第十一話 自立してこそ漢(おとこ)
【登場人物紹介】
綾瀬雷人:主人公 トイレから転生した薬剤師
キャロル・R・バーミリオン:女勇者 巨乳
ユーリン・ドーランド:女魔法使い ドS
レイラ・ライトニング:女戦士 まとも
セシル・フリード:女僧侶 天然
ラウール国王:名前はアレだけど立派な王様
ザイザル:ラウール国宰相 黒光り筋肉
竜王:迷惑な言葉を残し死亡したラスボス
宰相ザイザルの家は、城から数分歩いたところの閑静な住宅街にあった。
思っていたほど大きくなく、また宰相だからといって豪華絢爛というわけでもなく、周りの家と変わらない普通のレンガの家だった。
宴はあの後しばらく続いたが、結局あの4人と王様に挨拶さえも出来なかった。
彼らの周りにはずっと人だかりが出来ていたのだ。
王は慣れたもので軽く受け流していたが、あの4人はかなり疲れているようだった。
僕を縛ったり散々な扱いをしたとはいえ、ちょっと可哀想だったな。
ただ、あの魔法使いには良い薬になっただろう。
是非とも大人しくなって欲しいものだ。
「帰ったぞ」
扉をあけてザイザルが家に入っていく。
門などはなく、通りにドアが直接ある家作りだ。
中から「おかえりなさい」という女性の声が聞こえた。
この風貌・・・てっきり一人暮らしと思い込んでいたが、違っていたようである。
「お邪魔します」
一礼をしながら中に入ると、かなり美人の女性が出迎えてくれた。
年齢は30代後半といったところか。スラリとした長身で、長い茶色の髪は後ろで綺麗にまとめている。
どちらかというと豪華なドレスや宝石類が似合いそうだが、エプロン姿もなかなか良い感じだ。
「妻のクリスティーナだ」
予想はしていたけど実際に聞くとショックとは、この事を言うのであろう。
まさかこの美人さんが、黒光り筋肉の奥さんとは。
顔に毛一本ない黒ザイザルと横に並べると、まさしく"美女と野獣"である。
どこをどう間違ったらこの二人の間に『結婚』という文字が浮かび上がるのだろうか。
彼女は僕の存在に少し驚いたようだが、ザイザルの説明を聞きすぐに納得したようだ。
二人の間には『あうんの呼吸』も存在しているようである。
「ようこそ、ライトさん。クリスって呼んでくださいね」
ニコリと嫌味一つ無い微笑をくれた後、座るよう促された。
一枚板のテーブル前に座ると、すぐに緑色の液体がカップに入った状態で出てきた。
少しドロリとしていて、ご丁寧にホカホカだ。
まさかこれ、飲み物・・・
と目の前に視線を上げると、ザイザルが美味しそうに飲み干しているところだった。
「くはー、美味い!やっぱ帰ったらこれだな!」
そう言って口についた緑の液体を拭いている。
やはり、飲むものらしい。
匂いを嗅いでみる。
うーん、紙に甘みを混ぜたような不思議な匂いだ。
「ほれ、ライトもグイッといかないか」
ザイザルに促され仕方なく舌をつけてみる。
するとどうだろう。
口全体に広がる芳醇な甘み。
酸味を感じながらもしつこくなく、むしろ甘みと相俟って相乗効果が・・・つまり
「美味い!」
気付いたらゴクゴクと一気に飲んでしまった。
これほど美味いものには出会った事がない。
後味に浸っていると、身体全体が温かくなってきた。
「疲労回復の魔法が入っているのよ」
クリスが嬉しそうに報告してくれる。
全身が羽毛で包まれているような感覚で、確かに身体が軽くなってくる。
やっぱスゲーな魔法世界。
驚いている僕をニコニコと見守る夫妻。
めっちゃ良い人オーラが凄いんですけど。
「ところで冒険者の資格なんだが」
落ち着くのを待ってからザイザルが切り出した。
その資格を取るという条件で、この家に住めるのだ。
こうなったら是が非でも取るしかない。
なんせその資格を取れたら、宿が格安で借りれるし場所によっては無料で開放してくれるらしい。
この家にずっと住みたいような気もするが、そうもいかないだろう。
漢なら自立せねば。
「試験は毎月行われておる。が、その前に適性検査を受けなくてはいかん」
・・・適性検査?聞いてないよ。
いきなり魔物をやっつけろとか言われたらどうしよう。
生まれてこのかた剣を握ったこともない。
「心配するな。適性検査といっても星を見るだけだ」
僕の不安が分かったのか、ザイザルが優しく諭してくれた。
「星を見る」の意味が分からないが、すぐに補足説明してくれた。
「星を見るというのは、その人が冒険者としてどういった職業に適しているか、もしくは冒険者として適していないかを、極大水晶で見ることだ」
どうやらまとめると、
冒険者協会に極大水晶があり、そこでまず適性検査を受ける。
適性検査でその人に最も向いている職業が表示されるが、試験を受けるのはその職業じゃなくても良い。
職業は勇者、戦士、モンク、魔法使い、僧侶、盗賊、詩人など。
二つ以上を組み合わせた上級職もある。
…らしい。
「適性検査は2日に1回はやってるから、明日にでも受けるといいさ」
と『50R』と書いた銀色のコインを出してくれた。
このコインの価値がどれくらいなのかさっぱり分からないが、無一文の僕はありがたく受け取ることにした。
「それと娘を案内役として付けるから安心してくれ」
娘!?
娘がいたのか。
この二人の娘…。
…思わず黒い肌に筋肉隆々で長髪の、豪快な娘さんを想像してしまった。
悪気はありません。お許しください。
しかし案内役と言っても、場所さえ教えてもらえたら行けますよ。と返答したら、実はそうではないようだ。
もちろん場所の案内役も兼ねているが、冒険者の資格試験には実技も含まれていて、お目付け役&危ない時のサポート役として『案内役』が必要らしい。
冒険者教会から派遣してもらう事も可能だが、『案内役』試験に合格した人にお願いしても良いらしく、ザイザルの娘さんがすでに案内役の資格を取得しているので、とのこと。
仮に冒険者教会から派遣してもらうと試験料が上乗せされるらしいので、僕としては他に選択肢がない。
「いやぁ、娘のおてんばさは良く知ってると思うが…」
とザイザルが頭を掻きながら喋りかけた時に、僕の後ろでドアの開く音がした。
「ただいまー。あー疲れた」
若い女性の声。
振り返ってみると、なんだか見たような顔が…
一瞬の沈黙のあと、
二人そろって叫んだ。
「ああーーーーーーーーーーーっ!!?」
そこにいたのは紛れもなく、僕を殺そうとした上に縄でこれでもかと縛りつけた、あのドS魔法使いユーリン・ドーランドだった。