第十六話 工芸の街・オルフェーヴル
年末恒例の更新です。
フルミネ村の冒険者ギルド出張所へ〈スライム〉の討伐を報告した遊馬たちは、いろいろと詮索されるのも面倒だったので、普通のスライムの核だけを証拠として換金をして、〈マザー・クイーン・スライム〉については触れずに、ただ単に『巣を潰した』という報告をしただけに止めた。
で、その足でオルフェーヴルの街へと向かおうとしたのだけれど、本当に〈スライム〉を退治したのか現場の確認と、ノーチェの処遇問題とかでなんやかんやあって一日足止めを食らい、結局オルフェーヴルの街へ到着したのは四日目になっていたのだった。
幸いにしてガチャの景品でSRの『マジックハウス(中)』(自由に任意の場所に設置できる、冷暖房及びライフライン完備の屋敷)が当たっていた為、不衛生な宿屋に泊まったり野宿したりしないで済んだのは僥倖であったのだけれど。
あと、ノーチェは頼れる身内も行き場所もないということで、メンバーの多数決により遊馬たちの仲間として引き取ることになった。
なにげにノーチェのステータス欄に書かれている、
・種族 魔王族(魔王の忘れ形見)
・称号 知られざる魔王女
という部分が今後の伏線か地雷になりそうな気がして、遊馬は頭を抱えたものだが、さりとてここで放り出すのも寝覚めが悪いということで引き受けることにした。
「爆弾抱えているのは今更ですから気にしても仕方ないですね~」
と、のほほーんとおおらかな感想を口に出したのは、風の精霊(下級神)であるフィーナである。
「ところでご存知ですか? 時限爆弾の製造方法を記した過激派のバイブルである『腹腹時計』以前の教本は、火炎瓶の製造方法を記した『球根栽培法』ってタイトルだったそうですよ」
で、そして相変わらず関係ない薀蓄を続けたのだった。
なお、ステータスといえば現在の遊馬のステータスはこんなものである。
・名前 東條 遊馬
・種族 普人族(元異世界人)
・年齢 17歳
・職業 ハーレム野郎(無職)
・レベル 28 (00013/15333)
・HP 375/375
・MP 240/240
・力 10
・体力 11
・器用 8
・俊敏 10
・魔力 6
・スキル 奪取(固有スキル)1 生存術5 ナイフ術3 双剣術1 汎用語会話(正規版)1 ハーレム体質3
・称号 女性専用フラグ建築士 スライムハンター(スライムに対して1.5倍の補正がかかる)(NEW!)
・残ステータスポイント 0(ガチャポイント0)
という感じで、一部ツッコミたい部分もあるが特に変わりはなく順調にレベルは上がっている。それと、無駄にガチャで浪費しないようにポイントは連日使用して、極力体力や俊敏など生存に適した形になるよう、小まめに上げていた。
もちろん一日一回のノーマルガチャも引いているが、ここ四日はすべてコモンの外ればかりであった。
ちなみに出たのは、
・コモン『良い子の怪獣図鑑』
・コモン『キンリュ―殺虫剤』
・コモン『ラノベ・リビティウム皇国のブタクサ姫一巻』
・コモン『台所用洗剤・ジョジョブ』
という、どれもいらないものばかりで、特に今更洗剤が出た時にはガチャに悪意すら感じたほどである。
さて、そんな遊馬たちは人数が増えたこともあり、必要ない荷物や必要ない〈騎鳥〉を売り払って、やや大きめで幌のある荷馬車を購入して、これを〈大齧鼡〉に牽かせて、もともとあった荷馬車はゴーレムに牽かせることにした。
ゴーレムは目立つのでこれで山賊や魔物除けを兼ねての提案である。
「というか、いつまでも名無しでは可哀想なので、そろそろゴーレムにも愛称をつけてあげたらいかがでしょうか、ご主人様?」
馬車の後部座席から振り返って、のっそりのっそり後ろから付いて来る、エジプトのファラオを思わせるフォルムのゴーレムを眺めながら、フィーナがそんな提案を口に出す。
現在、〈大齧鼡〉の手綱を握っているのは姫騎士であるエレナで、その隣では小奇麗な格好になった魔王女のノーチェ(なにげにお姫様コンビ)が、文字通り手取り足取り獣車の操縦の仕方について教わっているところであった。
同じく車内で休んでいた天使族のお嬢様ソフィと、その従者で妖精族の冒険者であるウィアも、興味深そうに耳をそばだてている。
