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記憶の花と悪魔の神様  作者: うさぎ荘
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第十三話 「先祖の侍という名の単なる変態」

二人は全速力で「記憶の花」を目指した。


海に出ると大小様々の島が見えては消えて行き、また新しい島が見えては視界から消えていった。


出来ればもっとゆっくり飛びながらこの美しい風景が見てみたいな、と思いながら神様の後ろを飛び続けた。


「大分近付いてきたぞ。あそこの島に降りるか。」


二人は島に下りて「記憶の花」を見上げた。

かなり大きく見えていた。


近くで見ると、あまりの大きさに恐れ、神様が一緒でなければとてもここまでなんて来れなかっただろうと思う。


「よし、最後の確認だ。お前に渡した『神の霊玉』あるだろ?」


「神の・・・タマ・・タマ?」


「『れいぎょく』だ。俺は変態なのか?・・・恥ずかしそうに頷いてんじゃねぇよ!いいか?それを持ってあ太い樹木が幾重にも絡み合っている幹があんだろ?あれを俺達の業界では『縄柱』って言ってんだが、あの真ん中あたりを目指して飛べ。少し膨らんでるのわかるか?あそこに『核』がある。」


「あー、ありますね。真ん中膨らんでるから近くに行ったらわかりやすそうですね。」


「あぁ、そこにそれを押し込め。いいな。」


私は緊張感が高まるのを抑えながら首を縦に振った。


「それとお前のもう一つの役割が敵を引き付けておく事だ。敵は全部で四人だ。三人が花の周りを警護していて一人が花自体を守っている。お前は周りを警護している三人を引き付けてくれ。その間に俺が花を守っている奴と戦っている。その隙にお前が霊玉を置いてくれればいい。」


私はまたもあの映像が見えた。

頭痛もする。


でも私はもう迷わないし、覚悟が出来ている。


だからここまで来た。

大丈夫だ。


「あの・・・神様・・一つ聞いても

いいですか?」



「あぁ、今のうちしか話は出来ない。何でも聞いておけ。」


「未来って・・・変えられると・・・思いますか?」


神様は少し驚いた顔をしながら何も言わずに真剣な顔をして考え込んだ。


「変えられるも何も、それを確かめるためにこれから向かうんだろ?」


「だけど、本当に困ったら俺に言え。俺が変えてやるから。俺は神様なんだぜ?」


「悪人面のね!」


「神様に見た目は関係ないんだよ!・・・まぁ、俺が言える事はこれくらいだ。やれそうか?」


「はい!神様と話して元気出ました!」


「よし、じゃ、サクッと片付けて来るか!」


「あっ、ちょっと待ってください。これ読んでおかないと・・・。」


私はネコ姐さんに渡された手紙を読んだ。


そこにはこれから向かう先にいる敵の情報が書かれていた。


私は苦笑しながら内容を全て頭に叩き込んだ。

「あっ、背中にゴミ付いてんぞ。」


「ああ、取ってもらえますか?」


私はネコ姐さんの手紙に集中していたので、あまり気にも止めていなかった。


「ったく、神様を顎で使いやがって。あぁ、取れた、取れた。」


「ありがとうございまーす。」


手紙を読みながらだったので、返事がおざなりになっていたが、ふと、(あれ?神様ってこんな気が使える人だったっけ?)と、心の中で思いながら敵の情報を暗記する方が大事だったので、そんな事はどうでも良くなり、次第に記憶にさえ残らなくなっていった。


