第十五話 スキル外・スキル
ぶっつけの作戦を披露する遊馬。
「ぶつけるのは岩だ。幸い岩はなんぼでもその辺に転がっているから、『岩』で『収納の腕輪』に99個入れてこれを上から落す」
「ぶっつけって文字通りの意味なんですねぇ。あと上からってご主人様、空は飛べないですよね? いつの間にか舞○術を習得したとかですか?」
「俺自身は飛べなくても、フィーナなら、風で人一人を飛ばすくらいはできるだろう?」
「う~~ん、ただ単に吹き飛ばすだけならできますけど、細かい微調整は難しいですね。下手をすれば壁に投げたトマト祭りみたいになる可能性が……」
「それでしたら、わたしが上空で抱えて調整をします。滑空くらいはできると思いますから」
ソフィが純白の翼を広げてアピールをした。
「私もご主人様を抱えて飛ぶくらいできますよ! 精霊界の特攻機との異名をもっている私ですから」
「怖すぎるわ!」
額を付き合わせるようにして相談をまとめる一同。
白熱の議論は続く。
「――えっ、モダン焼きって、洒落た食べ物って意味ではありませんの?」
「それを言うならアボカドってのは、男性のωという意味で」
「変な話はするなって言っただろう!」
「ヘンナと言ったらネイルのことですね。わたくしも良く使っていました」
「そう言えば割り箸を横にして、口にくわえてたまねぎを切ると……」
「指きりげんまんのげんまんって、拳骨で一万回殴るって意味だそうですよ。針千本とどっちが……」
「レディーファーストって、確か先に女性を扉の内外に蹴飛ばして、盾するのが起源で……」
たまに話が脱線するものの、信じられないことに結構とんとん拍子に作戦の立案は進んでいた。
「案外、しっかりとした作戦が練られましたね、ご主人様っ」
「考えてみれば、各自のスペックが高いから当然といえば当然なんだけど、エースを揃えるよりもチームプレイができるかどうかが勝敗を分けるんだよなぁ」
「それなら大丈夫でしょう、アスマ様。わたくしたちはアスマ様を中心として、各自の役割をわきまえて行動に徹することができますから」
その通りとばかり少女たちが頷く。
「助かる。――よしっ、行くぞ!!」
そうして作戦が決行されたのだった――!
(中略)
――で、成功した。ほぼ瞬殺で。
「……チームプレイ関係ないし、これも岩じゃなくて山じゃん」
ウィアが茫然と、巨大な〈マザー・クイーン・スライム〉をプチッと押し潰した巨大な岩山を茫然と眺めながら呟く。
「乾杯ーっ。いや~。一時はどうなるかと思いましたけれど、あそこで〈マザー・クイーン・スライム〉の弱点が耳の裏の窪みってわかったお陰で、無事に作戦が成功してよかったですねえ。コーラが美味い」
「これも皆さんのご協力のお陰ですわ。でも、あれ本当に耳だったんでしょうか? あとあの黄色い毛が謎でしたわね。ああ、このミルクティーも美味しいですわね」
ガチャ産の缶コーラと紅茶○伝を飲みながら、のほほーんと談笑し合うフィーナとソフィ。
「どこが成功なのよ! ただ単に岩……というか、山で押し潰しただけじゃないの!」
標高二百メルテ(この世界の単位。1メルテ=98.5センチくらい)くらいありそうな岩山を指差して、いきり立つウィア。
確かに当初に予定では、適当に岩を落して〈マザー・クイーン・スライム〉の密度を変えるつもりだったのが、つい調子こいた遊馬が目に付いた岩という岩、巨岩という巨岩を『収納の腕輪』に詰め込めるだけ詰め込んでしまった(だいたい『岩』名目で×99個のさらに30品目近く入れたので三千個近くある)結果、これを一斉に上空から雪崩落したのだからたまったものではない。
いかに巨大な〈マザー・クイーン・スライム〉もひとたまりもなく、陸に上がったクラゲのように潰れて、一瞬で液体と化したのだった。
