表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第十話 后の秘密

【登場人物紹介】

綾瀬雷人ライト:主人公 トイレから転生イリュージョンした薬剤師

キャロル・R・バーミリオン:女勇者 巨乳

ユーリン・ドーランド:女魔法使い ドS

レイラ・ライトニング:女戦士 まとも

セシル・フリード:女僧侶 天然

ラウール国王:名前はアレだけど立派な王様

ザイザル:ラウール国宰相 黒光り筋肉

竜王:転生完了という迷惑な言葉を残し死亡したラスボス

宴が始まろうとしていた。

すでに王はラフな格好に着替えており、椅子に座りながらワインのようなものを転がしていた。

宰相をはじめ大臣達も同じく軽装になっており、王の左右にズラリと立っていた。

唯一変わらないのはさらにその左右に展開する兵士たちであり、たぶん近衛兵なのだろう、先程と同じく直立不動でたたずんでいる。まるで鎧の置物のようだが、たまに動くのが見えるので中に人が入っているのが分かる。

上機嫌な王の姿を見て、僕は先ほどのやり取りを思い出していた。




今から1時間ほど前、

王から呼び寄せられた僕は、衝撃的な一言を浴びせられた。


「お主、『地球』から来たのであろう?」


!!?

僕はすぐに意味を理解できなかった。

別世界から来たのは説明したので良いとして(それ自体にわかに信じられない出来事だろうと思っていたけど)も、なぜ地球のことを知っているのか。

しかも自信満々でこちらに聞いてきている。

あの4人には喋った気がするので、その誰かが王に言ったのだろうか。


「は、はあ…」


気のない返事をするしか出来ない。

すると王はニヤリとして、


「ふふ。余がなぜ『地球』の事を知っているのか不思議なのじゃろう?」


ザッツライト。

しかし言葉は出ず、目を丸くしたままコクコク頷くことしか出来ない。


「それは…」


そこまで言って隣にいる宰相ザイザルの顔を窺う王。

ザイザルは『やれやれ仕方ありませんねぇ』といったジェスチャーを返してくる。


「余の妻が・・・今はもうこの世におらんが・・・『地球』出身なのじゃ」


「マ・・・ええっ!?」


リアクション芸人か!というくらい僕は大げさに驚く反応を見せてしまった。

まさか僕以外に地球から飛ばされてきた人がいたとは。

同じようにトイレに吸い込まれて来てしまったのだろうか。

いやそんなことよりも、重要なのはそこではない。

地球出身である王の奥様が『すでに死んでいる』という点だ。

これは地球に戻る方法が無かったという事を暗示しているのではないか?

ずっと死ぬまでこのRPG世界にいなくてはいけない・・・そこまで考えて背筋がゾッとした。


いやいやいや、ネガティブに考えるのはよくない。

唯一の取り柄であるポジティブシンキングで行こう。

きっと奥様は王と恋に落ちて、この世界に留まる事を決意したのだ。

帰る方法を見つけたにも拘らずに。

そうに違いない。


「妻は最後まで地球に帰る方法を探っていたようじゃが、見つからず終いでな」


ブホオッ!

そ、そうですか・・・。

先ほどまで想像していた脳内イメージが音を立てて崩れていくのを感じたが、次の王の言葉で再構築されていく。


「しかし何かしら手がかりは得ていたようなのじゃ。…知りたいか?」


なんと!

先人の知恵があると無いとでは雲泥の差がある。

これは知りたい。

ノドから手が出るほど欲しい。

しかし妻の遺品ともとれる情報をそんな簡単に教えてくれるとは思えない。


「すごく知りたいです。…代わりに何をすれば良いですか?」


僕の返答を聞き、王が「ほほう」と目を細める。


「見かけによらず物分かりが良さそうじゃな」


隣のザイザルも同調し頷いている。

見かけによらずってのは余計だけど。


「その代わり、というのはじゃな・・・」


そこまで言って恥ずかしそうにポリポリ頭をかくラウールの国王。


「世の妻の出身地『地球』について教えて欲しいのじゃ」


・・・え?

