第九話 ノーマル・ガチャ
ガチャの小説が読みたいな~と思い、検索していたら自分の作品に当たりました。続きが読みたくなったたので、ぽちぽち書いてみます。
この世界の文明レベルは、地球で言うところの中世(日本の中世ではなく、西洋の中世)なので約10世紀の違いが有る。
もっとも一部、魔法のお陰で近世並に発達している部分もあるが、大まかな分類では地球とは大きな隔たりがある。ゆえに――。
「アスマ様、一度お訊ねしたいと思っていたのですが、アスマ様方が以前住んでらっしゃった『異世界』とは、いずこにある国なのでしょうか?」
朝食――と言っても獣車の中にあった雑穀を煮ただけの粥であるが、幸い塩と香辛料、あと遊馬が仕留めた山鳥をぶつ切りにして入れてあるので、そこそこ食べられる味になっている(あくまで現代人主観)。
お陰で四人の少女たちは朝から健啖ぶりを発揮して、フィーナなど厚手の葉っぱで作ったお椀で五杯ぺろりと平らげ、
「粥うま~っ」
と、ダイニングメッセージのような至福の言葉とともに、満面の笑みを浮かべていた。
ちなみに獣車を引っ張る〈大齧鼡〉は雑食で、草でも木でも虫でも小動物でも食べるというので、必要ない山鳥の臓物や頭、骨などを処理して貰い、いまは適当に地面に穴を掘ってやたらでかいミミズを頬張っている。
〈騎鳥〉のほうも同様で、基本的に草でも木の根っ子でも食べるというので、適当に繋いで餌を採るのに任せていた。
で、朝食が終わって一息ついて、さすがに食後のお茶とかはなかったので、近くの水場から採取してきた水を沸かしただけの白湯を飲んでいた時に、天使族のソフィ(ソフィエル)経由による念話で、エレナ(エレオノーラ)が遊馬に尋ねたのだった。
あくまで世間話の延長で、ふと疑問に思って聞いたのだが、直後、ひょっとしてマズイことを聞いたか?! というエレナの焦りの感情もダイレクトに届いてきて、遊馬は『念話』もよりけりだな~。特に女の子には隠したいことも多いだろうし、やっぱ早めにお試し版ではない、汎用会話を覚えるなりした方がいいだろうなと思いながら、特に隠すことではないので正直に答えようと口を開きかけ、
「おい、フィーナ。まさかとは思うけど、異世界人のことは秘密だとか、バレると迫害されるとか、見世物にされるとか、生き胆を食うと不老長寿になれるとか変な設定はないだろうな?」
念のために日本語で確認した。
「別にそんな縛りはないですよー。と言うか私が神霊だというのをいまだに誰にも信じて貰えないのに、なにげにハートブレイクなんですが……って、なんですか、ご主人様。その生暖かい目は?」
食べ過ぎて膨らんだお腹を押さえて不満を述べるフィーナ。
この有様を見て、自分は精霊だ神だと言い張っても、単なるアタマの弱い子にしか思えないのはしかたないだろう。
フィーナから視線を外した遊馬は、改めて白湯を飲んで喉を湿らせ、固唾を呑んで返答を待っているエレナに、なるべく気楽な口調で答えた。
「この世界、アーカディアとは異なる世界。世界の外側にある別の世界。限定的には『地球』の日本という国から異世界転移して、この地に来たんだ」
「「「………」」」
そう言われて、エレンばかりでなく、中継していたソフィ、聞いていないフリをして聞き耳を立てていたソフィの従者である妖精族のウィア(春の通り道)が顔を見合わせる。
「――世界に外などないであろう? いかように考えるべきか?」
「――つまり、世界の有様もわからないド田舎から来たということではありませんの?」
「――ああ、なるほど。それでふたりとも汎用語が不自由なのか」
「――これからは我々が世間の常識を教えるべきでしょうね」
「……まあこうなりますよねー。奈良時代の人間に宇宙人を説明するようなものですもの」
親切はありがたいが勝手にド田舎出身の世間知らずに認定されたことに、釈然としないものを覚える遊馬に、寝転がりながらフィーナがフォローというか気休めを言う。
「あー、ちなみに、アーカディアの人は世界をどんな風に認識しているわけ……?」
喧々囂々話し合っている三人に尋ねると、
「世界は巨大な水盤であり、その上に土地があり、世界は四柱の神と女神によって支えられていると神学者は唱えています」
と、エレン。
「世界は最も巨大な浮島であり、同時にその中心には鉑輝竜が眠る揺り籠であり、いつの日か鉑輝竜が目覚めたときに世界は滅びと言われています」
とは、ソフィ。
「世界とは世界樹そのものであり、生きとし生けるものはその世界樹の葉の一枚に過ぎない」
