第十三話 魔族・ノーチェ
タイトルのわりにノーチェの出番も名前も出てきません。
ペース配分を間違えました。。。。
「テッシュとかボールペンとか、割と助かるものばかりですね、これ」
ガチャの景品としてその場に召喚された品々を、道端の露店よろしく屈みこんで確認するフィーナ。
残っていたスライムの始末を終えたらしい他の女の子たちも、なんだなんだと集まってきた。
「なんですか、これは?」
エレナが優雅に腰を折って――さすがは妾腹とは言えお姫様――屈み込むと、地面の上に転がっている雑貨を指差す。
「ご主人様がガチャで出した景品です。ま、ランダムで召喚できる召喚術みたいなものですよ」
「ああ、なるほど召喚術ですか」
大雑把な説明にあっさり納得する剣と魔法の世界の住人。
「私的には特に日焼け止めとか、女の子にとっては必須なので嬉しいです。さすがはご主人様」
「フィーナさん、日焼け止めとはなんですの?」
「肌に塗ると、日焼けやシミソバカスを防ぐ薬です」
「まあ、素敵っ」
小首を傾げるソフィに、その効能を説明するフィーナ。
「へえ、なかなか小洒落た靴と帽子じゃない」
ウィアはアンコモンの帽子と靴を手にとって眺めている。
「あ、それ簡単な魔法がかかってますから、ある程度大きさが調整できるので誰でも装備できますよ。女の子専用なので、男子は無理ですけど」
なにげに高性能の魔法の装備であった。
「ふ~~ん。でも、まあ、こういうのはあたしの趣味じゃないかな」
「そうですね。私もいまの服と合わないのでいりませんね」
「わたくしにも必要ありません」
「可愛らしいとは思いますけど、わたしも特にいりませんわ」
帽子と靴に関してはあっさりと全員が「いらね」と結論を出した。
女の子は可愛いものならとりあえず欲しがるのかと思っていたのだが、どうやらこの四人に関してはお洒落に関する確固たる信念があって、それ以外はどうでもいいらしい。これは下手に服とかアクセサリーとかプレゼントしたら、趣味の押し付けと思われて嫌がられるかも知れないな。――と、心の中の重要項目に赤字でメモを取る遊馬であった。
こういう気の回し方ができるかできないかがハーレム主人公であるか否かの分岐点なのだが、幸か不幸か本人には自覚がなかった。
「まあ、とりあえず、そろそろ昼なのでどこか適当なところで昼食にして、それからフルミネ村に戻ろう」
リュックに景品をしまいながら、そう提案する遊馬の言葉にフィーナが小さく挙手して尋ねる。
「その後はどうします、ご主人様?」
「ん~、もう一泊旅籠に泊まって、明日の朝オルフェーヴルの街を目指すか。すぐに出発するか。どっちがいいと思う?」
こういう時の判断を真っ先に求められるのは、やはり旅慣れた現役冒険者であるウィアである。
「必要な物資は昨日の内に買ってあるんだろう? なら早めにオルフェーヴルの街へ向かった方がいいと思う。街道が不通だった原因のスライムを取り除いた報告も、早めに町のギルド支部へ報告したいからね。ただそうなると、今晩は確実に野宿になるけど」
「わたくしは行軍で野宿にも慣れているので問題はありません。それに王都の情勢も確認したいので、早めに大きな町へ向かうのは賛成です」
エレナも積極的に賛成をするが、実のところ彼女が積極的に賛成をしているのにはもうひとつ理由があり、ぶっちゃけ村の旅籠の部屋やベッドが汚くて、生理的に我慢できないので、まだ野宿のほうがマシという事情があったのだ。
そういうことを声を大にして言うと、「これだからお姫様は」と言われそうなので黙っているが、他の女性陣もだいたい同じ気持ちでウンウン頷いている。それを見て、遊馬もなんとなく事情を察する好循環が生まれていた。
「私も野宿で問題ないですよ。そもそも私は風邪とかひきませんからね!」
胸を張るフィーナの言葉に、
「「「「「あー……」」」」」
全員ががっつり納得する。
「なんですか、その『あー』は!? 言っときますけど、それは私が風の精霊だからですよ! どっちかって言うと私が風邪をひかせる立場なんですからね!」
熱弁するフィーナを女の子たち全員が温かい目で見守る。
「ぐぐぐぐぐぐぐぅ……!」
優しさが時に人(精霊)を傷つけるのだ。
「まあまあ、ですが、風邪くらいでしたら、わたしの神聖魔法で治癒ができますので、本当に大丈夫ですわよ」
ソフィが宥めるようにそう付け加える。
