第四話 スキル・奪取
感想受付の設定を間違えて「受け付けない」になっていたのに本日気が付きました。
反応がないので、人気ないんだなぁ……と思ってました(´・ω・`)
「美味しいですね~。ホントにいいんですか、ツナマヨ二個とももらっちゃって? むむぅ、カロリーの友のポテト味もフライドポテトみたいでおかずにピッタリですね~。袋開けちゃったし、もったいないので全部食べちゃおっと」
「ああ、どっちもあんまり好きじゃないから」
「で、ご主人様は梅にチーズですか。意外と保守的なんですね~。もしかしてドロップもハッカは食べないで残すタイプですか?」
勝手にサ○マ式ドロップスの缶を開けて、出てきたキャンディー(多分、イチゴ味)を口に入れ、至福の表情で訊ねるフィーナ。
自分の分のオニギリ(梅一個)とカロリーの友(チーズ味二本)を水で流し込んだ遊馬は、嗜好を見透かされたことになんとなく釈然としない表情のまま頷いた。
「まーな。最後まで残るのはハッカ味だな」
「あ、ご主人様。いくらも食べていいですか? 魚卵は早めに食べないと痛むかも知れません」
「まだ喰う気か!? つーか、俺の話聞いてないだろう、お前!」
相変わらずの森の中の広場で、遊馬とフィーナが食料を広げて昼食――時間がわからないので腹時計時刻で――を摂っていた。
「あ、ご主人様。お水いただけますか?」
「構わないけど……あ、もう俺が口付けたから、その……間接キスになるんじゃないのか?」
水筒を差し出しながら、きまり悪げにそう付け加える遊馬に対して、フィーナは屈託なく笑って受け取った。
「大丈夫です、ぜんぜん気になりません」
あっけらかんとした口調に、こっちが意識しすぎたかときまり悪く遊馬は視線を逸らせた。
「それに基本、私の飲み方はインド飲みですから!」
インド飲み=ペットボトルやコップに直接、口をつけずに離して流し込む飲み方。
「すげー、意識して避けてるよな、をい!?」
激高する遊馬を無視して水を流し込みながら、ついでにお代わりのいくらオニギリをパクパクと幸せそうに口に運ぶフィーナ。
結局のところオニギリ三個とカロリーの友二箱、プラスキャンディー数個を食べたところで、
「ふう。腹八分目っていうのでこの位にしておきますか。――ご馳走様です」
満足した顔で行儀よく膝を揃えて頭を下げた。
あと余分なゴミは袋の中に戻す。エコを考えてではなく、ビニールとか異世界にあるとイロイロとまずそうな気がしたので、そのうちひとまとめに焼却処分するためである。
「……これで腹八分目か」
ちなみに遊馬が通っていた高校は共学だが、昼食の時見た限り女子生徒は、『これってオカズ入れじゃね?』というような小さな弁当箱で食べていたので、女子=小食、もしくは低燃費という構図が頭にあったので、フィーナの健啖ぶりはちょっとしたカルチャーショックだった。
まあ、見ていて気持ちの良い食べっぷりで不快ではないのだが……だがしかし、この分では洒落抜きで手持ちの食料は一日で尽きる。
「最悪、一日一食にして、あとは飴を舐めて体力を温存……それで一週間は持つとして、問題は水か。さっさと水場を見つけないと、三日ともたないだろうし」
「ええっ!? 私、一日三食きちんと食べないとヘロヘロになって魔法もなにも使えませんよ、ご主人様!」
この世の終わりのような顔をするフィーナに向かって、
「お前、燃費が悪いなんてもんじゃないぞ! せめてカロリー分の仕事をしろ!」
思わずキツイ口調でツッコミを入れる遊馬。
もはやルーチンワークとさえ化したお互いの会話であった。
「お仕事ですか。でも私の魔法って基本、正面からブイブイ言わせるんじゃなくて、補助系統なんですよね。ん~~~っ……あ、ご主人様、そういえばご自分のスキルについてどの程度把握されてます?」
「『固有スキル・奪取(LV1)』だろう? 視界に入る範囲のものなら何でも奪うことができる」
「そうです。『固有スキル』というのは個人が先天的に持っているスキルで、学ぼうとしても学べません。ま、ご主人様の場合はちょっと変則ですけど」
なにしろガチャの景品だからなぁ、と思う遊馬であった。
「で、レベルの方ですがこれは使えば使うだけ上昇します。ある程度習熟するとレベルアップします。逆に使わないと習熟度が落ちる場合がありますが、レベル自体は下がりません。一度泳ぎ方や自転車の乗り方を覚えたら、最低限は忘れないようなものです」
「なるほど。――意外とモノを知ってるんだな、お前」
「ふっふーん。知識の教授は風の精霊の十八番みたいなものですからね。あと、疫病を運んだり風土病を蔓延させたりとか」
「やるなよ、絶対にやるなよ!」
大事なことなので念を押す遊馬。
その顔をまじまじと眺めて、フィーナは小首を傾げた。
「ご主人様。それはつまり『やれ』という暗喩ですか?」
「言葉通りだよ!」
そんなこんなでスキルの検証を行うことにした。
「とりあえず……」
周囲を見回した遊馬は、五メートルほど離れた場所に咲いている紫色の花に目を留める。
「あれを取ってみるか。――どうやるんだ?」
スキルの使い方を訊ねると、フィーナは小首を傾げて、
