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第八話 カントリー・ロード

いちおうここで一区切りです。

「もともと天使族(アイオーン)は天空に浮かぶ〈浮島(ラグーン)〉に住んでいるのですが、十五歳になると一人前として、島の外に出ることが許されます」


 『念話』(使用者の聞こえる範囲内で話された言葉が自動的に翻訳される)というスキルが使えるというソフィの仲介で、お互いに不自由な汎用語ではなく自国語を使って、お互いの事情を話すことになった。

 まずは遊馬たちがこれまでの経過をざっと話して、途中からエレナが口を挟んで身の上話をしたところで、ソフィたちのターンになった。


 どうやら見た目と違って、奥床しそうなソフィの方が主導権を握っていて、快活そうなウィアの方はそれに追随する形で無駄口は叩かないようだ。


「普通なら竜の聖域や、妖精の郷に滞在するのですが、わたしはより活力に溢れた人間世界の事を知りたくて、周囲の反対を押し切って地上へと降りてきました」

「あたしは妖精の郷の出身じゃなかったけど、外で暮らしていて冒険者としての経験もあったし、何より同性ってことでエルフの村長から護衛役を依頼されたんだよ」


 その後はよくある話である。

 ある城塞都市を訪問した際に、衛兵から宿の場所を聞いて宿泊したところ、衛兵と宿屋と奴隷商とがグルで、一服盛られて身動きができない間に『隷属の首輪』を嵌められて奴隷にされた。


 さすがに同じ都市内で天使族(アイオーン)妖精族(エルフ)を公然と奴隷にするわけにはいかないので、裏街道を通って王都へ行って闇のオークションにかける予定だったところ、護衛をケチったために盗賊に襲われ商人たちは全滅し、現在に至る――。


「自業自得だな。それにしても王都でそんな違法な取引が行われているとは……!」

 歯噛みするエレナ。これが元の身分であれば、有無を言わせず摘発して関係者を処罰するのだが、国許に命を狙われている現在、おいそれと王都に顔を出すわけにも行かない。


「まあまあ、その巡り合わせのお陰で、こうして皆さんと知り合いになれたのですから、人間万事塞翁が馬というか、禍福は糾える縄の如しというものですね~」


 笑顔で取り成すフィーナの言葉に、

「それもそうか。どうせいまごろ私は死んだことになっているだろうし、シガラミや病から解き放たれた自由を満喫すべきだろうな」

 と、どこか吹っ切れた表情で笑みを浮かべるエレナ。


 それに反して、ソフィとウィアの表情は暗い。


「――自由か。この忌々しい『隷属の首輪』がある限り、もうあたしたちに自由はないんだ」

 そう言って首に巻かれた革製の首輪に手をやるウィア。


「「?????」」疑問符を大量に浮かべる遊馬とフィーナ。

「『隷属の首輪』というのは魔道具(マジック・アイテム)のひとつで、一度嵌められると取り付けた奴隷商でなければ外せないことになっています。他には主人の命令に逆らうと、死ぬような苦痛が襲い掛かり、さらには無理に外そうとしたり、首輪にある程度の傷をつけると自爆します」


 痛ましげな目でふたりの首輪を眺めながら、そう説明をするエレナ。


「自爆装置とか、悪の秘密結社の怪人みたいですねー」

 呑気なフィーナの感想に、若干イラッとした顔でウィアが喰ってかかる。


「何を馬鹿なこと言ってるの! あたしらに首輪をつけた奴隷商はもう土の下だし、外そうにも外せない……つまり一生首輪をつけたまま奴隷として生きていかないといけないのよ!」

 その言葉に自分の身の上を理解したのだろう。ソフィが悄然と肩を落とす。


「いえ、外せますけど?」


 事もなげなフィーナの言葉を、ハンッと鼻先であしらうウィア。

「隷属の首輪も知らなかった奴がなに言ってんだか。そもそもあなた風の精霊だとか、神様だとか言ってるけど、出鱈目も大概にしなさいよ。精霊を崇める民としては不愉快だわ」


「信用されないのはまだしも、鼻で笑われるのはちょっと傷つきますねー」

 むぅーと、頬を膨らませるフィーナではあるが、どうみても『神』だの『精霊』だのといった威厳はない。思わず頭を撫でたくなるような仕草である。


「つーか、本当に外すことできるのか、お前?」

 そう遊馬が訊ねたところ、きょとんとした顔で見返された。

「――はあ? もしかして俺が外すのか?」


「そうですよ。その為の奪取スキルじゃないですか」


 言われてみれば、確かにスキルで引き寄せたいものは一瞬で手元に瞬間移動してくる。

 視界内で一部でも目に入れば木の枝先や果物など普通に採れたので、条件としては可能だろう。


「できるのか?」

「多分大丈夫です。とりあえずダメモトでやってみたらいいんじゃないですか?」

「お前な……。下手したら自爆だぞ、をい」

「ご主人様なら大丈夫ですよ」

「ええ、アスマ様ならきっと彼女達も救えます」


 その信頼はどこからでるんだ? とプレッシャーを感じるほどの全幅の信頼がふたりの少女から寄せられ、遊馬も迷いを消してソフィとウィアに向き直った。


「だいたいの想像はつくと思うけど、俺には特別な固有スキルがあって、その首輪を外すことができるかも知れない。ただ、実際にやってみないと百%確実とは言えない。それでも希望するなら、やってみようと思うけど、無理強いはできない。俺を信じてもらうしかないけど――どうする?」