さっきの戦闘でも、小さな怪我や火傷を瞬時に治していたし、それに加えて風邪とかも治せるとなれば、もしかしてこのメンバーの中で一番有効なスキル持ちなんじゃなかろうか? いざとなれば村や町で治癒をしていれば食っていけることだし。神聖魔法ぱねえなぁ、と思う遊馬であった。
「――あッ☆ そうだ、閃いた♪」
フィーナがポンッと手を叩いた瞬間、
「おまわりさん、こいつです! ここに犯罪者がいますっ!!」
「……なんですか、ご主人様。まだ何も言ってませんよォ?」
「どーせ、自分が先回りしてあっちこっちで風邪とか疫病とか蔓延させて、その後でソフィが治療に現れればウハウハだとか考えたんだろう!?」
「………。」
露骨に視線を外すフィーナ。唇を尖らせてふーふー言っているのは口笛を吹いているつもりなのだろう。……口笛が吹けない風の精霊って……と、その存在に疑問を抱く遊馬であった。
やがて、観念したかのように、フィーナは遊馬と視線を合わせて、
「ご主人様。コンニャクの中の黒い粒って、皮とかではなくて実は海草のひじきなんだそうですよ」
「そんなんで誤魔化されると思うなっ!!」
と、いつものように益体もないやり取りをしていたところへ、突如――
「きゃああああああああああああああああッ!!」
絹を切り裂くような少女の悲鳴が聞こえてきた。
「むっ、少女の悲鳴!?」険しい顔になって神剣に手をやるエレナ。
「わたしたちが来た村の方向から聞こえてきました」ふわりとその場から浮き上がって、木立の向こうを指し示すソフィ。
「ちっ、もしかして見逃していたスライムがいて、関係ない村人を襲っているのか!」残り少ない矢に顔を顰めながら、ウィアも弓を手に踵を返す。
「行きましょう。急がないと手遅れになるかも知れません。さあ、はりー、はりー、はりーあっぷ!」これ幸いにと先陣を切って走り出すフィーナ。
なんとなく出遅れた形になった遊馬は、どーにも納得できない顔で、軽い足取りで疾走するフィーナの後を追いかけるのだった。
「あっちです、あっちから音と悲鳴が聞こえます」
「フィーナ、あんた耳がいいねェ。妖精族のあたしより正確じゃないの?」
「風が教えてくれるんですよ」
そうして街道を外れた森の中を五分ほど走ったところで――。
「なんじゃこりゃあああああああああああッ!?!?」
森のど真ん中に堂々と聳え立つ、直径十メートルくらいありそうな半透明の物体を前に、フィーナが仰け反った。
「巨大水信玄餅ですか!?」
「違うっ! こいつは〈マザー・クイーン・スライム〉。滅多に見かけない危険度Aランクの魔物だ!」
大真面目にウィアがフィーナのボケに応えて間違いを否定する。
「〈マザー・クイーン・スライム〉ですか。確か五年前に城砦都市バルバトスを壊滅させ、王国軍五千と宮廷魔術師六十人とで、どうにか倒した魔物ですね。なるほど、街道のスライム増殖の原因は巣ではなくて、これだったというわけですね」
油断なく〈神剣レーヴァテイン〉の切っ先を〈マザー・クイーン・スライム〉へ向けるエレナだが、さすがに相手が巨大すぎてどこが急所(核)だか、見当がつかないでいるようであった。
「フィーナさん、“ミズシンゲンモチ”とは何のことでしょう?」
「美味しいデザートです。生憎とこの世界にはありませんけど、そのうちきっとご主人様がガチャで当てて食べさせてくれますよ!」
「まあ、楽しみですわ」
「そこっ! 揃ってボケた会話をしないで、戦闘準備っ。あと、ムダに俺にプレッシャーをかけるな!」
暢気にスイーツの話をしているソフィとフィーナに発破をかける遊馬。
と――。
「ねえ、アスマ。あそこ……〈マザー・クイーン・スライム〉の中ほどに取り込まれているのって、もしかしてあの着いて来た女の子じゃない?」
目を凝らしていたウィアの指差す先では、確かに見覚えのあるボロ布と細い手足のシルエットが、不透明のスライムの体を通して見える。
「なんであの子が!? くっ、いや、詮索は後だ――つぅ……来いっ!」
咄嗟に少女を奪取スキルで引き寄せようとする遊馬だが、距離に問題があるのか、視界に問題があるのか、僅かに掠ったような手応えすら得られなかった。
「……駄目か。エレナ、神剣で〈マザー・クイーン・スライム〉を切り裂くことはできないか?」
「手加減なしでレーヴァテイン本来の力を発揮すれば、一撃で倒すことは可能ですが、その場合、十中八九あの子も巻き添えになってしまいます!」
基本、力押ししかできないというエレナの言葉に、
「――くっ。なら、また液体洗剤で溶かすしかないか。だけどこの大きさだからなぁ……あとどのくらい残っている?」
