雨の沈黙
とある雨の夜。
山奥にある寂れた施設に男女各七名ずつ、合わせて十四人が集っていた。
総じて死んだように虚ろな目をしている。ぼうっと宙を見詰め、狭い室内にいる他の人間と言葉を交わすことすらしない。赤の他人が偶然出逢い、戸惑っているのだろうか。――否。
彼らは疑いようもなく知人であった。それも、十年近く昔から互いを知っている。
互いの全てを、知っている。
充分知っているからこそ誰も口を開かない。もうこれ以上知らないことなどないのだ。
月にたった一度だけ、彼らはこの場に集まる。その他で会うことは絶対になかった。何故ならば、彼らは誰一人としてこの十三名を日常には必要としていないからだ。友達はもう足りている。連絡を取り合ったり、昼間に遊んだりする人間は腐るほどいる。趣味の話をしたり、酒を飲みつつ語り合ったりする人間にも困っていない。
そういった意味では、彼らは友達ではなかった。あくまで知人なのである。だが、「友達」よりも余程特別で深い絆で結ばれているのもまた確かだった。
雨は長いこと降り続いている。ここに集うのはいつも雨の夜だ。
剥がれかけているコンクリートに叩き付けられる雨粒は、しんと静まった空間によく響く。音は断続し、まるで沈黙を作り上げているかのような妙な感覚に陥る。耳の奥で血潮が疼く音にもよく似ている気がした。
遠く離れた町で鐘が鳴る頃、男女はおもむろに動き出した。
座っていた者は立ち上がり、立っていた者は歩いた。冷えた床に付いている足が赤い。彼らは震えながら、同じように服を脱ぎ始める。衣擦れが雨のノイズを掻き消していく。
最後の女が下着を脱ぎ捨てた。布が落ちる音に、茶髪の男の喉が鳴る音が重なる。
打ちっぱなしコンクリートの上にはとりどりの布切れが散乱して、下手なパッチワークのようになっている。だが、十四人にとってそれは非常に些末なことであった。彼らの目に映るのは、寒さの所為で多少血の巡りが悪くなった肉の色だけなのである。
いつの間にか飢えた目に変わっていた。断食を強いられた犬のような目である。
七人の男と七人の女は、操られるように求め合った。相手など決まっていない。満足するまで貪り、飽いたら別の獲物に喰らい付く。五人で団子状態になる所もあった。
白い吐息に、喘ぐ声。
呻く男に、達する女。
こうして彼らは、雨が止むまで交じり合うのである。睦みあう言葉などただの一つもないままに夜は明けていく。
朝が来れば彼らは別れ、自分の日常に帰らねばならない。もちろん、そこの世界には他の十三人はいない。
しかし、彼らは知っていた。
日常にいる親兄弟や恋人よりも、あの十三人が最も自分を知っていることを。
実質初めて書いたR物です。魔が差しました。でも割と気に入っています。