第二話 クリスマス・ガチャ
1回目の予約掲載の日時を間違えてたよ、パトラッシュ・・・。
予定では金曜日から始めるつもりだったのに・゜・(つД`)・゜・
「善行ポイントというのは、要するに人間世界でプラスになることをしたのか、マイナスになることをしたのかを数値化したものです」
ガチャを回す前に説明が必要ということで、ルチアが得々と語りだした。
「いや、善だの悪だのって利害関係が絡めば簡単に逆転するんじゃないのか?」
軽く挙手する遊馬。
国同士で、相手の国が平和を脅かしているだので揉めるのはよくあることだし、国民同士がお互いの教育や価値観から、お互いがお互いを悪の枢軸だと決め付けていがみ合うのもよくある話である。どことは言わないが。
「この場合は普遍的、一般的な意味での善行を成したかどうかですね。盗みをしないとか、他人を傷つけないとか、他人の所有物や人格などを侵害しないなどで、これを守ってなおかつ良い子にしていれば善行ポイントがつきます。――ちなみに遊馬さんの場合は、基本的に可もなく不可もなく、さりとて悪行も行っていないので、プラス三十二ポイントと言ったところです」
「ふーん」
多いのか少ないのか良くわからないので、適当に生返事をする遊馬。
「ガチャは十ポイントで一回ですので、三度回すことができます。賞品は異世界で使える便利グッズから便利スキル、イケメンになれるキャラクターメイキング……は、遊馬さんの場合あまり必要なさそうですけど、他にも豪華マジックハウスや魔神クラスの使い魔まで様々です!」
「ほう」
「また空クジなしですので、最低でもステータスポイントが一貰えます」
「ほほう」
ステータスとかあるんだな、やっぱしと思う遊馬であった。
「ステータスの確認は?」
「確認したいものを右手人差し指で二回クリックして、『ステータス』と唱えると自動的にステータスウィンドウが開きます」
遊馬は試しに自分の左手の辺りをクリックしてみた。
「ステータス」
これで『東條遊馬の左手』とか表示されたら間抜けだろうなー、と思ったけれどそんなことはなかった。
・名前 東條 遊馬
・種族 普人族(元異世界人)
・年齢 17歳
・職業 無職(元学生)
・レベル 26 (3355/10364)
・HP 100/100
・MP 50/50
・力 6
・体力 7
・器用 5
・俊敏 6
・魔力 3
・スキル 生存術4 ナイフ術3 汎用語会話(お試し版)1
・残ステータスポイント 178
「……なんでいきなりレベル二十六からなんだ!? 普通一からじゃないのか?」
「ああ、それはガチャで残る善行二ポイントをアーカディアレートに換算したのですよ。現在、地球一ポイントがアーカディアだと三万ポイント相当ですので、合計六万ポイントがそっくりそのまま経験値になりました」
「いつの時代のジ○バブエ・ドルだ!?」
思わず咆える遊馬。ちなみに往年のジン○ブエ・ドルは一ドルが億を越えて兆→京→垓の位にまで達したので、まだまだ比較対象としては甘い。
「それよりもわたしとしては、なにげなく遊馬さんが生存術とナイフ術を持っている方が驚きなんですけど?」
いつの間にかルチアが遊馬の肩越しにウィンドウを覗き込んでいた。
「ああ、これは親父に仕込まれて……ちょっとな」
「お父さん傭兵かなにかですか?」
「いや、ただの平凡な外資系貿易商だけど……つーか、思ったんだけど、こっちのポイントをそのままあっちのポイントに換算したほうが有利じゃね?」
平凡ってなんなのかなぁ……と、なぜか遠い目をしているルチアに訊ねると、彼女に代わって戸中井が素早く電卓を弾いて答える。
「その場合は、三十二ポイントが九十六万ポイントになりますので、アーカディア経験値に換算してレベル五十二、ステータスポイントとして四百四十六ポイントが使用可能です」
「カンストするかと思ったら案外中途半端なんだな」
「やはりレベルが上昇しますと必要経験値も膨大になりますので」
やっぱりそういうシステムかー、と納得する遊馬。
「ちなみにレベル二十六と五十二って、あっちだとどのくらい凄いわけ?」
「う~~ん、二十六だとだいたい冒険者の平均くらいかしら?」
「五十二だと王国騎士団の精鋭並ですな」
ああ、やっぱり冒険者もいるのか。でもって五十二でも驚天動地の数値ってわけでもないらしい。
そう理解した遊馬は考え込む。
ポイントを換算するべきか、それともルチアが言う『豪華景品』に釣られてガチャを回すべきか。
「……試しに一回だけ回して、結果を元に考えよう」
非常に日本人らしい玉虫色の結論に達した。
◆ ◇ ◆ ◇
グルグルとガチャを回してみるも、中でガラガラとプラスチックの玉が攪拌される音がない。
微妙に肩透かしの気分を味わいながら、遊馬がガチャを止めると、出口のところから『赤・黒・黄金』の玉が転がり落ちた。
「――はァ!?」
もう一度確認する。転がり出たのは『赤・黒・黄金』の三個の玉であった。
「おめでとうございま~す! ハズレなしのアンコモン(赤)、レア(黒)、スーパーレア(黄金)の大当たりです!!」
『ガランガランガラ~~~~ン!』
唖然とする遊馬に向かって満面の笑みで喝采を放つルチアと、無表情に金色のハンドベルを打ち鳴らす戸中井。
「えーと、各プレゼントの内容はですね――」
「ちょっと待て――っ!」
遊馬はテーブルの下から何か取り出そうとするルチアに待ったをかける。
「なんで三個も出るんだ!? 俺は一回だけしか回してないぞ!」
「自動的に三回分ランダムで出るんですよ。それだけ高性能なんです」
あっけらかんと言われ、再びルチアに食って掛かろうとする遊馬の肩を、再び戸中井がフォールドしていた。
「納得いかね~~~っ!!」
絶叫が銀世界を轟き渡った。
ちなみに景品の中身は――
・アンコモン(赤) 『万能薬』(あらゆる病気、怪我を瞬時に治す。ただし死者の蘇生はできない)
・レア(黒) 『風精霊の指輪』(装備すると風の精霊を一体召喚することができる。装備した者を主と認め従う)
・スーパーレア(黄金) 『スキル・奪取(LV1)』(固有スキル『奪取』を使えるようになる。LV1だと目に見える範囲にあるモノを腕力と同じ力で奪うことができる。レベルが上がると奪えるものの制限がなくなる)
という微妙なモノだった。