第一話 物語はいよいよラストへ…って1話目だけど!?
「はあーっ!」
崩れた石壁を上手く使い、金色のサークレットを着けた女性が高く高く飛び上がる。
その先には、信じられないが、いわゆる「竜」が存在していた。
いや実際に「竜」なるものを見たことはないので、本当にそれが「竜」なのかどうなのかは分からないが、漫画やアニメに登場する「竜」つまり「ドラゴン」をそのままそこに立体化したように、明らかに存在していた。
それは、彼女の優に5倍以上はあろうかという圧倒的な存在感。
魚の鱗のようなゴツゴツした皮膚をしているが、同時に革製品のような靭やかさもある。頭や背中からは禍々しく角がいくつも飛び出している。
赤く光ったその眼は、明らかに敵意むき出しの状態で彼女と対峙している。
ザシュッ!
肉を切ったかのような激しい音が室内に響き、一歩遅れてこの世のものではないかのような叫び声が聞こえる。
見ると「竜」の頬に当たる部分に大きな切れ目がついていて、どす黒い血が噴き出している。
あまりに一瞬すぎて何が起きたのかさっぱり分からなかったが、どうやら先程の女性が剣で「竜」に攻撃し成功したらしい。
戦いはかなり前から行われていて「竜」はかなり弱っているようだ。
体制を整えているその身体には、あらゆる箇所に傷があり、ところどころ焼け焦げた跡がある。
肩で息もしているようだ。
そのまま視線を下ろすと、先ほどの金色サークレットの女性の他に、重そうな鎧を見につけた男、ファンタジー世界でよく見る魔女のような帽子をかぶった女性、同じく僧侶のような服をきた女性の4人が真剣な顔で見上げている。
対する「竜」はうらめしそうに彼女たちを見て・・・
…うん?
じゃなく、なんだかこっちを睨んでいるような・・・
その視線に釣られるように、対峙した4人もこちらを見る。
そこで初めて僕の存在に気付いたようだった。驚きの表情でこちらを見ている。
という事はつまり、やはり「竜」は僕の方を見ているという事になる。
いやいや!僕は関係ないですから!
と思わず両手を左右に振り、ついでに頭も振り全力で否定する。
そんな仕草が通用したのかどうか分からないが、「竜」は4人に視線を戻し喋りだした。
「驚いたようだな・・・」
そりゃ架空の生物が目の前にいる事には驚きましたよ。ええ。
今まで読んだり見たりした物語には多数のドラゴンが出てきて、しかも喋る事が多い。
いま世の中は空前のドラゴンブームで、最近では萌えドラゴンなるものも登場してきた。
さすがにそれはやりすぎだと思うが、これがまた意外とウケているらしい。
歌って踊れるドラゴンを見て何が楽しいんだか・・・。
この「竜」は踊ったりすることは無いと思うが、会話を楽しむという雰囲気でもなさそうだ。
サークレットの女性が覇気のある声で答える。
「何がだ!竜王!」
いま初めて判明した。
この「竜」の名前は竜王というらしい。
いかにもラスボスっぽい名前だ。
という事は・・・
チキチキチキチーン
僕の頭が一つの結論を弾き出す。
『この4人は勇者のパーティ。今はラスボスと最後の闘い真っ最中。力は均衡しているがもうすぐ竜王を倒し世界に平和を取り戻すところ。』
まさしく王道のRPG。
今は長い旅の果て、ラストとなる重要な場面のようだ。
そしてその事が僕の中で“もう一つの結論”を生み出す。
『これは夢だ』
そう、夢である。
おかしいと思っていた。
気付いたら竜王と彼女らが闘っていて、僕は傍観者としてそこにいた。
…あれ、でも僕はそれまで何をしていたんだっけ。
思い出そうとしたが、それを竜王の言葉が遮った。
「ふっふっふ。この竜王死すとも、何度でも甦る。どうやら転生は成功したようだ」
「なにぃ!」
うわ!
なんだか王道のやりとり。
最後になって倒されそうになったら、悪玉がとっておきの秘策を主人公の前で披露する。
それに驚く主人公たち。
だが勇者一行はそれをも跳ね除け親玉を倒すのであった…。完
「そこにいるのが我の転生先だ。グフフフ…」
なんと秘策とは“転生”を用意していたのであった。
竜王は死すとも何度でも生き返るということか。
これは思いがけない展開。どうする勇者一行!
と困った顔をしたところで、全員がこちらを見ているのに気付いた。
つ、つい自分の世界に入って世界観に浸ってしまった。
ちょっと恥ずかしい。
竜王を見ると、爬虫類っぽい皮膚に鱗がビッシリついている、いかにも“ドラゴンらしい”手をこちらに向け指差していた。指にはめている金色やら銀色の指輪が眩しい。
なぜ指差されているのか最初まったく分からなかったが、ちょっと前のセリフが僕の頭を徐々に侵食していく。
『そこにいるのが転生先』とか言ってなかったか?
後ろを振り返っても、そこにあるのは壁のみ…
他に誰もいない…
つまり指さしているのは僕のこと…
勇者一行と僕は同時に叫んだ。
「ええーーーーっ!!?」
最後までお読みいただきありがとうございます。
ゆっくりと書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。




