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第一話 切欠・トラウマ

「うわあああああああ!!!!」


食卓の間に男の子の悲鳴が響く。声と姿からして10歳、小学4年生から5年生くらいだろうか。その男子の腕にはフォークが深く突き刺さっている。その悲鳴に驚いた母親らしき女性がその子に駆け寄っていく・・・そこで、俺の視界は白く染まっていった。


「・・・て!ねぇ!起きてってば!」


・・・うるさいな、俺はまだ寝てたいんだ・・・


「起きろって言ってるでしょ!」


その声が聞こえた途端、額に衝撃が走る。


「痛ってぇ!」


その痛みに俺は飛び起き、その横には幼馴染の千尋が立っていた。どうやら俺の額への衝撃はこいつが犯人らしい。千尋の右手は手刀の形になっている。


「やっと起きた。こっちはあんたの声で起きたっていうのに・・・。」


千尋は呆れた顔で俺を見ている。


「あれ、俺は・・・」


自分でも寝ぼけているのかと思うくらい呑気な声が出た。その声に更に呆れたような顔の千尋。


「光希、うなされてたよ?いきなり大声上げたりして。近所迷惑だよ。こんな早い時間だし。」


言われて壁にかかった時計を見ると5時32分。いつも学校に行くのは8時ごろだからまだ2時間弱も時間がある。


「あー・・・それは悪かった・・・で、何でお前ここにいんの?てか、玄関は鍵閉まってるだろ?」


目の前にいる幼馴染に謝りながら一番気になっていたことを聞いた。


「何言ってんの。窓からに決まってるでしょ。」


腰に手をあてながら千尋が言った。


「あのな、幼馴染だからってさすがに男子高校生の部屋に女子高校生が入ってくるのはどうかと思うぞ。」


今度はこっちが呆れる番だった。どうやらこの幼馴染は少し、いやかなりおかしい。俺の家とこいつの家は隣同士だ。互いにベランダがあって互いの窓にも手が届く。だがそこから入ってくるなんてのは危ない。なんにせよ男子高校生の部屋に入ってくるのも危ない。


「何でよ。別に幼馴染なんだからいいでしょ。」


悪びれる様子もない幼馴染のその言葉に俺はため息をついた。


「くっ・・・あぁふ・・・あー、分かった。だからもう自分の家に戻れ。俺ももう一回寝たいんだから。」


俺は欠伸をしながら眠そうな声で抗議をした。


「しょうがないなぁ・・・ちゃんと登校するときには起きて準備しててよ?」


千尋はしぶしぶといった感じで窓のほうへ向かっていった。


「分かったよ。起こして悪かったな。おやすみ。」


「おやすみ。別に気にしなくていいよ。じゃあね。」


俺が言った言葉に応えると、千尋は窓から自分の家の窓に危なげもなく渡り、こっちに手を振った。手を振りなおすと少しはにかみ、窓が閉められた。


「さて、もう一度寝るか。・・・それにしても、嫌な夢見たな・・・。」


そう、あれは自分の過去。俺の腕にはフォークが刺さった時の傷がまだ残っている。深く刺さったから当たり前だが。それ以来、尖ったものが怖くて仕方がない。自分に向けられると冷や汗が出て後ずさりするか、固まってしまうのだ。俗にいう先端恐怖症だろうか。箸さえ先を向けられると少し怯んでしまう。特に、フォークがトラウマになっているらしく、見ただけであの時を思い出し、怖くなる。


「・・・やめだ。また思い出す。もう寝よう。」


そう言って布団に潜りこんだはいいものの、俺は結局寝れなかった。





「・・・ねぇ、大丈夫?」


さて、寝れないまま登校してる訳だが、さすがに眠い。睡眠時間が足りなくて体も頭もうまく働かない。そんな俺を見て隣を歩いていた千尋が言った。


「大丈夫・・・だと思う。」


歩く分には問題ないが、これは授業は何教科か寝るな・・・。




学校にようやく着き、教室の戸を開けた。


「あぁ、光希、早乙女、おはよう。」


「おはよう。二人とも。」


教室に入ると、眼鏡をかけている男子と、その男子と話していた仕草や雰囲気がいいところという印象を受ける女子が話しかけてきた。


「ああ、おはよう。」


「美穂ちゃん、丸石君、おはよう!」


俺と千尋が返した。・・・ああそうだ、紹介がまだだったかもしれない。今俺の隣にいるのが幼馴染の早乙女さおとめ 千尋ちひろ、そして挨拶をしてきた男子のほうが丸石まるいし 勇一ゆういち、女子のほうが城ヶじょうがさき 美穂みほ。勇一とは中学からの付き合いだ。城ヶ崎とは高校で出会った。


「本当に二人とも、仲がいいわね。」


口元に手を当て、静かに微笑む城ヶ崎。なんというか、同じ歳とは考えられないほど大人びている。・・・ついでに体型も。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。出てるところがあまりない千尋とは大ちg「光希?なんか失礼なこと考えてる気がしたんだけど?」


「な、何も考えてないさ。何言ってんだよ。」


千尋が俺をジト目で見てくる。男子高校生はそんなもんなんだ、仕方ないだろう。


「これで付き合ってないっていうんだから、お前たちある意味すごいよな。」


そう言ったのは勇一だ。


「そうは言っても、昔から一緒だしな。」


俺がそう言った。小学校からずっと一緒なのだ。もう当たり前のことになっている。こんな感じで小学校を卒業して中学から高校へ、といった具合だったから中学や高校の友達からは驚かれたが、特に自分も千尋も気にしていない。


「あ、そうだ。皆、学校終わったら少し付き合ってくれないかな?」


城ヶ崎が言った。


「別にいいけど、どこか行くのか?」


勇一が城ヶ崎に訊いた。


「うん、ちょっと商店街に見ていきたいものがあるの。」


「いいよ。でも部活があるから少し遅くなるかも。」


「俺も部活だ。」


「私も部活あるから・・・ごめんね、落合君、正門前で待っててくれる?」


千尋はバレー部、勇一は射撃部、城ヶ崎は美術部に所属している。俺、落合光希はというと、部活に所属していない。所謂帰宅部って奴だ。


「部活待ちは千尋で慣れてるから大丈夫だ。」


俺がそういうと城ヶ崎は嬉しそうな顔をして、


「うん、悪いけどお願い。早めに集まらなきゃね。」


と言った。


「そんなに急がなくても大丈夫だって。」


俺がそう言ってすぐに担任が入ってきて、この話は終わり、それぞれが自分の席についた。自分の席といっても横が千尋なので話す分には問題はない。


「放課後、楽しみだね。」


千尋の言葉に俺は相槌を返しながら、


「ああ、楽しみだな。」


と言った。





・・・・・午前中、ほとんどの授業寝ていたのはここだけの秘密だ。


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