第二話 そして死亡
あまりの衝撃にまだ目の前がクラクラしている。
今までの人生で告白なんてされた事は無いが、ものすごい美人に突然告白されたらなら、これと同じようなショックを受けるのだろうか。
いやそもそもその後に湧き出る感情が違うので比べようもないか。
明らかに悪役であるラスボスに『我の転生先はお前だ』なんていう告白とは…。
あれからすぐ気を取り直した勇者一行が竜王を倒し、いま目の前で僕の処遇についてあれこれ議論している最中だ。
もちろん僕は縄で拘束されている(正確には縄のような効果を出す魔法?で口まで塞がれている)。
抵抗しなかった事に驚かれたようだが、そもそも逃げられないし、武器を所持している人に追い掛け回されたらそれこそ生きている心地がしないだろう。
というわけで大人しく捕まったのである。
そもそもこれは夢なのだ。
僕からしてみれば「早く覚めないかな~」程度の事である。
まあしかし夢だと認識できる夢を見るのは初めてだし、この状況を楽しみたい。
でも痛いのは嫌なので「ふはははは!我こそ竜王の生まれ変わりなり!」と言う勇気もない。
ビックリしたのが、実は全員女性だったことである。
戦士はその風貌から男だとばっかり思っていたのだが、戦いのあと兜を脱ぐと綺麗なブロンドで長髪の女性が現れた。
しかも美人である。
脱いだ兜から汗と洗髪剤が混ざったイイ匂いがした。
「だから、竜王の生まれ変わりなんだろ?今すぐ倒すべきだ」
戦士女が提案する。
美形の顔とはうらはらに恐ろしい提案をする女だ。
見た目で騙されてはいけない。
「しかし、あくまでヒュームだし倒しちゃうってのは・・・」
ヒュームってのは人間って意味なのか知らないけど、この僧侶みたいな可愛らしい銀髪女性は博愛主義者だな。
もうこれだけで惚れてしまいそうだ。
「ユーリン、君はどう思う?」
いかにもリーダーらしく女勇者が最後まで黙っていた魔法使い(僕を縄で拘束したのもコイツ)に聞く。
この勇者も魔法使いも美人である。
ユーリンと呼ばれた魔法使いは険しい顔のまま一歩下がった。
「キャロル様、ご無礼をお許しください…!」
そう宣言したかと思いきや、突然その魔法使いは謎の言葉を呟き始めた。
「やめるんだ!ユーリン…!」
そう叫んだ女勇者の言葉が終わるか終わらないかと同時に、女魔法使いの周りに大量の炎が渦巻き始めた。
彼女自身は平気そうなのだが、彼女以外の全員が腕で顔を覆うほどの高熱が発せられているのが分かる。
その目はまっすぐに僕を見ており、手はカメハメ波の型でこちらに向けている。
僕を攻撃する気満々だ。
「ん゛ーっ!ん゛ーっ!」
魔法で口と全身を拘束されている僕には、モゴモゴ叫ぶしか抵抗の方法がない。
いまここで起こっているのは夢と信じているけど、これがもし夢じゃ無かったら!?
突然そんな事が脳裏に浮かぶ。
さらには幼稚園で好きな女の子と手を繋いで嬉しかったことや、小学生の時にサッカーでレギュラーになった事。今まで生きてきて嬉しかった事が順番に思い出される。
「死」というものを意識した事は無かったけど、これがそうなのか。とか妙に納得してしまう。
実際にはコンマ何秒の世界なのだろうけど、僕自身には数十秒に感じられた。
なんかヤバイ。
汗も一瞬で蒸発するくらい熱いのに、冷や汗が背中を流れるのを感じる。
これは夢なんかじゃない。
夢ならここらで目が覚めているはずだ。
この炎も熱も本物だ。
だがしかし、気付くのが少し遅かったようだ。
後ろで女勇者が熱さに顔をしかめながら、まだモゴモゴ何かを唱えている魔法使いに駆け寄っているのがゆっくりと見えた。
手が彼女の肩に触ろうかというくらいに、魔法使いの手の平からこちらへ炎の塊が一直線に飛んでくる。
熱ッッ!!!
と感じると同時に目の前が一瞬で赤色に染まり、次にゆっくり真っ暗になっていき意識が遠のいていくのが分かった。
これが「死ぬ」って事か…。
死ぬのって意外と簡単なのね。
とか人生の最後なのに変に納得してしまった。
今になって、この世界に来る前の事を思い出す。
そうだ、僕はトイレにいたんだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ゆっくり書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。




