第十三話 白は正義
【登場人物紹介】
綾瀬雷人:主人公
ユーリン・ドーランド:女魔法使い ドS
ラウール国王:名前はアレだけど立派な王様
ザイザル:ラウール国宰相 黒光り筋肉
竜王:迷惑な言葉を残し死亡したラスボス
【あらすじ】
トイレから転生した薬剤師ライトは何故かラスボス竜王に「後継者」と名指しされてしまう。
しかし何とかこうにか自由の身を得たライトは自立の第一歩として「冒険者の資格」を取ろうとするが、案内役として犬猿の仲である女魔法使いユーリンが来る事に・・・。
薄れゆく・・・と言ってもほんの一瞬だったらしい。
目が開いた時には仰向けに横たわっていて、すぐ上に仁王立ちしているユーリンがいた。
この女に意識を飛ばされるのはこれで2回目だ。
美女にそうされるのはある意味うれしい事なのかもしれないけど、こいつだけは別だ。
性格が、絡みついてなかなか取れない洗濯物のように捻じ曲がっている。
「いつまで寝てんの?さっさと行くわよ」
クルリときびすを返すユーリン。
その瞬間、ある物が目に飛び込んできた。
「パパ・・・パン」
「…はあ?何言ってんの?アタマ打っておかしくなったのかしら」
思わず口走りそうになってしまったが、
僕はそれ以上なにも言わず、立ち上がると大人しく付いて行く事にした。
殴られた左頬がまだズキズキと痛いが、いいものが見れたので良しとしよう。
・・・・・・
白でした。
冒険者協会の建物は一目瞭然だった。
『冒険者教会』と書いてある看板と建物こそ控えめだったが、そこに多数の冒険者らしき人たちが並んでいたからである。
これにはユーリンも驚いていたようで、「いつもなら寂れたスナックみたいなのに」と感想を述べている。
僕はこの世界にスナックが存在する事の方が驚きだけど。
そんな彼女は並ぶ直前、「私は案内するだけだから並ばないわ」とどこかへ行ってしまった。
何はともあれ、列に並ばないと始まらないので大人しく一人で最後尾に並ぶ。
見たところ待っているのは10人ほどである。
今日は試験日じゃないはずなので、全員…
「あなたも適性検査かしら?」
すぐ前に並んでいた美人…なんだけど凄く性格の悪そうな女性が話しかけてきた。
長身を生かし(といっても僕より低いけど)見下したかのような姿勢でこちらを見ている。
ジャラジャラとした装飾類がとても重そうだ。
「ええまあ。あなたも…」
「この冒険者教会も地に落ちたものね」
と、こちらが言い終わる前に言葉をかぶせてくる。
「あなたみたいな凡人が冒険者?笑わせてくれますわ」
オーホホホとさらに身体を反らせるが、その体制はかなりキツそうだ。
というか反りすぎて顔がほとんど見えなくなっている。
「まったく、そこのユーリンは何を勘違いして彼を冒険者にしようと思ったのかしらね!」
突然こちらへ向き直しズビシと人差し指を向けてくる。
だがその指先には誰もおらず…
ヒュオオオオ
と北風が吹くのみである。
「ユーリンならさっきどこかへ行きましたけど…」
「・・・・・・・」
人差し指を今度は僕に向ける。
「とっ、とにかくあなたは冒険者には向いていない!適性検査を何度も受けたワタクシが断言しますわ!」
オーホホホホと高笑いしながら建物に入っていってしまった。
何度も受けたってそれ、冒険者には向いていないんじゃ…。
と突っ込みたくなったが、これ以上係わったら面倒くさそうなので止めておいた。
ユーリンとはどういった仲なのか分からないけど、あまり良い関係でないのは確かのようだ。
ひょっとしたら並ぶ直前に消えたのは彼女の姿を見たからなのかも知れない。
建物に入ると数人がまだ並んでいて、その先にある大きな水晶まで続いている。
あれが噂に聞く極大水晶なのだろう。