「まあまあ、結果的に危険度Aランクの魔物を倒せて、あの少女も救えたのだから良いことですよ。戦場において重要なのは、いかに華々しく勝利することではなく、いかに最小限の労力で、最大の効果を得られるかですからね。それをわきまえているアスマ様はさすがとしか言いようがありません」
血気盛んな若い兵士の暴走で、何度も苦い目にあった経験のあるエレナが、しみじみと感慨を込めて語る。『卑怯』『狡猾』『臆病』それが戦場でいかに重要な要素であることか。理想を言えばこちらに被害を出さずに一方的に敵を倒すことこそが将に求められる条件なのだ。
「それで、どうですかご主人様。その子、調子の方はいかがですか?」
崩れ落ちる〈マザー・クイーン・スライム〉からギリギリ救出に成功した流民の少女。
すっかり着ていた襤褸切れは消化されて、ついでに垢や汚れも洗い流された状態になっていたが、不思議と体のほうには怪我ひとつ、欠損ひとつなかった。
生まれたてのように真っ白で瑞々しい姿態を晒す少女を抱えて、崩れ落ちる〈マザー・クイーン・スライム〉の下から戻ってきた遊馬だが、エチケットとして目を逸らせようとしても、自然と視線が彼女に――彼女の特定部分に吸い寄せられてしまう。
すなわち、
「なんでこの子、頭に山羊みたいな角と背中に蝙蝠みたいな羽があるわけ?」
栄養状態が悪いせいか、性的な興奮を覚える裸体ではないものの、明らかに人外のパーツが散見できる。
半透明の〈マザー・クイーン・スライム〉の体越しに、妙なシルエットが見えたと思ったのは、これが原因かと合点がいったが、逆に謎は深まるばかりであった。
「あー、これは魔族ですね。比較的普人族に近い姿をしているので、滅茶苦茶弱いか、逆に度外れて強いかのどちらかです」
フィーナがあっさりと正体を喝破した。
「基本的に魔族は人の感情を糧にしますけど、弱い魔族は人に擬態してこせこせ感情を盗み食いするんですよ。通常の魔族は見た者に恐怖や絶望を与えるように人間離れした姿をしていますけど、逆にもの凄く強い魔族になると余計な虚飾を排して、人に近い姿になるらしいですから」
「ふーん。まあ、こっちは見るからにか弱い系だろうなぁ。そういえばソフィは平気なのか? 天使族と魔族って不倶戴天の仲ってイメージなんだけど?」
「――ああ、ご懸念には及びませんわ。確かに大昔はそうだったらしいですし、原理主義の氏族の中には頑迷な方々もおりますけれど、いまはお互いに不干渉ですし、わたしは個人的に特に思うところはございませんから。それよりも治療の方はよろしいのでしょうか?」
「う~ん、いちおうヒルPは掛けておいたけど、俺たちの後をつけて着た理由が不明だからな。正気に戻った途端、隙をついて襲ってこないかちょっと心配だな」
「心配ならステータスを確認してみればいいのではないでしょうか?」
「それもそうか」
右手でタップしてステータスを確認しようとする遊馬の機先を制して、エレナが首を傾げた。
「“ステータス”とはなんですか?」
「「………」」
思わず顔を見合わせる遊馬とフィーナ。
「……おい。もしかして、この世界にはステータスって概念がないんじゃないのか?」
「……そんなはずないですよ。この世界でも“鑑定”とかスキルはある筈ですけど」
「“鑑定”ならありますよ。専門の鑑定所に行って金貨一枚程度を払って、職人と魔道具で検査をすれば、おおまかな強さや所持スキルを確認することができますが、あくまで目安ですからさほど重要視するものではありませんが……もしや、ステータスとは鑑定のことですか?」
エレナの補足を受けて、名前や種族、レベルや次のレベルまでの必要端数まで把握できるステータス開示が、かなりチートな能力だということに気付いた遊馬であった。
「……これってある意味、この世界で俺だけが持つスキル外スキルみたいなものじゃね? 使い方によっては奪取スキルよりも有効だぞ!」
「ステータスなら私も開けて見られますから、別にご主人様だけの専売特許じゃないですけど?」
