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人狼執事  作者: 空暮
4/11

1-4

 誓いが済んだ後、私は正式に「ファ氏族スニーラーク家」の者となった。家の者として恥ずかしくない服装、立ち振る舞い、技能と知識を叩き込まれた。その教師は往々に、キヌだった。

 キヌは右も左も分からない私に一から手取り足取り教えてくれた。どこの馬の骨か分からない私にどうしてここまでしてくれるのか訊ねると、

 『アンタはお嬢様に血を吸われたんだろう? ……なら、問題ないさ』

 と、一人で納得していた。当時の私には理解できなかったが、今なら分かる。誓いによる”家族”とは、あらゆる「反道徳」的行為を封じ込めるのだ。吸血鬼の思う”家族”とは、そういうモノなのだろう。大昔の、純粋種であった頃の弱点まみれだった己を護るために生まれた力なのであろう。

 そうしてしばらくすると、私は随分と「らしく」なった。ごく潰しから雑用へ。雑用から世話係へ。そうして世話係から執事へ。私でも驚くほど、自分が変わっていくのを感じた。それは身なりと口調という小さなことでも、己の物への「考え方」が変化していくのだ。

 「考え方」が変われば、性格も変わる。思考の複雑さが増せば増すほど、怒りは抑えられていく。理性が獣性を縛っていく。それはきっと、「拾われた人狼」が「お嬢様の執事」へと成ったことを意味しているのだろう。「俺」は眠り、「私」が生まれた瞬間だった。

 認識が世界を変えるのではなく、行動が世界を変えることを私は身をもって知った。行動ありきの世界構造。「私」は、「執事」である限り、「私」だろう。

 執事の仕事が板についてきた頃から、お嬢様は私と一緒にお出かけになられることを強く望まれた。私にとってもそれは本当に大切な思い出だ。山も川も海も、花も月も雪も、頬が落ちるほどの食事も綺麗な花火も、風邪で病床に伏せていた夜も一緒に眺めた夕日も、全てはお嬢様と供にある。私を占めている記憶は、お嬢様の思い出だ。誰よりも近くで見守ってきた大切な人、その人を護る事が「私」の存在理由だ。

 ベッドに横たわり、結局はいつもの答えに着陸した事を自分でも苦笑して、ゆるゆると眠りに落ちていく。

 ぼんやりとした視界。遠くなる物音。じわりじわりと感覚が無くなり、糸がふつりと消える瞬間―――


 「シロっ!!」


 飛び起きた。

 「何が?」と考えるより早く、部屋から飛び出してお嬢様の部屋へと走り始める。

 屋敷に響いたあの声が夢か現のものか分からないが、そんな事はどうでもいい。私は今すぐ、お嬢様の下へ馳せ参じなければならない。

 お嬢様の部屋は私の部屋の階と同じ。ただ、私の部屋からは全速力でも五秒は掛かる。可能であれば、呼ばれた時にはお傍に居たいのだが―――

 扉が閉まっている。躊躇無く、跳び蹴り。いや、半ば扉に跳び乗るような形で跳躍する。

 (何より優先すべきはお嬢様!)

 激突。金具は衝撃に耐え切れず、吹き飛んだ。同時に部屋の内部が露になる。

 木片舞う闇の向こう、部屋に居たのはベッドの上で怯えるお嬢様と――人狼二人。

 両者は溢れる殺気を隠そうともせず、牙と爪を剥き出しにしている。低く構えたその姿勢は、何かしらの「覚え」があってのことだろう。警戒するに越した事はない。

 人狼たちは今にもお嬢様に飛び掛ろうとしていたのだろう。ある意味、私の登場は虚を衝いた形になっているようだ。

 相手に反応されるより迅く、木板と化した扉を蹴りつけて急加速。焦り、こちらへ振り向いた男の首筋に狙う。

 「――蹴牙咬ッ!」

 頭に思い描くは、顎で相手の首を噛み千切る光景。その牙となるのは、己の足だ。自らの爪を一撃必殺の”牙”となす。それが私の体に染み付いていた闘い方だった。

 ゆるりと弧を描く爪と足。身体は宙で独楽の様に高速で回転する。爪に響く鈍い衝撃は確かな手応え。着地した俺と入れ代わるようにして、哀れな人狼の死体が床へ倒れ伏した。その首は薄皮一枚残して完全に胴体から離れていた。

 「ぁんだ!? テメェ!!」

 お嬢様との間に着地した私は、目前の人狼の質問を払うように身体の埃を払い落とす。

 「お嬢様、お怪我はありませんか?」

 「う、うん、私は大丈夫だよ……」

 「そうですか……このシロ、安心しました」

 顔を斜めに傾けて、お嬢様に微笑みかける。今は何よりも安心を与えてあげたい。

 しかし、その思惑を知ってか知らずか、残された男は声を荒げる。

 「”シロ”ぉ!? テメェ、人狼のクセに『吼え名』を持ってねェのか!?」

 『吼え名』……それは、人狼が持っている命より大切な己の名だ。「野生を忘れるべからず」と、言語が発生する以前に使われていた咆哮と唸り声を用いた名前。そうした工夫を盛り込む事で、自分の名を発するたびに身体を流れる「野生」を思い出させるのだ。「己はどこから来たか」、それを忘れる事は「死」と同義である、とされている。