「すまん。調子に乗って、さっき残らず使ってしまった……」
ウィアが申し訳なさそうに肩を落として、すっかり空っぽになった台所用洗剤を逆さに振って見せる。
頭を抱える遊馬。
「ご主人様、もう一度ガチャで洗剤を出せばいいのではないですか?」
「そう簡単に狙ってまた同じ物が出ないだろう? 実際、これまで同じ物は出てないんだし」
「別に同じ物を出さなくても、要は『界面活性剤』ならいいのですから、普通の洗剤でも石鹸でも、シャンプーでもいいんじゃないですか? そう考えれば案外、簡単に出そうな気がしますけど」
「あ、そっか……」
焦っているせいか考えが凝り固まっていたが、考えてみれば日用品で洗剤使っているものなんて山ほどある。そしてノーマルガチャの景品は、日用品が出る確率が高いのはこれまでの経験でよく理解している。
案ずるより産むが安しで、案外、簡単に景品が出るかも知れない。幸いまだポイントは300近く残っているので問題ないだろう。
そうと決めた遊馬は、早速、ガチャを召喚して(見えるのは本人とフィーナだけだが)、10ポイントを交換して11連ガチャを引いた。
・アンコモン『日本刀(無銘)』(何の変哲もない現代刀)
・アンコモン『魔術師の杖(初級)』(どの属性にも対応した魔術師用の杖・魔力微上昇効果あり)』
・レア『スキル・汎用語会話(正式版)』(サルでも一発で汎用語が覚えられる。2ユーザーまで使用可能)』
・レア『小悪魔のドレス(女性専用)』(黒と赤を基調としたゴシックロリータ調ドレス。サイズ自動調整機能あり)
・コモン『インスタントラーメン(味噌味)』(サッ○ロ一番。五袋入り)
・コモン『初級ヒールポーション×5』(飲むか掛けるとHPが50回復するポーション)
・コモン『インスタントコーヒー』(ちょっと贅沢なコーヒー12g x 100包入り)
・アンコモン『キッチンセット』(三徳包丁、まな板、両手鍋、片手鍋、フライパンのセット)
・レア『スキル・双剣術Lv1』(双剣に関する基本的なパターンの習得及びスキル補正がかかる)
・コモン『インスタントラーメン(塩味)』(チャ○メラ。五袋入り)
・コモン『初級マジックポーション×5』(飲むか掛けるとMPが50回復するポーション)
「何故だ~~~~~~~っ!?!」
こんな時に限ってレアやアンコモンの景品がもりもり当たり、遊馬は嬉しくない悲鳴をあげる。
「今回は本当に邪念がなかったですからねえ。で、これがガチャマジックなんですね」
呆れと感心が入り混じった感想を口にするフィーナ。
一方、〈マザー・クイーン・スライム〉と取り込まれた子の様子を窺っている他の面々は、
「……ソフィ。よく見えないけど、なにか、もう溶かされかけてない?」
「そうですわね。シルエットが明らかに手足以外に分離しているような……」
「くっ。こうなればわたくしが一か八か――」
不穏な発言がばしばし聞こえてくる。
「うおおおおおおおっ。今度こそ、洗剤出ろーーーッ!!」
気もそぞろに再び11連ガチャを回す遊馬。
その様子を眺めているフィーナが、「土壇場で焦ってポケットをひっくり返す未来から来た青狸みたい……」と、的確かつ不穏な感想を口に出した。
・スーパーレア『マジックハウス(中)』(自由に任意の場所に設置できる、冷暖房及びライフライン完備の屋敷)
・コモン『初級ヒールポーション×5』(飲むか掛けるとHPが50回復するポーション)
・アンコモン『中級マジックポーション×5』(飲むか掛けるとMPが150回復するポーション)
・レア『魔法盾(銘・レフレクター)』(物理魔法を100%反射する盾)
・コモン『無洗米・10kg』(高級ブランド米)
・コモン『調味料セット』(天然醸造醤油・無添加味噌・塩・砂糖・めんつゆ・焼肉たれ)
・コモン『釣り道具セット』(釣竿、釣り針セット、リール、ルアー)
・レア『収納のリング』(30種類、1種類99個まで重量や質量を無視して収納できる腕輪)
・コモン『LEDヘッドライト付安全ヘルメット』(普通のヘルメット)
・コモン『パンの缶詰10缶入』(三年保存。プレーン×2 チョコ×2 ブルーベリー×2 オレンジ×2 ストロベリー×2)
・アンコモン『ストーンゴーレム』(標準型のストーンゴーレム)
「のおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
絶叫する遊馬の様子に、これは駄目かも知れないなと思う女の子たちであった。
もう1話、早めに更新します。