「………」
糠喜びで大盛りに盛り上がった遊馬は、罰の悪い思いで念のために気絶している少女のステータスを確認した。
・名前 ノーチェ(現在忘却中)
・種族 魔王族(魔王の忘れ形見)
・年齢 14歳
・職業 なし(無職)
・レベル 6 (225/666)
・HP 52/210
・MP 4005/4500
・力 8
・体力 13
・器用 6
・俊敏 15
・魔力 54
・スキル 闇魔術2 魔王の加護9 空間魔術1 占星術1 杖術1 魔族語会話3 汎用語会話1
・称号 知られざる魔王女
・残ステータスポイント 709
「ど、どうしたんですか。アスマ様!? いきなりひっくり返るなんて、ど、どこかお怪我でも?!」
「わあッ! なんだなんだ、フィーナも前のめりに倒れたよ! どーなってるんだい!?」
「治療、治療をしないと。で、でも誰から優先的に行えばよろしいのでしょう?」
気絶している少女と、その背後関係を知って、同時にその場にひっくり返った遊馬とフィーナを前に、残るエレナ、ウィア、ソフィはわけもわからず右往左往するだけであった。
◆ ◇ ◆ ◇
小一時間後。
どうにか落ち着いた一同。ポーションとソフィの神聖魔法(基本的に天使や精霊の力に由来するものを『魔法』といい、魔族や竜族に寄る所のものを『魔術』と呼ぶのが通例である)による少女の治療も終わり、さすがに裸ではマズイということで、ガチャ産の『小悪魔のドレス』と『ローヒール』を身に纏い、髪を梳かしたノーチェは、無垢な少女と妖艶な魔性の魅力がミックスされた、ちょっと他に類を見ないような美少女様に変貌を遂げていた。
「……それで、どーしてまたアスマにべったりなのかな、この子は?」
フルミネ村への帰り道、アスマに張り付いて離れないノーチェを前に、苦言を呈するウィア。
当の本人であるノーチェは、びくびくと怯えた表情でウィアの視線から逃れるように、遊馬にますます密着する。
「まあまあ、ノーチェさんは他に頼れる人もいないんですし、助けてくれたアスマさんに頼るのもしかたありませんわ」
ソフィの取り成しに、「ふん、どうだか。甘い顔をしていて寝首を掻かれても知らないわよ」と、どこまでも意固地なウィアであった。
「――あのォ、お兄ちゃん?」
「ん? なんだいノーチェ?」
いつの間にお兄ちゃんになったんだろうと思いながら返事をする遊馬。
「あの……これ……凄くて、美味しくて……」
そう言って出したのは食べ終えたカロリーの友チョコ味だった。
「ああ、気に入ったのかい?」
尋ねると思いっきり首を縦に振られ、遊馬は苦笑しながらポケットにしまっていた板チョコを取り出して、ノーチェに渡す。
「生憎と同じものはないけど、これもチョコなのでこれで我慢してくれるかな?」
渡された板チョコの匂いをかいで、顔をほころばせたノーチェは、待ちきれないとばかり包装紙を破って板チョコに齧り付いた。
「餌付け成功ですねー」
のんびりと歩きながら、フィーナが的確に状況を説明する。
「でも、これって、なし崩し的に仲間になるパターンですよねー。出会いからして、ドラ○エモンスターみたいに、仲間になりそうに見ていましたし」
「………」
反論の余地がなく、空を見上げる遊馬であった。
第一章はこれで終了です。
(補足)
レベルとステータスの関係
レベルが上がると同じステータスでも補正の掛かり方がかわります。
Lv1で力10とLv10で力10の場合は、ほぼ6倍強いと思ってください。
なので双方をきちんと上げないとバランスが非常に悪くなります。
遊馬の場合はレベルのみ上がっていて、他のステータスはもともとの地球にいた数字とほとんど変わっていません。
それと普通はレベルもステータスも自分では上げられず、自動的に上がって按分される仕様です。
あと、鑑定スキルで見られるのはレベルとスキルくらいです。




