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 翌日。

 昨日のファーストフード店での出来事を同じ学校の生徒に目撃されたらしく、優介が学校をしめていた不良グループのリーダーになったことは既に殆どの生徒に知られている情報だった。

 なので、登校中にも優介に近づくものは誰もおらず教室に入ってもそれは変わらない。

 完全に優介の席だけ避けられていた。

(めんどくせー……)

 変わったのは自分ではなく、周りの人々の自分に対してのイメージ。

 これ以上気にしても意味がないので、授業に集中した。

 すぐに訪れた昼休みだったが落ち着ける暇もなくチャイムが鳴ってすぐに廊下に厳つい顔をした面子が現れる。

「アニキ! 食料は買ってきたんで! 行きましょう!」

 リーダー的存在だった男がそう言って、周りにいた男たちが教室に入ってきて、優介を立ち上がらせて、教室からゆっくりと押し出す。

「……行くってどこに」

「図書室っすよ。アニキの彼女、いつもそこにいるんっすよね?」

 耳元で誰に聞こえないようにそう言うと、優介は顔を赤くする。

「ば! ちげえよ! 彼女じゃねえし、この前会ったばっかだし!」

「またまたー照れちゃってー……アニキもシャイなとこありますねー」

(ナニこの距離感……昨日までオレを追いかけてた奴らだけにものすごいイラつく……)

 眉間にしわを寄せながらも階段を上っていって、不良グループのメンバーと一緒に図書室に足を踏み入れる。

 いつもの司書の女性は優介たちが入ってきた事により、目を丸くして固まった。

「おっ! いんじゃん! おーい!」

 一番端の席に座って本を読んでいた彼女に声を掛ける男。

 それに対して彼女は優介たちの方を振り向いて、微笑みながら手を振り返した。

「かわいいっすね。アニキ……」

 不良グループのメンバー全員が頬を赤らめて鼻の下を伸ばすのと同時に優介の黒い手袋をはめた左手が振り上げられる。

「てめえら歯ァ食いしばれ」

「わあ! すみません! ご勘弁を!」

 一斉に自分に向けて頭を下げる彼らを見て、何ともまとまっていることだ、と思いながらため息を吐き、彼らと一緒に図書室に奥に足を踏み入れた。

 彼女のいる一番奥の席に近い机にそれぞれ座って、学食で買ってきた昼ご飯を食べ始める中、司書の女性はその光景を見ていた。

(ちゃ、ちゃんと注意しなくちゃ……ここの責任者なんだから! ここの環境は私がちゃんと管理しないといけないのよ!)