遊馬といえば、気乗り薄そうな顔でお座なりに問い返した。
「名前ぇ? どんなのをつけるつもりだ?」
「やはりジャイアント――」
「だと思った、いろいろ問題があるからその先は口にするなっ!」
「では剛田○ケシロボ」
「同じだ同じ! その発想から離れろ!」
「なら一旦離れて、クリスティーヌ・剛○というのはどうでしょう?」
「離れているようで離れていないぞ!!」
咄嗟に抗議する遊馬だが、それよりも先に当の本人(本ゴーレム)が嬉しげに一声吼えた。
「――マ゛!!」
思わず顔を見合わせる遊馬とフィーナ。
「……もしかして気に入ったんでしょうか?」
「マ゛!」
その通り! とばかり再度返事をするゴーレム。
「「…………」」
「よろしいのではありませんか、クリスティーヌ。可愛らしい名前ですもの」
「うむ、フィーナのセンスもなかなかのものだ」
困惑するふたりとは別に、諸手をあげて賛成したのはソフィとウィアであった。
「マ゛マ゛マ゛ッ!」
喜んでいる周囲の様子に、なんかどーでも良くなった遊馬。
「んじゃ、こいつは『クリスティーヌ』な」
ということになった。
・名前 クリスティーヌ
・種族 ストーン・ゴーレム
・年齢 0歳
・レベル 5 (510/650)→レベル20,40,60,80で進化可能
・HP 300/300
・MP 0/0
・力 26
・体力 15
・器用 4
・俊敏 2
・魔力 0
・スキル ガッツ2
・残ステータスポイント 6
と、そんな話をしていたところで、御者台のエレナが振り返った。
「見えてきました。オルフェーヴルの街の城壁です」
言われて全員が獣車の前のほうへ移動して見れば、遠くに規則正しい煉瓦の壁で仕切られた街が遠目に眺められる。
フルミネ村とは比べ物にならないくらい大きな町で、いたるところから煙が上がっているのが特徴的であった。
「オルフェーヴルの街は鍛冶と工芸の町として有名だからな。どれ、代わろう。さすがにエレナが堂々と顔をさらして街へ入るわけにはいかないだろう。一応は警備兵がいて検問があるからな」
「そうですね。一警備兵がわたくしの顔を知っているかどうかは不明ですが、手配書が回っているのは確実でしょうから、しばらく後ろへ隠れてやり過ごすことにいたします」
いったん獣車を止めた(併せてクリスティーヌも足を止めた)エレナは、ウィアと場所を交換すべく席を立った。
「ああ、ついでにノーチェの代わりにフィーナが隣へ来てくれないか? いろいろとこの面子は目立つから質問を受けると思うのだが、あたしはあまり弁が立つ方じゃないので、フィーナにはいつもの調子で相手を煙に巻いてくれれば助かる」
ガチャの景品で遊馬ともども汎用語1(会話のみ、読み書きは不可)が使えるようになったフィーナを促すウィアだが、
「なにか私に対する認識が詐欺師かホラ吹きのようではありませんかねえ」
当の本人はそういった自覚がなかったのか、非常に不本意な表情でフラフラと立ち上がって、ノーチェと場所を交換した。
一方、遊馬の隣の席にやってきてできる限り体を小さくして、息を殺そうとしているエレナだけれど、こちらも本人に自覚がないのか、どうやっても到底誤魔化しようがないほどの存在感を醸しだしている。これ、役人が獣車の中を一目見たら一発でバレるだろう。
「……せめてマスクでもあれば変装できるんだけど」
思わずそうボヤいた遊馬。それを聞きとがめたエレナが、「マスク?」と小首を傾げるのと、「あるじゃないですか!」と、フィーナが反駁するのとが同時であった。
「……あったか、そんなもの?」
「ありますよ。ガチャで出た景品で」
言われて小考した遊馬の脳裏に該当するものがヒットした。
「――って、おい。アレか!?」
「アレですよ」
「アレかあ~~っ……」
だが、まあ確かにアレならまず中身がエレナだと想像もつかないだろう。
「問題は、逆に悪目立ちすることと……」
ひとりごちながら、遊馬は『収納の腕輪』から目当ての代物を取り出した。
ゴトンと音を立てて頭の先から足の先まで真っ黒な騎士風の衣装が飛び出す。
「……これ着るとエレナが暗黒面に落ちそうで心配なんだよなあ」
そう懸念しながら、某帝国の暗黒卿のマスクを手に取るのだった。
 




