第零話 「終わりという名の始まり」
私は今、窮地に立たされている。
厳密に言えば窮地に立つところだ。
決して逃れる事は出来ない。
だから私は覚悟をした。
私は未来を知っている。いや、見てしまった。自分がこの後どうなるのかも・・・見てしまった。
どのように進んでも辿り着く未来は同じだった。
私はもう怖くて、苦しくて、泣きそうになる。それでも前に進んだ。
暗い未来だとわかっていてもなぜ前に進むのか?
それは前に進まない方がもっと暗い未来になってしまうからだ。
それもある。それもあるのだけど、私は助け、守りたかった。
私の好きなあの場所を。
私の大好きなあの町の人達を。
・・・そして・・・彼の事を・・・。
それらを助け、守るために、あのお方からいくつかの「異なる力」を授かった。
「私自身」と引き換えに。
だから私は今、未来を読み、空を飛び、雲を切り裂くくらいの全速力で「あの場所」へと向かっている。
晴れ渡る青い空、太陽光に反射してキラキラと輝く海、そしてそこに浮かぶ大小様々な島々が新緑に染まっている。
海の上空にいながらさっぱりとした爽やかな空気が私の眼前から足元へと駆け抜けてゆく。
私は自慢の黒くて長い髪をなびかせながらあの何本もの巨木が絡み合って一本の樹木となっている「超巨大樹」の元へと目指していった。
私はあの窮地からどうにか避けられないか模索し続けていた。
何とかしてあの樹木に辿り着き、「これ」を置いてくる事は出来ないだろうか。
そして、いくつかの没案を思い付いた後、最終的に目にも止まらぬ速さで飛んで行き、「これ」を置き次第、さっさとずらかるという正面突破しかないとの結論に至ったのだった。
だから私はこうして全速力で飛び、あの「超巨大樹」へ誰にも見つからず辿り着ける事を祈っていた。
あの樹木には黄色い花のつぼみが沢山付いていて、もうすぐ開き切ってしまう事必至だ。
あのつぼみが全て開く前にこれを終わらせなければならない。
もう時間は残されていない。
私は羽を全力で羽ばたかせ、ようやくこの樹木が眼前に迫ってきた。
あと少し。
バレているかどうかなんてわからない。
とにかく辿り着きたい。
今のところ何も起こっていない。
手を思いっきり伸ばせば届くかも知れないという距離まで近付いてきた。
これはもしかしたらいけるかもしれない気がする感じがする!
言葉の並びなんてどうだっていい。
未来が変わりますように。
届いてーー!
そして私の目の前は赤一色に染まっていった。
一瞬の出来事で、何が起こったのかわからなかった。
お腹に激しい痛みを覚え、そこに目をやると丸太のよう太いこの樹木の枝が腹から背中にかけて貫通し、その隙間から血が溢れ出ていた。
その枝は貫通を続け、背中へと抜けていった。貫通している間もこの世のものとは思えない身のよじれる痛さで悲鳴を上げ、抜けていくと更に出血が増し、意識が遠のいていった。
あのお方も全力で駆け付けてくれた。
何か叫んでいるようだが、全く聞き取れない。
あのお方が私の元に間に合わない「未来」も見ていた。
私は「これ」すらあのお方へ託す事も出来ず、何の役目も果たせないまま下へ、下へと堕ちていった。