 しかし、そんな事は今の私の知ったことではない。私の名前はシロで、私が来た場所は路地裏だ。私にとって命より大切なものなどお嬢様以外、無い。

 「それがどうした、下郎。この屋敷に忍び込んだこと、死を以って償え。お嬢様に危害を加えた時点で、貴様には降伏も逃走も認めない」

 お嬢様に怪我が無かったとしても、心が傷ついた。それだけで充分に死ぬ必要がある。

 「何が……! 死ぬのはテメェだ、この犬がァァァァァァァッ!!」

 何とも三下らしい台詞だな、と飛び掛ってくるその姿を見ながら思った。確かに「殺す」ことに躊躇を感じる事も無く、それなりの力と技術を持っているようだが私には遠く及ばない。その証拠に、振り上げた右手はフェイクで本命は牙での噛み付きという相手の動きが、私にはありありと伝わってしまっている。

 わざと、左手をあげる仕草をすることで相手に「成功した」と思わせる。そうすると、やはり想像通り、大口を開けて牙を剝いた。

 「ガアアアアアアアアッ!!」

 涎滴る口内を眺めながら、私は肩と肘に溜め込んだ力を爆発させる。

 骨と筋肉によって抑え付けられていた力は、右腕を駆け抜けて拳に収束。軋み、撓みそうになるのを堪えて撃ち出した。

 「――咆拳!!」

 身を震わせるのは衝撃か解放感か。私の拳は寸分違わずに男の腹へとめり込み、撃墜した。

 「ごふ……っ」

 内より生じた牙は、咆哮と共に輩に喰らい付く。姿かたちこそまだ原型を留めているが、床に転がった人狼の命はもう長くないだろう。私はしゃがみ、顔中の穴と言う穴から血を垂れ流す男に一言。

 「私の名はシロです。素晴らしい名前でしょう?」

 最後まで聞き届けてくれたかは定かではないが、血の涙まで流して賞賛してくれたので良しとしよう。私は立ち上がり、お嬢様へ振り返る。

 「お嬢様、この者の血、お飲みになりますか? 死んでいるので抵抗も拒絶もありませんが」

 「んん、トマトより美味しくなさそうだからいらない。……ねぇシロ、みんな殺しちゃったの?」

 この問いは何度目になるだろうか。何度問われても、私は己の行動を改めようとはしない。そしていつも通り――心を軋ませるのだ。

 「えぇ、お嬢様の命を狙った者たちには、その命の大切さを知ってもらうことにしました」

 一人は尋問用に残しておいても良かったが、つい殺してしまった。全く、感情が先行するなんて執事失格だ。だがしかし、そうでもしないと腸が煮えくり返って自分でも何をするか分からない。「どうすべきだったか」と反省する事は重要だが後悔する事は全くもって有益ではない。

 「何はともあれ、キヌたちを起こして警察を呼びましょう。お嬢様、お疲れとは思いますがどうか……」

 「うん、目が覚めちゃったし。でもシロ、シロはお風呂入ってきた方が良いよ。体中……血まみれ……だよ…………」

 途切れ途切れになり、夢うつつに言葉を紡ぐお嬢様。睡魔? いや違う、これは……。

 「―――どうぞ」

 血の臭いに当てられたのだ。私は跪き、胸元をはだけさせて首筋を外気に晒す。夜の空気が、少し汗ばんだ身体を冷やす。

 ベッドに立ち上がり揺ら揺らと近づいてくるお嬢様の瞳は薄暗い桜色。それは、春の夜に眺める夜桜のように妖しくゆらめく。

 頭と肩に小さな手が置かれる。その心もとない細さからは想像できない力強さ。万力を以て私を固定すると、お嬢様は躊躇いなく―――牙を突きたてた。

 「…………ッ!」

 歯を食い縛って言葉を殺す。今この時、私には言葉を発する権利はない。今の私は従順な羊、陳列される食料に過ぎないのだから。

 「……っん、っん、っん、はぁ……」

 血を嚥下するお嬢様の吐息。何を考えているのだろう、私は何を考えているのだろう。

 (苦痛、違う。快楽、違う。これは……)