 彼女は独りでにそう頷いて、勇気を振り絞って彼らの席に向かう。

「あ、あの!」

「あぁん?」

 一斉に司書の女性の方を振り向いて睨みつける男たち。

 その時、彼女の勇気は消え去った。

「い……いえ……何でもないです……」

 今にも泣き出しそうな顔で背を向けて、泣きながらカウンターの方に小走りで帰っていった。

 そんな女性の背を見ながら気の毒に思うのと同時に、優介の方を向き直ると笑顔になる男たちに呆れるように言う。

「あのなぁお前ら……話しかけてくる人全員にそんなに殺気立っても意味ねえし印象悪くなるだけだぞ?」

「え? 不良って印象悪くなってなんぼの世界じゃないっすか?」

 優介より二つ年齢が上の先輩の言い分は正しく、彼も反論はできない。だが、このままでは彼らのリーダーを勝手に任された自分に悪いイメージが完全に定着してしまう。

 そして、何ともまとまりがあり自分についてくると言う意思を持った彼らを見て、思いつく。

「よし。お前ら今日から人に会ったら笑顔で挨拶しろよ。んで、放課後は校門で掃除な」

「アニキィ! 何いってんすか! 俺たち不良っすよ! そんなマネできねえ!」

「あぁ? お前ら、自分の口でオレが何と言おうとついていくみたいなこと、言ってたよなぁ? 約束が違うんじゃねえか?」

 自らの周りにいる男たちを睨みつけると、男たちは一斉に首を縦に振った。

 ずっと近くで不良グループの行動を見ていた篠沢菜緒はクスクスと笑う。

「そういやあ自己紹介がまだでしたね、アニキィ! 俺が元リーダーの修一。シュウでいいっすよ」

 耳にピアスに頭は金髪の男がそう自己紹介すると、それぞれ自己紹介していって、最後に回ってきたのが自分。

「浅葉優介」

「じゃあ、サバのアニキでいいすか?」

「お前馬鹿にしてんだろ?」

 それから他愛もない会話は続いて昼休みが終わり、すぐに放課後に突入する。

 昼休みに言っていた通り、不良グループ全員で校門の掃除だけでなく、学校全体の掃除をする。

 急に学校の番長的存在だった者たちが奉仕活動に勤しんでいる様子は生徒に首を傾げさせ、ある意味怖いものでもあった。

 一通り綺麗になったのを見計らって掃除を終え、優介も帰宅しようとする。

「えっ? もう帰っちゃうんすかアニキィ。喧嘩の仕方とか教えてくださいよー」

「あのなー……オレにはこの左手のハンデもあるし、喧嘩もそんなに強くねえの! だから、教えることなんかねえよ。お前らも早く家に帰れよー」

 右手を振りながら去っていく自分たちのリーダーの姿を見ながら、修一はある事を思い出した。

「あ、そういやあ……」

 と話そうとしたが、既に優介の背中は遠くにあり、明日でもいいかと口を閉ざした。

 優介が家に帰ってもいつもどおり誰もいない。

 仕方なく出された宿題をやって、父親の帰りを待つ。

 夜の九時を回ったくらいに帰ってきて、いつものようにコンビニの袋を机の上に置いた。

「何だって? 絡まれとった不良のてっぺんとったぁ?」

「うん」

 昨日怪我していた言い訳と今日起こった出来事をあらかた説明したが、父親は首を傾げる。

「よくわからん。お前学校で何しとーとや?」

「いや。勉強やけど……――勉強してるんだけど……!」

「なんで言い直すとや? 別に方言くらいよかろーもん」

(恥ずかしいんだよ……)

 優介はコンビニ弁当を食べる事に集中した。


 ◇


 優介が不良グループのリーダーになってから早一週間が経過した。

 優介による不良のイメージアップ計画は順調に成果を上げてきている。

 それはクラスの彼への態度からも分かる事だった。

 一週間前にはあからさまに離されていた机も普通の距離に戻り、何人かの男子生徒は声を掛けてくるまでになった。

 そして放課後の校内掃除も習慣化し、不良たちも進んでそれをするようになった。

 まとまりがあって、実力主義と言って年下の自分の言うことを聞いてくれる不良たちを本当は良い奴らなのではないかと思い始めていたそんな時、掃除していた優介に修一が話しかけた。

「あっ! すっかり言うの忘れてたっすよ、アニキ!」

「なんだよ」

「今度、他校の奴とタイマンがあるんで、よろしくっす」

「ああ、タイマンね。はいはい…………――は?」

 掃いていたほうきを持った手を止めて、修一の方を向く。

「タイマンって……一対一の対決?」

「そっすね」

 日常茶飯事のように淡々と答える目の前の男に対して、優介は修一の言った「よろしく」と言う言葉が引っかかっていた。

「オレがすんの……?」

「何いってんすか。アニキ以外に誰がやるってんすか?」

(だよねー……)

 ほうきの先に両手を置いて、そのまま顔を俯けると大きなため息を吐く。

「それいつ? なんのために?」

「今週の土曜日っす。何のためにって……ここは東高校っすよね?」

 顔を上げて頷く優介。

「そんでこの地域には他に北、南、西、中央高校がそれぞれあって、縄張り争いしてるんすよ。聞いたことないすか?」

 聞いたことはあった。そして、今のご時世そんな事はないだろうとも思っていた。

「ここは最弱の極東。南高の連中の植民地っす。でも今回、南高もリーダー変わったんで、タイマンでこっちが勝ったら植民地じゃなくしてくれるんす」

「別に植民地のままでもいいんじゃねえの?」

 修一は大きく横に首を振って否定する。

「いろいろとデメリットがあるんで! 絶対に勝たなきゃダメっす!」

「あっそ……」

(まあ、適当にやって負ければいいか……)

 優介はそんな安易な考えだったが、現実は甘くなかった。


 ◇


 一対一の対決、当日。

 自分たちの高校を示すために制服を着用していかなければならず、集合場所も東高校だった。

 わざわざ、あちらの高校が来てくれるらしい。

 校門に着いたのは午後二時。こんな真昼間からタイマンをするという。

 既に不良面子は揃っており、あとは相手の南高校の人たちを待つだけだ。

「オレとタイマンするのって南高の番長だろ? ガタイとかいいんだろーなー」

「いや、南高の頭は女っすよ。金髪で長髪で顔は案外かわいかったっす。スタイルも良かった」

 鼻の下を伸ばしながらそう言った修一の言葉に嘘はなさそうだ。

 そして、そんな女子高生と戦う張本人である優介は絶句していた。

「……オレにリーダー譲ったのって戦いたくなかったから?」

「い、いや! そんなわけないじゃないすか! あ、ありえないっすよ、あんなやつ!」

「誰があんなやつだって……!?」

 その瞬間、話していた二人は漸く南高校の者たちが来ていることに気がついた。

 修一の言っていたとおり、金髪の長髪で、金属バットを片手に持ったセーラー服の女はスタイルも良かった。

 その後ろには明らかに東高校の不良とは違い、体つきの良い男たちがいる。

(そりゃ、縄張り争いになったら負けるわな……)

