まえ
初恋は実らないなんて誰かが言った。
中学生活を満喫する私、田中佳奈は学祭シーズンへと入っていた。
学祭で残ると当然時間は遅くなる。
部活をサボれることもあり、私には好都合な話ではある。
でも、同じクラスの人の中に私と帰り道が一緒の人はいなかった。
「カナ!」
とぼとぼと歩き始めていると後ろから声がかかった。
それは聞き慣れた、ただ少し声変わりのした男の声。
振り向くとその姿がちゃんと目に入った。
少しの寂しい気持ちは一気になくなる。
私は笑顔でその人物の名を呼んだ。
「ユウト!」
「良かった、ユウトがいなかったら私この長い距離一人で帰らなきゃだったよ〜」
私の家は、遠い。
校区ギリギリの位置にある為、家の近い友達はユウトくらいだ。
「どうせなら校区はずれて違う学校が良かったよ…」
だるそうに歩くユウトが言う。
「やだよー、だってあっちの中学校、ブレザーだよ?絶対セーラー服の方が可愛い!」
校区ギリギリで、近い中学校が選べたのにこっちにしたのもそれが理由だ。
「ユウトこそ、なんでこっちにしたの?」
ユウトはめんどくさがりだ、絶対こっちの中学校にはしないと思っていた。
ユウトと別れるのが嫌で、どっちにするか悩んだのは内緒にしておこう。
「それは〜…」
慌てるように目を泳がす。
「やっぱ学ランに惹かれちゃった?」
「そ、そう、それ。」
嘘つき。
どっちにしろ私にとってはどうでも良いことではある。
何よりユウトとこうやって話すことは案外久しぶりで嬉しい。
最近はバド部で忙しく、サッカー部のユウトと帰ることはとても困難だった。
「ユウト、変わらないね。」
「そうか?」
私よりも背が高くなって声変わりもしたユウトは、すっかり私のことなど忘れたとおもっていた。
だからこそあっちから声をかけてくれたのはとても嬉しかった。
「うん、優しいとこもバカそうなとこもなーんも変わらない!」
「カナは、変わった気がする。」
心外だ。
私は何も変わってない、今もユウトをとても頼っている。
「あの頃より、明るくなった。」
あの頃…きっと、あの頃のことを指しているのだろう。
優しい表情でユウトが頭を撫でた。
「あと、前より可愛くなってる。」
「惚れちゃう?」
「…」
黙らないでよ。
私はどうしてもユウトをそうゆう対象として見れない。
あまりにも小さい頃から一緒にいすぎているためだろう。
例え、ユウトが私をそうゆう対象として見てきても、きっとその想いを、期待を裏切る結果となる。
「ねえ、ユウト毎日学校残ってるの?」
街路路の電灯がつき始める。
なんとなく肌寒くなってきた気がする。
もう、秋も近いのだろう。
「あぁ、まあ部活サボるためだけど。」
「じゃあ、明日も一緒に帰ろうよ、やっぱユウトといると楽しいんだ!」
ユウトは嬉しそうな顔をした。
「うん、かえろう、一緒に!」
その声は、小学生の頃のユウトの声に似ている気がした。