「じゃ、私、先に行きますね。あっ、くれぐれもスカートの中、覗かないでくださいね。」


「覗かねぇから早く行けよ!」


私は「記憶の花」めがけて飛び立ったが、やはり目線を感じたのでバランスを崩しそうになりながらもスカートの裾を抑えて飛んた。


全速力で飛び続けた。


私が見ていた映像はいつもこのあたりから始まった。どこを通っても、どんな速さで飛んでも、いつも最後は同じ結末だった。


だから今回はもう全ての作戦を捨てて真正面から全速力で突っ込んでいく事にした。

ここからだけは唯一「あの映像」を見てはいなかった。


もしかしたらここからこの速さならば敵に見つかる前に辿り着けるかもしれない。


そんな甘い妄想を抱いていた。


何の問題もなく、後十五分も飛べば花の縄柱に到達出来るだろうという所で槍を持った男に出会った。


「何だ貴様はぁ!?」


私はそのまま飛び抜こうとした。


「止まれやぁ!!」


数十本の槍が四方から打ち込まれ、私はそこで足止めをくらった。


目の前には筋骨隆々のおっさんが一本の槍を持っている。


あの数十本の槍はこの人がたった一人で放ってきたものだったの!?


この人の俊敏な槍の扱いは尋常ではない。


私は急いでネコ姐さんからの手紙の内容を思い出した。


確か・・・「槍を持った男は筋肉槍使い馬鹿よ。己の肉体と技を極限にまで鍛え抜き、槍においては無双と言っても過言でない程扱いが上手いわ。それにあの槍には何か『異なる力』が入っていて、軌道が変わったり、間合いが変化するから気を付けて。ちなみに色仕掛けは効かないから。この私が全力を持ってしても籠絡出来なかったんだから、きっとあいつホモよ。弱点は兜だったかしら。よくは思い出せないのだけど・・・。

でも真帆ちゃんならきっと切り倒せるわよ。頑張って【チュッ】」

だったかな。あいつの頭に何かあるのね。


私は頭に向けて抜刀し、斬り付けていった。


しかし、槍男の方が力ではもちろん技でも雲泥の差であり、全ての攻撃を弾かれた。


「どうした?もう降参か?」


笑みを浮かべて余裕を見せる槍男にさらに挑んでいく。


ネコ姐さんか教えてもらった技は全て出し惜しみする事なく全てを使った。それでも次から次へと躱していき、私は沢山の傷をもらった。


ここで負ける訳にはいかない。ここで死ぬ事は出来ない。


私は必死で次の作戦を考えた。

一旦引く?いや、花が咲くのにもう時間がない。


どうする?どうすれば勝てるの?


「・・・の。」


今、どこかから声が聞こえた気がする。


「・・・どの。」

「・・・・ほどの。」


どんどん近くなっていく。新しい敵!?