それは想像以上に大きく大人の背丈以上あり、また形も丸いというより六角形に近い姿をしていた。
唯一正面部分だけが加工されており、鏡のように目の前の人物を映していた。
入ったとき、ちょうど鉄の鎧を着たオジサンが順番だった。
腰には大きな剣をぶら下げており、いかにも戦士らしい恰好だ。
しばらく待っていると水晶に映っていた姿がボヤけ、次に瞬間には別の装備になって映っていた。
「はぁ~い。出ましたにゃ。あなたは盗賊に向いてるにゃ。んじゃ奥で手続きだけ済まして帰っていいにゃ~」
突然、横から軽い感じで女性が出てきた。
緑髪の彼女は、気のせいか頭にネコのようなミミが付いているような…。
ポカーンとなったオジサンは「はあ」とだけ言って、ガチャガチャ鎧を鳴らしながら奥へ消えていった。
きっと戦士向きと言われるとばかり思っていたのだろう。
その後も、
「戦士向きにゃ」
「あ、僧侶向きにゃ。レアものにゃ」
と本人の予想通りかそうじゃないのか分からないが、軽くもビシバシと遠慮なく職業を通達していくネコ耳女。
どうやらこの冒険者協会の職員のようだ。
そう言われると、僕は何の職業向きなんだろう。
あの水晶がどういった理由で職業を言い当てているのか不明だが、たぶん本人から出るオーラから素早さ・力の強さ・賢さなどを読み取って、最善の職業を表示しているのだと思われる。
職業には何種類かあるようだが、どう考えても大剣を振り回せるほど力が強いと思えないし、マラソン大会でビリを争っていた僕に素早さがあるとも思えない。薬剤師の免許を持っていても魔法を使える賢さは無いと思うし。
そういやあの勇者一行は、「薬剤師」という職業がこの世界にも存在し、しかも伝説の職業とか世界に一人しかいないとか言っていた。
結局あの話はうやむやになってしまったが、気になるところだ。
冒険者の資格を手に入れたら、まずその伝説の一人を探す事を目標にしても良いかもしれない。
「あなたは冒険者の適正ないにゃ。残念~」
あの独特の喋り口調が聞こえ、ハッとなった。
まさかの適正なし!?
と思って顔を上げると、さっきの高飛車女が青い顔でうろたえていた。
「そ、そんなはずはありませんわ!私は伝説の賢者になる女ですのよ!」
「あなた何度も来てますけど、この水晶は絶対ですにゃ。ハイ奥へどうぞ~」
どうやら僕の事ではなく、あの女の事だったらしい。
やっぱりそんな理由で何度も受けに来ていたのか。
「そんなはずありませんわ~」とか言いながら黒い服の人たちに連れて行かれてしまった。
「次の方どうぞにゃ」
促されて水晶の前に立つ。
水色のような緑色のような不思議な色合いの水晶には、鏡のように現在の僕の姿が映っている。
そういやこっちに来て風呂にも入ってないな。ボサボサの髪が見える。
と思っていたら、絵の具を水に溶かしたかのように僕の姿が消え、次に出てきた時には全身白色の服に身を包んでいた。
一瞬、見慣れた白衣!?とも思ったが、どうやら違うようである。
革の鎧を白く染めたような形状の変な装備であった。
これはいったい何の職業なんだ、とさっきのネコ耳を振り返ると、ネコ耳も顔をしかめて水晶に映った僕を見つめていた。
「これは…見たことないにゃ~。なんだこりゃ」
とりあえず"適正なし"という最悪の結末は避けられたらしいが、職員も不明の職業とか怖すぎる。
奥へと引っ込んだネコ耳は、一冊の古めかしい本を持って戻ってきた。
しばらく本と水晶の僕を見比べていたが…
「分かったにゃ!」
目を輝かせたネコ耳がズバリと宣言する。
「これは、薬師にゃ。レアものにゃ」
く、薬師?
薬剤師とは違う、別の職業?
とグルグル考えていたら、突然チビ・テッペンハゲ・白髪のおじいちゃんが出てきて叫んだ。
「なぁんじゃとぉ~~!??」
・・・・・・・誰。