「いや、急にそんなことを言われても……」

「やります! お願いいたします」

 及び腰なウィアと違って、ソフィは毅然たる態度で即答する。

「……いいの、ソフィ?」

「ええ、もともとアスマさんに助けて貰わなかったら、どこの誰とも知れないところへ売られていたんですもの。だったら助けてくれたアスマさんを最後まで信じます」


 無言のまま考え込んで、ほどなく長い長いため息を吐き出すウィア。

「まったく……そのお人好しのせいで騙されたっていうのに。わかったわ、でも、その代わりあたしが先に外してもらうわ」

「でも――」

「これはあたしの役割なの。本来なら依頼を受けた冒険者として、ソフィを守らなければならなかたんだから」

「ですが……」


 押し問答をするふたりの様子を眺めていた遊馬だが、ふとそこで思いついたことがあって軽く挙手した。


「あー、いま思いついたんだけど、要は身体に密着した装備品が外れるかどうかテストしてみればいいんじゃないか?」

「……そういえばそうですね」

 ぶっつけ本番でやることもないか、とフィーナ以下全員が頷く。


「で、同じような条件の衣類ってなると、上と下の違いはあってもピッタリと張り付いているものがあるんじゃないかな」

 そう言いながら視線が、彼女達の腰から下――長さの違いはあれども全員がスカートを穿いている――に向けられた。


「「「「!!!」」」」

 女の子全員が一斉に理解して、スカートの裾を抑えた。


「ご主人様、最低です!」

「アスマ様、さすがに女性に対してそれは破廉恥だと思いますよ!」

「ア、アスマさんがそんな人だったなんて」

「最低っ! 最低っ! これだから男ってー!」


「いや、これが一番ベストじゃないかと思ったんだけどさ。じゃあ、いきなり首輪外してみるか?」


「「~~~ッ」」

 思わず涙目で顔を見合わせるソフィとウィア。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 地面に忌々しい『隷属の首輪』が転がっている。

 自由になった天使と妖精のふたりの少女は、感謝の祈りを捧げた。


「ああ、ありがとうございます。感謝いたします、神よ」

「精霊様、この幸運に感謝を捧げます」


「いや~~っ、それほどのこともないですよー」

 照れるフィーナをガン無視して、ふたりとも己の信仰の対象にひたすら祈る。

「おーい……あれ?」


 放置されたフィーナがちょっとだけ物悲しそうだった。


 結局あの後、獣車に積んであった荷物の中に腕輪であったので、それを装備したフィーナの手からスキルで問題なく奪取できるのを確認して、遊馬はふたりの『隷属の首輪』を外すことができた。


「パンツ奪取できなくて残念ですか?」

「――そんなことはない」


 フィーナに訊かれた遊馬が微妙に不機嫌だったが。


「それで、ふたりともこれからどうするつもりなおかな? 故郷に帰るのか?」

 と、いうエレナの問いに対して、我に返って顔を見合わせるふたり。


「旅費がないようなら、奴隷商の荷物にあった金貨とか、荷物を分けるけど? どうせ拾ったものだし。もしくはフルミネ村経由でオルフェーヴルの街へ行くつもりだから、そこまでなら送って行くけど」


 遊馬の言葉に、「いいえ」ときっぱり首を横に振るソフィ。

「このご恩を返すまではお別れするわけにはまいりません。非力ですが、アスマ様のお役に立ちたいと思います」


「あ~~っ、ここであたしがおさらばするのも無責任だし、不誠実だからねえ。付き合うよ」

 ウィアも渋々……という態度で――その割には口許に笑いがあったが――そう言って、ソフィに同意する。


 うわ~~っ、またこのパターンか。と頭を抱える遊馬の背後で、エレナが「うんうん。立派な覚悟ですな」と満足げに頷き、フィーナが「ハーレムですね~」と囃し立てる。


 漫画やラノベならともかく、少女四人の中に男がひとりとか、かなり居心地悪いなァ……と思う遊馬であったが、その後さらに気苦労が増えまくるとは、この時は知る由もなかった。


「……とりあえず、オルフェーヴルの街を目指そう。身分証代わりに冒険者登録もしたいし」

「そうですね。私も噂話程度でも王家の状況を知りたいですから」

「じゃあ、まずは目標はオルフェーヴルの街で冒険者になることですね。頑張りましょう」

「わかりました。よろしくお願いします、皆様」

「ところでアスマは獣車の操作はできるのか? あたしは一応御者ができるが」

「馬なら乗ったことあるけど?」

「ならばコツは同じだから、覚えるといい。あたしが教えてやろう」


 そんな陽気な一団の上に、ほどなく夜の帳が落ちてきたのだった。

後日談を入れて、この物語は終了です。

もうちっとだけ続くんじゃ。

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