 後ろの男たちとは戦わないで済んだ事に安堵の息を吐くが、それを率いる女の方も厄介な物を持っている。

「な、なんでもねえよ! 移動するからついて来い!」

 そう言って歩き始める修一の後ろを優介はついていき、その後ろに東、南高校の不良がついていく。

 たどり着いたのは人の寄り付いていない小さな公園だった。

 その公園は川の横にあるのだが、狭い路地を通って行かなければならないような所に位置しているため、こんなにも人が寄り付いていないのだろう。

 もっと、大きな道路の横とか、狭い路地など通らなくてもいい場所に作ればいいのにとも思うが、今はそんな事など関係ない。

「で、そっちは誰がやるの?」

 バットを持った女が東高校の不良と向き合って尋ねるが、優介は前に出る事はしない。

 そうやって逃れようとしたのだが、代わりに優介の周りにいたはずの不良が後ろに下がっていた。

「へぇー。あんたが」

 優介を足元から頭のてっぺんまで見ると、女はバットの先を優介に向けた。

「こっちは早く済ませたいの。早速やるわよ?」

 そう言った女は優介の返事を聞く前に間合いを一気につめて、持っていたバットを振るった。

 そのバットの振るわれる速さは避けるには十分すぎるほど遅く、勿論優介も何も考えずにバットを避けた。

 バットは空を切り、人に当たらない。が、金髪の女は狙い通りとばかりに笑みを浮かべてみせた。

 その笑みを見て、何かが起こるとは思ったものの優介の体が動くよりも女の行動の方が速かった。

 バットの持つ方の先に取り付けられたボタンを彼女が押した瞬間に優介と他の東高校の不良たちは後方に吹き飛ばされた。

 少しだが宙に浮いた感覚を味わい、次の瞬間には重力に負けて地面に叩きつけられる。

「まだ、序の口よ」

 そう言ってバットを、倒れた優介たちの方に向ける女。

 立ち上がる優介には今さっき何が起きたのかさっぱりで、バットに何か仕掛けがある事と、うかつに女に近づいてはいけない事だけは分かった。

 だが、此方から近づかなくとも女の方からは優介の方に近づいてくる。

 バットのボタンを押しながらもう一度振るうと、さっきと同じくらいの強風が彼らを襲い、また地面に叩きつけられる。

「くそ! なんで女子高生がそんなバット持ってんだよ!」

「さあ? なんでだろうね!」

 地面に倒れた優介に近づいてその顔に向けてバットを振るう。

 それを紙一重で避けた優介だったが、女がボタンを押すと同時に彼は地面を転がる。

 段々と女の戦い方が分かってきた。

 近づいたらバットの餌食。それを避けたら強風で攻撃。相手が間合いを取り始めても強風で攻撃。

 子供が新しい玩具を手に入れて、それを使って遊んでいるような笑顔で彼女は優介たちを見る。

 いや、本当に彼女はバットを手に入れたばかりで、その実験としてこの一対一と言う方法を選んだのかもしれない。

 優介は起き上がると同時に地面を蹴った。

 彼女に向かって突っ走り、それに合わせて彼女もバットを振るおうとする。

 だが、そのバットは優介の黒い手袋をはめた左手に受け止められるのと同時に折れ曲がり、そのまま優介は彼女の腹を右手で殴った。

 へし折られたバットが地面に落ちるのと同時に彼女も優介に支えられながら、地面に寝かされる。

「これでオレらの勝ちだろ?」

 南高校の男たちが彼女の方に近寄って、その意識を確認すると優介の方を睨みつける。

「んだよ。やんのかァ?」

 優介のその挑発には応じることなく、「覚えてろよ!」と彼女を担いで去っていった南高校の不良軍団。

 東高校の不良連中は声を上げて喜んだ。

 それから家に帰っても、父親は今日も出勤しているので誰もいない。

「不良って案外チョロいな……」

 なんて皮肉を口にしながら畳の上に座って、父親の帰りを待つ事にする。

 土曜日なのでいつもより早い六時くらいに帰ってくる。

 今の時刻は六時半だった。

 公園に長居しすぎたと思いながら、父親を待っていても一向に帰ってこない。

 その夜、優介は何も食べないまま過ごし、結局父親は帰ってこなかった。

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