第九話 謁見と裁判とツンデレと
【登場人物紹介】
主人公 綾瀬雷人:トイレから転生した薬剤師
女勇者 キャロル・R・バーミリオン:巨乳
女魔法使い ユーリン・ドーランド:ドS
女戦士 レイラ・ライトニング:まとも
女僧侶 セシル・フリード:天然
竜王 転生完了という迷惑な言葉を残し死亡したラスボス
僕たちは噂の変態王に会うべく、今は応接間にいる。
ただし女性4人は英雄として、僕は拘束され犯罪者として。
しかも「王に会わせるなら万全を期さないと」とか言い放った宰相のせいで、宮廷魔術師から新たに魔法の縄をはめられた。
ほぼ動けない状態だが、女魔法使いのよりかなり締め付けは楽である。
また自由には喋れるが、どうやら魔法を封じる呪文をかけられているようだ。
「魔法を唱えようと思っても、む、無駄なんだからね」
宮廷魔術師は女だったようである。しかもツンデレくさい。
こちとら暴れる気も魔法を唱える気もさらさらない。魔法しらないし。
変態王は、名前自体がヘンタイというらしく、別に縄が好きとか縛るのが好きとかそういう事ではなく、こちらの世界で「ヘンタイ」とは「勇敢な、力強い、心優しい」という意味になるらしい。
ライトが浮気性の意味だったり、ちょっとずつ言葉の意味合いが変わってくるようだ。
彼女たち4人も王様に会うというのはレアな事のようで、口数も少なく緊張しているのが分かる。
僕も自身の運命がこれで決まるかと思うとかなり緊張する。
しかし何も良い言い訳が思い浮かず、時間だけが過ぎていく。
「王がお会いになられます」
そうこうしているうちに案内役の人が来てしまった。
ここまで来たら仕方がない。
腹をくくって、ありのままを話すしかないだろう。
信じてもらえるかどうかは、自身の話術にかかっている。
ドラッグストアで鍛えられたコミュニケーション能力が生きるはず…!
しばらく案内役に付いていくと、大きな扉の前で止まった。
横にドラゴンのようなライオンのような形をしたノッカーがあり、案内役が2回叩くとすぐに扉が開いた。
その向こうにある部屋は想像以上に広く、天井が高い。
上から大きなシャンデリアが下がっており、ガラス窓から入る太陽光をキラキラとはね返している。
中央に伸びる紅い絨毯は奥にまで繋がっており、そこに座る人物の威厳をさらに引き出していた。
あれが王様だ。
ヘンタイ王とかいうからどれだけ変なのかとちょっとだけ期待してしまっていたが、そんな気持ちも吹き飛ぶ程の、圧倒的な存在感でそこに鎮座していた。
案内役に促され、僕たち5人は恭しく部屋の中央あたりまで進んだ。
そこで4人が片膝を着き頭を垂れた。
僕も慌ててそれに倣う。
拘束されているので正座スタイルになってしまったが。
「よいよい。面を上げぃ」
その声を合図に、5人は姿勢そのままに頭だけ上げた。
目の前に座る王は齢60ほどであろうか。
幾多の困難を乗り越えてきたのであろう皺が顔の表面に刻まれており、口元にはそれに負けず劣らず立派な白髭が蓄えられていた。
何か言葉を発するたびに髭がモゴモゴ動く。
「竜王を倒したのじゃな。王国を、いや世界を代表して礼を言う。よくやってくれた」
そう言って王は頭を下げた。
王が頭を垂れるというのは例外中の例外なのだろう。この行為に周りの臣下も驚いたようで、慌てて頭を下げた。
「ありがたき幸せ」
「そう畏まるでない。貴殿らはもはや英雄なのじゃからな」
そう言って笑うその顔からは優しさが溢れ出てくるようで、王の人格が見て取れる。
何かこうアットホームな雰囲気で、厳かな雰囲気と絶妙なバランスでこの部屋が成り立っているような印象だ。
それはこの王の作り出す空気そのものであり、自分はこの国の王なんだと、言わずともアピールしているような不思議な感触だった。
「ところで…」
表情を引き締めた王が、僕の方に目線を動かす。
ついに来た・・・!
思わず心臓がキュウと締め付けられる感覚に陥る。
だが良い言い訳が思いついたわけでもないので、起こった事をそのまま伝えるしかない。
ここは先手必勝。自ら攻めて行くのだ。
「実は・・・」
「ロングアイで観ていた。お主、竜王の生まれ変わりだとか」
やられた・・・!
もう完全にバレていた・・・!
しかも被せるように言われ、先手さえ取れていない。
僕はもう頭が真っ白になり、周りの言葉を聞くだけで精一杯になってしまった。
口をパクパクさせている僕を見て、勇者が代わりに答える。
「左様にございます。彼は否定していますが、竜王は彼を見て『我の転生先』と言い放ちました」
「ふむ。しかし彼は風貌から一般人のようにも見えるが、あんな場所で何をしていたんじゃろな」
「彼曰く、別世界から飛んできた・・・と」
何を言い訳がましい!と色めき立つ兵士たちだが、王はそれを片手で抑え付ける。
「ほほう。別世界。それは興味あるな。詳しく聞こうじゃないか」
「しかし王、仮にも竜王の転生先と名指しされた人物ですぞ。そんな輩の話など聞く必要ございません」
横に立って成り行きを聞いていた宰相が、それはイカンといった感じで割って入ってきた。
いかにも文官といった軽装に身を包んでいる彼は、周りを固める重装備の兵士と対照的ではあるが、それ以上に彼を特徴づけているのがその風貌である。
肌は浅黒く、毛というものが顔に一本もない。
肩は突出し、薄い服装だけにそのガタイの良さが余計に際立つ。
「良いではないかザイザル。余は興味があるのじゃ。魔力は封じておるのじゃろう?」
「そ、それはそうでございますが…」
ザイザルと呼ばれた彼は、筋肉で動きにくそうにしながら王へ返答する。
「見たところ怪力という感じでもなかろう。良い良い。縄をほどいてやれ。そして宴じゃ。今日は竜王を倒した記念すべき日。皆で詠い飲み明かそうではないか」
どこまでお人よしなんだ・・・といった落胆が家臣に一瞬感じられたが、宴と聞いた召使たちが部屋に入ってきてすぐに騒がしくなった。
「さあさあ、準備がございますゆえ、女性陣はこちらへ」
勇者一行は召使たちに半ば強制的に引っ張られ退場していった。
あっけに取られている僕を、王が呼び寄せた。
騒がしくて声は聞き取れなかったが、手招きしているのが見えた。
やだな・・・とは思ったが、鶴の一声で僕の命を救ってくれた大恩人である。
断る事など出来なかった。
歩き出した僕は、拘束が解かれている事に気付いた。
さっそくあのツンデレ魔術師が解いてくれたのだろう。
自由に動ける!
僕は思わず両手でガッツポーズをした。
思い通りに腕を動かせることがこんなに嬉しいなんて。
王はすでに立っていて、僕が来るのを待っていた。
隣には筋肉隆々の宰相がいて、僕の行動を逐一観察していた。
僕は最大限のお辞儀をしながら、しどろもどろで礼を言った。
「さ、先ほどはワタクシの命を救ってくださり、その・・・あ、ありがとうございます!」
いやいや良い良いと、掌を見せながら応えるヘンタイ王。
名前の通り優しい心を持っているようだ。
威厳と同時に親しみを感じる人物である。
こういった人が上司だと、下はやりやすいだろうな。
「それよりお主、、、『地球』から来たんじゃろ?」
!!?