら触りたくなるんだからしょうがねぇだろ!」


「激しく開き直るとか最低!私が弱ってるのを良い事に寄ってたかってやりたい放題・・・もう最低!!・・・初めては瀧君に揉んでもらうって決めてたのに、もう最悪!」


「お前、振られた奴にそんな事してもらう妄想してたのかよ!?バカじゃねーの!?」


「まだ振られてないし、バカじゃないし、私の方から迫ったらイチコロだし、つまる女だし、おばあちゃんより強いし・・・。」


「でも霊玉、俺に任すんだろ?」


「そんな事する訳ないじゃん。みかん渡そうとして間違えたの。私もうお腹一杯だし。」


「おぉ!みかんあんのかよ?俺もう腹減って死にそうで・・・。」


「えっ?みかんなんて持ってる訳ないじゃん。」


「何なんだお前・・・。じゃあ任せたぞ。」


「神様もちゃんと倒してきてよ。」


「あいつずりぃんだよ。やられてもすぐこの花のおかげで回復しちゃうしよぉ・・・。」



私はここの下の方からあの敵に向かって伸びている縄のように太いツルを見た。そうか、神様が弱い訳じゃないんだ。


「うん、でも神様の方が絶対強いから、頑張ってね!応援してる!」


「な、何だ?・・・急に・・あぁ、あいつもそろそろ回復してる頃だし、殺ってくるかぁ。」


そして、神様は一旦立ち止まり、私の方を振り向かずにごもりながら話してくれた。


「あぁ、それとな、お前、全然つまんねぇ女なんかじゃねぇぞ。冗談分かるし、俺のバカにも付き合ってくれるし、本当は純情一途だよな。美津子はそういうとこ堅っ苦しい奴だったからなぁ、お前といる方が楽しいかも。きっと瀧って野郎に見る目がないんじゃねぇのか?」


そう言うと神様はおもむろに羽を広げて飛び立っていった。

飛び立つ瞬間、よくは聞こえなかったが、「俺はお前のそういう性格好きだけどな。」と、言った気がする。


でもきっと気のせいだ。


私は元気なところを見せてはいたが、身体中はボロボロで意識だって、立っているのがやっとのくらいだった。


でも不思議と体の奥底から力が溢れ出してきて、俄然やる気になった。


この葉っぱから上の核までは約百メートルある。

この縄柱は数本の巨大樹木が絡み合いながら遥か上空へ伸びているので、手も足もかけて直接登る事が出来た。


飛べばすぐだが、そっちの方が見つかる可能性は高い。敵に見られない側から登っていこう。


私はサンダルを脱ぎ、縄柱に足をかけて一本ずつ登り始めた。


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