第十五話 いよいよ冒険が始まるようです
【登場人物紹介】
綾瀬雷人:主人公
ユーリン・ドーランド:女魔法使い ドS
ラウール国王:名前はアレだけど立派な王様
ザイザル:ラウール国宰相 黒光り筋肉
竜王:迷惑な言葉を残し死亡したラスボス
【あらすじ】
トイレから転生イリュージョンした薬剤師ライトは何故かラスボス竜王に「後継者」と名指しされてしまう。
しかし何とかこうにか自由の身を得たライトは冒険者の適性検査で「薬師」と出たかと思いきや、その試験をいきなり言い渡されてしまう…。
冒険者協会を出てきた時にはもう、身体がぐったりしていた。
あのあと何度も確認したが、やはり薬師とはアイテム合成・魔法・召喚を行う職業らしい。
名前の由来は、全ての行為に薬品を使用するから、だと。
それで簡単な手続き…名前と検査結果を書かれた紙(魔法で書いてあるようだけど)を貰い、特別な試験というものを引き受けてきた。
「おーそーいー」
出口ではユーリンが腰に手を当てて待っていた。
顔は凄く怒っているようだが、それがなぜか懐かしく感じる。
ゴメンと手を合わせ素直に謝る。
「それで、検査の結果はどうだったのよ」
一応、気にしてくれていたらしい。
待っていた事にもっと怒られるかと思ったが意外な反応である。
中で起こった事を、順序だてて彼女へ説明する。
会長が出てきた事にもっと驚くかと思ったが、どうやら彼女の時も「なんじゃとぉ」とか言いながら登場したらしい。
魔法使いそのものはそこまでレアというわけではないが、その能力を現す数値が異常なほど高く100年に一人の逸材と褒められたと、自慢げに教えてくれた。
そりゃ街を吹き飛ばす人がそう何人もいては堪ったものじゃない。
「しかし薬師とはね。前の世界で薬剤師やってたってのは、あながち嘘じゃないのかもね」
こっちの世界では伝説の職業らしいからね。
僕らの世界で言うと、「前の世界では大統領やってました」ってのと同じレベルなのだろうか。
「で、出された試験というのはどういうのなのよ」
そう、本来なら月一でしか冒険者資格試験が無いはずだが、会長の気まぐれで特別に試験を出されてしまった。
いきなりで驚いたが、考えようによってはすぐに自立できるチャンスでもある。
この試験をモノにして何とか自分の世界へ帰る方法を見つけたい。
王様からも情報をもらえると思うが、それはとりあえずこの試験が終わってからにしよう。
「あのさ、別に心配してるわけじゃないからね。案内役として早く終わらせたいだけ」
考え事をしていたら何か勘違いされたらしい。
こちらも別に心配して欲しいと思わないが、案内役がいなくなれば試験自体が無くなってしまう可能性が高いので突っ込まないようにしておいた。
「試験というのは・・・」
試験というのは、冒険者協会に寄せられた住民からの依頼の中で超初級に当たる部分を選んで割り当てられる事が一般的なようである。
依頼も片付けられるし試験も行える。まさしく一石二鳥である。
僕の場合も例に漏れずそのような試験内容だった。内容は、
『街の住人が近所へマッシュ狩りへ行ったら近くの小さな洞窟にゴブリンが住んでいるのを見つけたので退治して欲しい』
というものであった。
退治とか出来るわけないじゃん!と思ったが、こちらには案内役がいる。しかも世界最強クラスの魔法使い。
聞くとゴブリンも、成人なら余裕で勝てるレベルとのこと。
これは頂いたも同然だ。
思わず即答で「やります!」と返答したのだった。
試験の結果はロングアイという魔法で判断するらしく、受付のお姉さんから魔法をかけられている。
ロングアイは離れたところから術者が、魔法をかけた相手の目線で物事を見れる。
上級者になると水晶に映し他の人と一緒に見ることが出来るらしいので、実際に目の前で水晶に映していたお姉さんは上級者という事になる。
勇者一行が竜王を倒した確認はどうやっているのかずっと不思議だったけど、この魔法を使っていたようだ。
「退治ってあんた、その格好で行くわけ?」
こちらの世界へ着の身着のまま飛ばされてきたので、向こうの洋服そのままの格好でずっと過ごしている。
少し汚れているが気にしなければ何も問題ない。
だが彼女が言っているのはそういう事ではなく、剣や防具は必要ないのか、という事であろう。
確かにその通りである。
いくら試験が余裕だからと言って、自分がやられては意味がない。というよりケガが怖い。
僕は迷い無く防具屋へ足を進めた。
防具屋は大通りに面していたのですぐに分かった。
最初、店長は訝しげにこちらを伺っていたが、単位の分からない「50R」というコインを見せたら態度が一変し奥の部屋へと通されてしまった。
「あんたパパからそんなに貰ったの!?」とユーリンも驚いていたので、どうやらかなり価値のあるお金だったらしい。
僕は遠慮なく、高級品であろう軽くて強そうな防具を選んだ。
値段は15Rであった。
お釣りで隣にある武器屋へ行き、これまた高級そうな軽い細剣を選んだ。
剣の扱いに慣れていないので振り回した時に店長の服も一緒に切り刻んでしまったが、引きつりながらも終始笑顔で接待してくれた。
お金の力って凄い。ありがとうザイザルさん。
革のような防具(ユーリンによると魔法がかけられているらしい)と細剣を装備し、Tシャツとレギンスがいまいちながら、ファンタジーっぽい格好になってきた。
いよいよ冒険かという気概が生まれてくる。
ずっと鬱陶しそうに付いてきたユーリンも根っからの冒険者らしく、今は少し嬉しそうにしている。
「この街から出る瞬間がたまらないのよね」と言っているのが印象深い。
この興奮と不安が入り混じった感覚は、確かに冒険者にしか味わえないものだろう。
街を囲っている城壁から出ると、ちょっとした山々と見渡す限り草が生い茂っていた。
最初ここに連れてこられた時は縄で縛られた状態で、自分がどうなるかも分からなかったし景色を見る余裕なんてなかった。
いま見てみると、いかにもファンタジー世界にありそうな風景が広がっている。
風が草木の匂いを運んできて、ここはリアルに存在しているんだというのを改めて思い知らされる。
「さあ行くわよ」
ここに来るときには僕を拘束していた張本人が、現時点で最も頼らなくてはいけないパートナーとして横にいる。
不思議なものだと思いながら、人生初の冒険に向かうため僕は細剣の柄を握りしめた。