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あと

学祭が、終わった。

私は今、展示物を剥がし捨てるために学校に残っている。

一生懸命に何日もかけて作ったそれは、わずか数秒ではがされ、壊され、燃やされるのだ。

そんなことを思うと学祭なんてあっという間で、とても意味のないものだったななんて思えた。

暗い。

もう部活が終わって家に一人で帰ってるような時間帯だ。

今日でユウトと帰るのが最後だと思うとなんだかさみしい気がした。


「カナ、どう?」


タイミングよく、ユウトが来た。


「んー、もうちょい。」


「手伝うよ。」


いつの間にか一人で片付けていたことにやっと気づいた。

あぁ、だから作業が遅れるのか。

どうせ周りの女子は何処かで喋っているのだろう。


「カナは昔から真面目だよな。」


私が届かなかったところを中心にユウトが装飾物を剥がす。


「…普通だよ。」


周りがちょっと、浮かれているだけ。

私のこの頑張りは、努力はみんなの努力となって公表される。


「俺はちゃんとカナの頑張ってるとこ見てるから。」


なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。

同時に何故か涙腺がうるんだ。

ここで泣いたらユウトに心配をかける。


「…うん。」


小さく泣きそうになっているのがわからないように返事を返した。



片付けが終わると、教室は学祭などなかったかのようにいつもの風景に戻った。


「やっと終わった…」


外を見ると既に月がのぼっていた。


「ユウト、帰ろう。」


「そうだな…」


ユウトの様子がいつもとは違うように感じた。












「あのさ。」


疲れきって無言になっていた私にユウトが会話を持ちかける。


「ん?」


「今日で、一緒に帰るの、終わるんだな。」


ああ、そうだ。

今日でユウトと帰る日々は終わり、また私は一人で帰るんだ。


「そうだね…」


「俺、部活終わったら一人なんだよね、いつも。こっち方面ってカナくらいしかいなくてさ。」


それは私もだ。

とても、寂しい。


「だから、良かったらなんだけど…これからも一緒に帰らね…?」


びっくりした。

まさかユウトも同じことを考えていたなんて。


「…私でいいの?」


「カナがいい!」


素直に嬉しかった。

また昔みたいに一緒に帰れるんだ。


「あと、カナに一つ言いたいことがあるんだけど…」


ユウトは足を止める。

私もつられて足を止めた。

なんとなく察した。

私が、もっとも恐れていた事態だ。


「…」


聞きたくないなんて言ったら私はどれだけ最低な人間になるのだろう。

嫌われるだろうか、断ったら。

そんな私の気持ちを知らずユウトは口を開いた。


「カナ、俺、カナの事、好きだ。」


その目はこんな私でもわかるくらい本気だ。

声がでない。

ごめんなさいの一言を言うのが怖い。

もしかしたら、この一言で一気に関係が崩れてしまうかもしれない。

そんな臆病な私の口からは震えに震えた声がでた。


「あの、ユウト、私ユウトの事…友達としか、見れなくて…」


それ以上に、まだあの頃のトラウマが残っている。

ユウトが良い人だとは十分に理解しているが、恋をするのが、好きな人を作るのが怖い。


「…そっか。」


その声はわずかに震えていた。

あぁ、私はユウトの期待を裏切った。


「ごめん…」


「俺こそ、ごめん…カナはもっと素敵な人と恋したいよな…」


「ユウトだって十分素敵だよ!私過去の事がなかったらきっとユウトのこと好きになってた!だから!」


…勝手なワガママだけど。


「だから、私のこと、諦めないで、くれますか…」


ユウトの顔が見れない。

そんな勝手なワガママ、聞けるわけがない。

他の人と恋愛をしたいと思うだろう。


「…言ったな?」


ユウトはニヤリと笑って見せる。


「え?」


「いいさ!絶対カナのこと振り向かせてやるよ!」


私の予想など真逆で、ユウトは全く諦めないつもりらしい。

あぁ、この人なら本当に私はいつか好きになる日が来るのかもしれない。


「ふふ…うん!」




…そんな日を静かに期待して。

カナがユウトを恋愛対象として見る日はきません。

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