第十二話 おてんば娘は銀色がお好き
【登場人物紹介】
綾瀬雷人:主人公
ユーリン・ドーランド:女魔法使い ドS
ラウール国王:名前はアレだけど立派な王様
ザイザル:ラウール国宰相 黒光り筋肉
竜王:迷惑な言葉を残し死亡したラスボス
【あらすじ】
トイレから転生した薬剤師ライトは何故かラスボス竜王に「後継者」と名指しされてしまう。
しかし何とかこうにか自由の身を得たライトは自立の第一歩として「冒険者の資格」を取ろうとするのだが・・・。
まったくもって"うかつ"だった。
宰相ザイザルの名字はドーランドだったのだ。
ザイザル・ドーランド。
つまりいま隣でブスくれた顔で歩いているドS魔法使い、ユーリン・ドーランドの親父だ。
あの灼熱の炎に焼かれた熱さは今でも忘れてもいない。
なんせ死ぬところだったのだ。(そういやなんで死ななかったのか今でも謎だな)
さっきも感情が高ぶった彼女に思いっきり高位魔法を唱えられそうになったところだ。
すぐ美人の母親に怒られ事なきに終わったが、もしその魔法を唱えていたら街の半分が吹き飛ぶところだったらしい。
なんて滅茶苦茶なヤツなんだ。
「初めての案内役が何でコイツなのよ」
ずっとこの調子でブツブツ言ってる。
それはこっちも同じ気持ちだ。
気が変わったらすぐにでも殺してきそうな女と、これからしばらく一緒に過ごさなくてはいけないなんて。
どう考えてもおかしいでしょ。
と言っても無一文の僕に断るという選択肢はない。
残された道はすぐにでも元の世界に戻る方法を見つけるか、冒険者の資格を取って自立するかだ。
元の世界へ戻る方法はあの王様が情報を握っていそうだが、それも途中経過のみで完璧ではない。
となると、やはり冒険者の資格を取るのが一番の近道である。
「はっはっは。そんな事があったのか」と笑い飛ばし案内役を押し付けた親父ザイザル。
「娘はちょっとおてんばだけど、よろしくね」と逆に僕をお目付け役に任命してくる母親クリス。
そんな両親にお願いされたら断れない、その気になったら街を吹き飛ばせる娘ユーリン。
なんだか恐ろしい一家に関わってしまったのかもしれん。
隣を歩くユーリンを見る。
ほんと見るだけなら超可愛い女の子なんだけどな。
ちょっと寸胴だけど。
彼女と一緒に歩くだけでかなり注目される。
そりゃ竜王を倒した英雄だからな・・・と思っていたけど、どうやら元々有名人だったらしい。
チラッと聞こえてきたのが、以前にも何かを破壊しただとか、燃やしただとか。
昔から相当なおてんばだったようだ。
と、いきなり彼女が歩く速度を落とす。
今までズンズン歩いていたのが、突然ゆっくり歩き出した。
着いたのかな、と周りを見渡しても住宅街なだけでそれらしき建物は何も無い。
不思議がっていると、その理由はすぐに分かった。
「やあユーちゃん。久しぶり」
向こうから歩いてきた青年がユーリンに話しかけてきた。
背丈は僕より10センチくらい上で、年齢は僕と同じか年下だ。
革製品の防具に身を包み、スラリとした体格で、銀色のサラサラヘアーが眩しいイケメンだ。
「お、お久しぶりです」
顔を真っ赤にしながら一礼するユーリン。
ははーん。
そういうことか。
ピーンときた僕は、心の中でニヤニヤしながら成り行きを見守る事にした。
「竜王を倒したんだって?ギルドではその話題で持ちきりだよ」
「あ、ありがとうございます」
今までが嘘かのように、彼女の返答がぎこちない。
もっと威勢よくいかんかい。
「こ、こちらに帰ってらしたんですね」
「うん。ちょっと不穏な空気があってね…。あ、それはこっちの話だけど」
しかしこのイケメン、そのイケメンさを鼻に掛けるわけでもなく自然に振舞っている。
髪をかき上げたり見た目チャラそうだけど、なるほど印象は良さそうだ。
「ところで彼は?もしかして・・・彼氏?」
おお。
爆弾を投げてくるねこのイケメン。
ひょっとして天然か?
「そっ!そんなわけありません!いくらライラインさんでも怒りますよ!!」
顔を真っ赤にしながら全否定するユーリン。
まあそりゃそうだわな。
「ごめんごめん。 あ、じゃあ僕はこの辺で。またゆっくり話しよう」
とウインクをする彼。
よく素であんな事が出来るな。
しかし隣の女性はそれでも嬉しいらしく、
「は、はい!また!」
と元気よく手を振っていた。
イケメンが角を曲がって見えなくなると、くるりとこちらを向いてきた。
その表情は完全に曇っている。
「・・・なによ」
僕のニヤニヤは自然と顔に出ていたらしい。
「いやぁ、ユーリンにも初々しいところがあるんだなぁ、って」
「なになに。憧れの先輩ってやつ?」
「ユーちゃんだって!可愛いじゃん」
ここぞとばかりに攻めまくってやった。
この女の弱みを一つ手に入れたようで超嬉しい。
しかしちょっとやりすぎたようだ。
見ると手は握り締め、肩がプルプル震えている。
心なしか背中から炎が見えるような・・・。
「い、いや!乙女チックで良いんじゃないかな!」
フォローのつもりで言ったのだが、プルプルはさらに大きくなり握り拳に炎が灯りだした。
しまった、火に油を注いでしまったか!?
「うるさい!この浮気者~!!!」
炎をまとった拳が飛んできて僕の頬にクリティカルヒットした。
そのセリフはちょっと違うんじゃないかなユーリンちゃん・・・
と突っ込みを入れられるわけもなく吹っ飛ばされる。
しかしライラインとかいうあの銀髪イケメン・・・。
何か隠している、というわけじゃないけど何か奥に秘めているような不思議な感じだ。
ま、ただの天然なのかもしれないけど。
・・・と、薄れゆく意識の中で思った。