結婚していたんだからそれくらいたっぷり聞いているのでは、と疑問に思ったが、

詳しく聞くと王の妻は記憶喪失だったそうで、地球出身である事以外はほとんど覚えていなかったそうだ。

しかしその服装(僕の服装も同じような物だったため僕が異世界から来た事を信じる気になったようだ)、いきなり目の前に現れた状況などから、地球から来た事を信じるに至ったらしい。

そんな妻の出身地を知りたいだなんて、よほど王は奥さんの事を今でも好きなんだろうな。



そうしているうちに時間は過ぎ、宴の準備のため王は奥へと下がっていった。

地球について話す約束を交わして。


僕自身も「宴には似合わない」という理由で現れた侍女たちにワイワイ言われながら、半強制的にラウール国伝統の服装に身を包んだ。

下着さえ脱がされたのにはビビッたが。

この国には男性用下着という概念は存在しないらしい。おかげで下の方がスースーして気持ち悪い。


着替えて戻ってくると、さっきまでと打って変わって豪華な料理が部屋中に並べられていた。

そういえばトイレに吸い込まれてから何一つ食べていない。

思わずお腹が鳴ってしまった。

料理に手を出そうとしたら、近くにいたジジイに怒られてしまった。

王が乾杯するまで飲み食いは禁止となっているとのこと。

そりゃま、そうだな。

会社員である僕は妙に納得した。


乾杯は今か今かと待っていたら、周りの人たちが「おお」とざわついて一点を見つめだした。

何事かと視線を上げると、そこには階段から降りてくる女性たちがいた。

全員タイプは違うが凄く美人で、ラウール国伝統であろうフワリとした服装がまた似合っていた。

一人はクセっ毛の女性でとても胸が大きい。軽装がそれをさらに際立たせている。

一人はロングの黒髪をスルリと後ろにまとめていて、切れ長の目がかなりかっこいい。

一人は垂れ目の女性で、ムッチリとした体型と相まって天然で男を虜にしそうな感じだ。

一人は茶色の髪に碧色の目で、少し恥ずかしそうにしている。幼児体型に近いが物語などでよく観る魔法使いのような・・・


んっ!?

この4人はもしかして・・・


「それでは紹介しよう。今宵の主人公、憎き竜王を倒した世界の英雄、キャロル、レイラ、セシル、ユーリンの4人だ!」


ノドの引っかかりを取るかのように、王が4人を皆に紹介する。

やはり彼女たちだ。

出会ってから重装備の状態しか知らなかったし化粧もしていなかったように思えるので、別人としか思えなかった。


それにしてもこれは…。

改めて、見れば見るほど彼女たちが美人である事が分かる。


「美人ですなぁ。彼女たちの非公式ファンクラブもありますよ。私なんぞユーリンのファンでして…」


見とれていると隣の小太りオッサンが嬉しそうに喋りかけてきた。

誰かは知らないけど、指には大きな宝石をつけているので、たぶん貴族の一人なのだろう。

まだ何かゴニョゴニョ喋っていたが、乾杯のタイミングでその場を離れた。


「スコール」


王がグラスを天に掲げ声を発すると、皆が同じ動作を繰り返す。


「スコール!」


と同時にゆっくりとした音楽が流れだし、宴が始まった。

乾杯の方法まで同じなんだなーと感心していたが、これは亡くなった后様の発案により始まったと出席者の一人が教えてくれた。


「地球式というわけです」


教えてくれた人からその言葉が出た事にかなり驚いたが、

無くなったその后様が地球出身というのは特段、秘密にはしていないようだ。

というのも後から知った事だが、王と宰相、后様は昔このラウール国を救った英雄らしい。

特に后様は高名な魔術師により"英傑"として召喚されたとのこと。

へ、へぇ~。

トイレに吸い込まれラスボスの生まれ変わりとして召喚された僕とは凄い違いだ。


宴で僕は、意外な人気者だった。

別世界から来たというのと竜王の生まれ変わりということで、質問攻めに合ってしまった。

いくら魔法を封じられてるとは言え、ラスボスの生まれ変わりかもしれない人物を目の前にしてこの態度・・・この国の人たちは結構、楽観主義なのかもしれない。


「好奇心旺盛な民なのだよ」


人だかりからやっと抜け出した僕に話しかけてきたのは宰相ザイザルだった。


「私もこの国出身だが、私自身は引きこもりの性格でな。この国民性には小さい頃かなり苦労したんだ」


と大胸筋を大きく揺らしながら笑うザイザル。

引きこもりってのは絶対ウソだろ。


「ところでお主、何も用意せぬままこっちの世界に来たのか?」


そりゃそうでしょ。なんせトイレに尻から吸い込まれたんだから。

と説明すると、

ザイザルはまた豪快に笑いながら


「そうかそうか。じゃあ住む家もないし苦労するな」


・・・ハッ。

そうだ、どうやらすぐに元の世界に戻れない以上、こちらでしばらく暮らせるだけの状況を作り上げないといけないのだ。

着る物は何とかなるとしても、寝る場所と食う物がない。

野宿なんてしたことないし、野生の動物を狩って食うしかないのか?

そもそも火をおこしたことさえない。


「まあそう心配するな。ウチに来い。しばらく住み込みで資格を取れ」


神様仏様ザイザル様。

頭の黒光りがまるで後光のようだ。

思わず拝んでしまった。

・・・ところで『資格』ってなんだ?


「決まっておるだろ。冒険者としての資格だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