ウィア。と、統一性のない答えが返ってきた。
「どれにしても“異世界”なんて概念自体が存在しないのはわかった。つーか、どれが正解なんだ?」
ファンタジーの世界ならもしかするとどれかが当たりなのかも知れないと思って、遊馬がフィーナに確認してみたが、
「さあ? 神様や精霊がいるのは確かですが、世界の姿は地球と違ってまだ明確に定義されていないので、曖昧模糊としているみたいで――あら?」
ふと、会話の途中でフィーナは驚いたように、起き上がると虚空を見詰めて目を瞬かせた。
「どうした?」
「運営――ルチアお姉様からのお知らせが届きました。ご主人様がアーカディアに転移してきて丸一日が経過したので、ノーマルガチャが引けるようになったみたいです」
「ノーマルガチャ?」
「お姉様のところで引いたガラガラの簡易版みたいなものです。あっちは一回十ポイントで空クジなしの、アンコモン以上でしたけど、こちらは主にコモンとノーマルが当たる確率が高く、アンコモンやレアは滅多に出ません。ましてスーパーレアやダブルスーパーレアなど、一生掛かっても当てられるかとうか。その代わり一回一ポイントで引けます」
あっけらかんと言われ、遊馬は頭を抱えた。
「お前な、そういう大事なことは先に言ってろ! もうポイントなんて全部スキルに振っちゃって一ポイントもねえだろう!?」
「どうかしましたか、アスマ様?」
突然の大声にエレナは腰の神剣レーヴァテインに手をやって周囲を警戒する。
「あーなんでもない、ちょっと今後の話をしていただけだ」
「そうですか? ならばいいのですが。予定と言うと、とりあえずはフルミネ村を目指すのですよね?」
「そうだな。まずは情報と、あといらないものは売っ払って食料を仕入れるようにしないとな」
「そうですね。たいして大きな村ではないのですが、確か雑貨屋兼業で冒険者ギルドの出張所もあったはずですから、村人と直接交渉するようりも、いらないものはそこで売却したほうがいいでしょう」
「ほうほう」
やっぱりあるのか冒険者ギルドと思いながら、頷く遊馬。
と、その袖がつんつんフィーナに引かれた。
「あの、ご主人様。ポイントありますよ? 昨日から動物を狩ったり人を狩ったりしてたので、現在一ポイントあります」
「動物はともかく、人は狩っていないぞ。無力化はしたけど」
「そのあたりの算定方法は不明ですけれど、とりあえず使えるポイントがあるということです。使いますか?」
言われて悩む遊馬。
一ポイント程度ではステータスを上げるにしても高が知れているだろう。とは言え一日がかりで一ポイントしか貯まらないのでは無駄遣いするのも躊躇われる。だいたいガチャってのは、一度取り付かれると、際限なく回すようになるんだよなぁ。なら手をつけないほうが無難か? どうしたものかと苦悩するところへ、
「ああ、そうそう。一日一回だけサービスでガチャが回せます。あくまで一日一回なので翌日に持ち越せませんけど」
「それを先に言えっ。引く!」
あっさりとガチャに対する懸念を忘れて、「一日一回、一回で十分だ」と気楽に決めるのだった。
「一回だけとか、ちょっとだけという男の言葉は信用するなと、ルチアお姉様から言われてるんですけどねぇ」
微妙に気乗りしない表情で眉を寄せるフィーナ。
「なんの話だ?」
「いえ、なんでもないです。では、私の指輪を指先で触りながら『ノーマルガチャ』と言ってください」
言われたとおり遊馬が唱えると、目の前に半透明の立体映像のようなガラガラが現れた。
「これは視覚的に映しているもので、私とご主人様以外には見えません。あと、当たりの賞品は直接この場に召喚されます」
「ふーん。これ触れるの?」
「触れます。――さ、どうぞ回してみてください」
ガラガラに手を触れると、氷のような感触が返ってきた。
ハンドルに手をかける。
「よ、よーし、行くぞ」
気合を込めて遊馬はガラガラを回す。
(レア出ろレア出ろ! 最低でもアンコモン出ろーっ!)
願いを込めて回した結果は――。
「おめでとうございま~す! コモン『台所用液体洗剤500ミリリットル』です!」
ごろん、と音を立てて足元に転がった見慣れた容器の洗剤を前に、しばし無言だった遊馬だが。
「ああああっ、ご主人様! 二回目を回したらせっかくのスキルポイントが――!?」
フィーナの静止の声も無視して、虎の子のスキルポイントを消費してガチャを引くのだった。
ちなみに二回目の景品はコモン『お掃除ゴム手袋』で、遊馬は燃え尽きた。