「さあ? 適当に頑張ってみればいいんじゃないでしょうか」
あっさりと遊馬に丸投げしてきた。
「――をいっ! 自慢した先からこれか!? 知識の教授はどうした?!」
「いやいや、私だってなんでも知ってるわけじゃありませんよ」
フィーナの開き直りとも取れる言葉に、遊馬はため息をついて視線を花に戻した。これが悪びれない様子で言われたのなら反発を覚えたところだが、本人も申し訳なく思っているのか「なはは」と照れ笑いを浮かべて肩をすぼめているのを見ては文句の言いようもなかった。
なんだかんだいって遊馬もお人好しの部類なのだろう。
「……じゃあ適当に。――来いっ」
なんとなく右手を花の方へ差し伸べて、引っ張るイメージで声を出す。
すると右手の感覚が伸びて、花を掴んだ気がしたので、そのまま茎のところからへし折った。
「来た」
次の瞬間、五メートル先にあった花が遊馬の手の中に移っていた。
途中経過はない、瞬間移動した感じである。
「お~~っ、成功ですね!」
「だなぁ……」
案外、あっけなくできたことに肩透かしを喰らった感覚で、遊馬が思わず指先で花をつんつん突っつくと、そこに半透明のステータスウィンドウが浮かんだ。
・名前 ドクアマリリス
・特徴 春から夏にかけて咲く花。全体に毒があるが、特に根は猛毒である。
「………」
無言でその場に捨てる。
とは言え、この世界だと自分だけではなく他のもののステータスウィンドウが見られるのがわかったのは収穫であった。
「スキルの慣らしも兼ねて、喰えるものがないか片っ端から探ってみるか」
幸い見た限りこの広場の周りには、木の実や果物、キノコなどがふんだんに溢れている。どれかしらは喰えるだろう。
遊馬は新しく手に入れたオモチャで遊ぶ感覚で、収奪スキルを放った。
およそ一時間後――。
「全部、毒草に毒キノコに毒のある木の実ばっかりじゃねーかっ!!」
山詰みになった毒物を前に放たれた、遊馬の遣る瀬無い絶叫が木々の間を木霊する。
「見た目と匂いは美味しそうなんですけどねー」
・名前 ドクイチジク
・特徴 食べると全身から血を流して絶命する。
どれもがほとんど見た目詐欺とも思える色とりどりの果物を、持っていた木の枝で突きながらフィーナが残念そうに首を振る。
はいはい、ご苦労様でした。解散――と、言いたげなフィーアに同調したいところだが、ただの骨折り損のくたびれもうけだと認めるのも業腹なので、遊馬は自分のステータスを確認しながら訳知り顔で言葉を続ける。
「だけどわかったこともある。まずスキルでもMPを消費すること……ま、これは残りの残ステータスポイントを振ったんで、そこそこ余裕ができたけど」
ちなみに現在の遊馬のステータスは、
・名前 東條 遊馬
・種族 普人族(元異世界人)
・年齢 17歳
・職業 無職(元学生)
・レベル 26 (3355/10364)
・HP 300/300
・MP 46/200
・力 9
・体力 10
・器用 8
・俊敏 9
・魔力 5
・スキル 奪取(固有スキル)1 生存術4 ナイフ術3 汎用語会話(お試し版)1
・残ステータスポイント 0
後先考えずに残ったステータスポイントをMPに振って、それと魔力も二ポイント強化してみたが、これはスキルの強さとは無関係のようだった。
「それと、MPの消費はものの重さと距離に比例すること。花ならMP1の消費で済んだけど、視界ギリギリのドクジャックフルーツの実を採った時は20も減ったし」
気がついたことを指折り数える遊馬。
「視界が通らない場合は、そこに何があるかわかっていても取れない。逆に一部でも見えれば取れる。それと動き回っているものはとり辛い……このあたりは慣れればどうにかなりそうな気がするけど」
「なるほど、『習うより慣れろ』ですね」
「そういうことだ。――つーことで、そろそろ移動するぞ。ここにいても食い物がないのは確実だし」
「ああ、なるほどそうですね。で、どこに行くんですか?」
フィーアの素朴な疑問に、ちょっと考え込んだ遊馬だが、
「とりあえず水場を探すか、できれば森を抜けるルートを見つけられればいいんだけど」
そう簡単に見つからないだろうなァ、という慨嘆を漏らす。
「――? 森を抜けられればいいんですよね? だったら、私がちょっと上から見てきますけど?」
お使いにでも行くような軽い口調で言われて、一瞬考え込んだ遊馬。
「……そういや、お前、空を飛べるんだったっけ」
「そうですよ。さすがにご主人様を抱えて飛ぶのは難しいですけど」
本人を目の前にすると、ちょっと可愛らしい女の子にしか見えないので失念しがちだが、そういえば風の精霊だったんだなぁと思う遊馬であった。
「それじゃあ、ちょっと見てきます」
そう言うフィーナの体を取り囲むようにして、旋風のようなものが舞い踊る。
上を向いたフィーアが木立の間から見える青空に向かって、ジャンプするように飛び出し……そのまま、一番高い木の天辺よりも高く飛び上がった。
「――」
釣られて見上げた遊馬だが、すぐに罪悪感から目を逸らした。
「……ピンクか」
次回はハーレム要員の姫騎士様が登場します。