第六話 「薬剤師」
僕は縛られたまま馬車に乗せられていた。
完全に疑われていた先程とは違い、猿ぐつわも無いし、気持ち、縛りが弱いようにも感じる。
と言ってもほぼ身動きとれないし、魔法の縄にそんな微妙な違いを出せるとも思えないけど。
僕は魔法を使えないので分からないけど、たぶん魔力も封じられているのだと思う。
白とも透明とも言えない不思議な縄は不気味に静電気のようなものを飛ばしていた。
だが口が塞がれていないだけで随分と違う。
おかげで彼女たちと少し喋る事ができ、名前を知る事ができた。
それぞれ、
女勇者 キャロル・R・バーミリオン
女魔法使い ユーリン・ドーランド
女戦士 レイラ・ライトニング
女僧侶 セシル・フリード
というらしい。
ハッキリ言って横文字の名前は覚えにくい。
僕の名前も教えたが「綾瀬」というのが発音しにくいらしい。
よって自動的に雷人と呼ばれる事になった。
この世界で「ライト」というのは「ふわふわしている。浮気性な」という意味らしく、自己紹介した時は爆笑されてしまった。
イラッときたが、彼女たちの幼いというか純真な笑い顔に、不思議とこちらも笑い顔になるのだった。
その時から(お互い)グッと距離が近付いた感じがし、色んな話をするようになった。
異世界(僕がいた世界)の話は、特に興味津々のようだった。
セシルが「それ古文書に書いてあったような気がする…」とかなんとか言いながら、自分の勉強不足を嘆いていた。
「それでライト…ププッ…の職業はなに?戦士?魔法使い?」
名前がツボだったのか、戦士レイラがまだ笑いを堪えながらながら聞いてきた。
「いいかげんにしろよな…。アッチの世界には"戦士"とか"魔法使い"っていう職業は無いの。僕の職業は薬剤師だよ薬剤師。知ってる?」
知ってるわけないよな、もしかしたら似た職業はあるかもしれないけど…とか思いながら返答すると
いきなり全員がピタリと止まり
「やく…やくざいし?薬剤師って言ったかお前!?」
さっきの事があるのか、あまり輪に加わらなかった魔法使いユーリンが突然、僕の胸ぐらを掴んで聞き直してきた。
「あ、ああ。言ったよ。薬剤師」
こっちにも存在するんだ。
向こうではどうも医者より格下に見られ勝ちだけど、このラオセルという異世界では珍しいものなのかもしれない。
・・・
・・・
ってか…
「痛いわ!」
ガクガク揺らしている手を首で払いのける。
なんなんだこの魔法使いはいったい!
人を丸焼きにしようと思ったり今度は首を絞めてみたり!
「ああ、す、すまない。思わず興奮してしまって」
おや以外にしおらしい。
そんな態度を取られると、こっちが悪い気がしてしまうじゃないか。
「ゴホン。で、薬剤師はそんなに珍しい職業なのか?」
全員が顔を見合わせた後ユーリンが口を開く。
「珍しいもなにも、伝説の職業だ。世界で一人しかいない」
お読みいただきありがとうございます。
ゆっくりですが書いていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。