「真帆殿、ここじゃ、こっちじゃ。」


私は声のする方を恐る恐る振り向いた。


そこには藤村のおじさんと顔がそっくりな侍の姿をした男の人がいた。


「藤村のおじさん?おじさんなの!?」


すると目の前のおじさんは怒りを露わにして怒鳴りつけてきた。


「あんな奴と一緒にするでないわ!あんな恥晒し・・・末裔の恥!!」


ご先祖様から嫌われてるなんて、おじさん可哀想・・・私は笑いを必死でこらえた。


「失礼しました。あなたはどなた様ですか?」


「拙者、藤村藤吉郎と申す。故あってこの妖刀に封じ込められていた身、そなたの助ける声が聞こえてきて目覚める事が出来た。礼を言う。」


「私、東暖真帆と言います。藤村のおじさんにはいつも大変お世話になって・・・。」


「自己紹介は後回しだ。ぞれよりあの槍の使い手、相当やるな。」


「はい。滅茶苦茶強いです。」


この人、自分の話をするだけして、人の話聞く気がないのね・・・と少し苛立ちながら答えた。


「よし、拙者、助太刀いたす。」


藤吉郎さんは私の後ろに回り込み、刀を一緒に握って槍男の方へ突っ込んでいった。


私はあまりにいきなりで驚いたが、藤吉郎さんはかなりの強さで槍男と互角に戦っていた。

近距離に来なければ槍の方が間合いが有利なのだけど、一瞬の隙を狙って懐に入って相手に 傷を付けていく。


深追いはせず、上手くいっても失敗してもすぐに離れ、また攻撃を仕掛けて・・・を繰り返した。


「つ、強いんですね!」


「当たり前だ、ンン、拙者がどれだけ、ンン、剣を磨いて、ンン、きたと思っておるのだ?」

確かに藤吉郎さんは凄く強い。こんなに頼もしい人はいない。


しかし・・・この人・・・戦いながら私の髪の匂い嗅いでるよね・・・絶対。


でも今は我慢よ、我慢して私。


「真帆殿、ンン敵の攻撃が速くなってきておる。ンンそなたも一緒に攻撃を頼む。ンン」


「わかりました!」


私と藤吉郎さんは二人で槍男に向かい剣を振るった。


「次、右にくるぞ!!」


「はい!」


「あの者、不思議な技を使うのだな。しかし、拙者の前では子供騙しにすぎん!」


「藤吉郎さん、頼もしいです!!」


「そうか、ンン。また打ち込んでくるぞ、ンン構えい。ンン。」


「・・・は、はい・・。」


「次は左・・・そこ!相手の左脇へ!」


「はい!」


藤吉郎さんの指示通りに動くとさっきまで全く当たらなかった攻撃が嘘のように当たっていく。

槍男も顔色が変わり、先程より俄然速い槍を放ってくる。


しかし、藤吉郎さんの修行で培われた勘は異様に鋭く正確で、私は殆ど攻撃を受けなくなった。


その代わり私が右に左に良ければ避ける程藤吉郎さんの「クンクン」は酷さを増していくのが我慢出来なくなってきてはいたが、目の前の屈強な男を倒せるかもという期待感が私を寛大にしていた。


槍男は攻撃を受け続け、先程よりキレが落ちてきた。


「藤吉郎さん、頭だそうです。」


「何がだ?」


「槍男の弱点です。頭に被っている兜が弱点みたいです!」


「お安い御用じゃ!」


私と藤吉郎さんは更に勢いづいて刀を振るった。

私の眼も相手の攻撃を読めるようになってきた。


藤吉郎さんとの意気もぴったりだ。


私は相手の攻撃の隙を突いて剣を振り上げた。

ようやく自分の攻撃が当たるようになった。


「真帆どの、気を抜くな!次をしっかり見ていろ!」


この声がなかったらかなり深く斬り込みを入れられていた。


「だが、今ので相手に大きな隙が出来た!今だ!」


私は刀を再度振り上げた。


胸から首、顔と順に剣先の道筋が出来ていく。ついに頭の兜に当たり、ひびが入り、槍男の頭が露わになった。


槍男の頭は荒れ果てた荒野のように寂しさと哀愁を漂わせ、額の上には「じゃこ天」と刃物で掘られた跡があった。


私と藤吉郎さんは大いに笑った。

それも大口を開けて大爆笑した。


「じゃこ天てぇ・・・じゃこ天てぇ・・・お腹痛いー。」


「ま・・真帆どの・・・相手を指差して笑うなんて・・・し・・・失礼であろう・・・拙者も・・・腹が・・・腹がちぎれるぅ。」


槍男はみるみる顔が赤くなっていき、頭の上にまで赤一色に染まっていった。


「て・・・店長ー、じゃこ天揚がりましたよー・・・。」


「ま・・・真帆どのー、まだきつね色でないではないかぁ・・・お客さん腹壊しちゃうからー・・・。」


二人は羽ばたけないくらいに笑い過ぎた。


槍男は怒りに怒りを任せて槍を振り上げてこちらへ向かってきた。



「貴様が私の頭に彫り込んだんだろがぁ!」


きっと、彫ったのは祖母なのだろう。

槍男には見分けがつかないくらい逆上している。

そして怒りで槍を突いてくる男にはもう「凄み」がなかった。


力は強いが、当たらなければ全然怖くない。


私達は大きく槍を振り回す男の懐に難なく入り、心臓を一突きした。


こうして強敵を倒した私は、じゃこ天の余韻に存分に浸った後、藤吉郎さんに髪の匂いを嗅いでいた事を問い詰め、案の定、挙動不審にさせた。


「い・・・いや、拙者はその・・・あの・・・刀捌きに・・・。」


「血は争えませんね。」と一言放ってその場を治めた。


しゅん、としてしまうのもおじさんぽいな、と思いながら、気を取り直して私はまた全速力で縄柱の核へと向かった。


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