 安堵だ。私には”家族”がおり、”繋がり”があるという安堵感。ただそれだけが私の心を埋めていく。しかし、その安堵感は今にも壊れてしまいそうで、私の心を掻き毟る。

 血を飲まれる感覚は、「何か」に己の身を捧げる自己犠牲に伴う陶酔に似る。それが安堵感と混ざり合う事で酷く感傷的な気分となり、私に涙を滲ませる。

 時間にして十秒も満たない食事、それは唐突に終りを告げた。

 「あ…………」

 お嬢様が正気に戻られたようだ。唇から流れ出す血がパジャマを染めてしまうといけない、私はハンカチを手渡した。

 「今夜は良い月でした。このような事もありましょう、どうかお気を落とさず」

 吸血鬼という性、発作のような吸血衝動、それを10年間以上受け止めてきたのは自分だ。人と吸血鬼の狭間で味わう痛み、それは幾ばくのモノだろうか。

 「うん、ごめんねっ、ごめんね……!」

 両手で顔を覆って涙をぽろぽろと流されるお嬢様。ハンカチは手に握られたまま顔に押し当てられている。涙は頬を伝って、唇の血と交じり合い、滴となって落ちていった。

 「お嬢様―――」

 「メイド長キヌ、参上ォ!! 悪漢どもよ、かかっておいで……ってありゃ、もう終わってたのかい」

 慰めの言葉はキヌの騒がしい登場で掻き消された。

 泣いているお嬢様、屈んだままの私、首無しの死体、血まみれの死体、汚れた部屋。キョロキョロと視線を動かすキヌは、腕を組んで溜息を吐いた。

 「警察とハウスクリーニング、あと風呂と着替えと甘いもの……まぁ、葬儀屋を呼ばずに済んで本当に良かったよ」

 そう言った時には既に、彼女の足は掃除を始めていた。ある足は箒とちり取りを、ある足は木片の片づけを、まさしく家事においては百人力だ。

 「ほら、シロ! アンタはとっととお嬢様を風呂へ連れて行きな! 風呂から出る頃には全部終わらせてやるさ」

 ポケットから取り出した鐘をガラガラと鳴らして使用人たちを叩き起こすキヌは、自信たっぷりにそう笑う。キヌにとって、この程度の事は驚くに値しないのだろうか。

 ガヤガヤと屋敷のあちこちで物音が聞こえ始める。眠ったはずの屋敷は再び、目を覚ました。



 風呂にまで私はついていけない。こればっかりは他の者に任せて、私は私で水浴びと着替えを済ませた。

 「こんな時間にスーツを着ることになるとは思いませんでしたよ」

 「うん、私も……。でも、こんなにバッチリ着込む必要は無いと思わない?」

 食堂でお茶を飲まれるお嬢様は、己の服の端を摘んで苦笑する。その様子から、立ち直られたのだろうと判断する。

 「いえ、警察と言えども来客ですので。スニーラーク家の令嬢として恥ずかしくない格好で出迎えるべきでしょう」

 その警察に電話してから随分と経っている。時間が時間なだけに、むしろ警察に電話が通じただけでも幸運と言える。

 「大勢で来られるのはイヤだなぁ……あ、そうだ! お父様とお母様は!?」

 「電話をしたのがキヌですから、彼女からの又聞きになってしまいますが……何よりもまず、お嬢様の心配をなさったそうですよ。そして、そんな時に近くに居られない事を歯痒い、と」

 それを聞いたお嬢様は何とも複雑そうな表情をなさった。嬉しいような寂しいような。結局、そのお得意の微笑で塗り潰されてしまったが。

 「ま、私にはシロがいるからそれで良いよ。キヌはまだ部屋の修理をしてるの?」

 彼女は確か、「大工が来るまでなんて待てないし、あたしがやるさ」と道具と板切れを抱えてお嬢様の部屋へと行ってしまった。正直、代用できる部屋はまだ他にもあるので今すぐ直す必要性など無いのだが、キヌにとっては『屋敷が壊れている』という不完全な状態が耐え難いのだろう。

 「えぇ、”現場維持”なんて気にも留めないで血痕一つ残さないつもりのようですよ」

 「それって……大丈夫なの?」

 不安そうな顔を浮かべられるが、問題は無い。本当に大切な死体は別室にて保管されている。その部屋とは今はまったく使われる事が無くなった、まさしく吸血鬼らしい部屋だ。そこなら死体も腐敗する事はない。

 「仮に問題があったとしたならば、それは警察の能力不足です。警察に届けたのは『事件があった』ということを伝えるため。とりたて、事件の解決や活躍を望んではおりません。警察に出来る事の大抵の事は、私たちで代用する事が出来ますので」

 国家権力に楯突くつもりなど更々無いが、全幅の信頼を置いて頼るなどというつもりも毛頭ない。彼ら警察が、感情の無い人形であるなら信頼に値するが所詮は人だ。

 コンコン、と扉がノックされる音が鳴り響く。「どうぞ」と促すと扉の向こうからキヌが、

 「お嬢様、警察の方がお見えになりました。通しても宜しいでしょうか?」

 普段とは全く違う言葉遣いで確認を取ってきた。何とも新鮮だ。

 お嬢様の意向を伺おうと顔を向ける。私の視線に気付き、首を縦に振られた。

 「お入りください。お嬢様から許可が出ました」

 私の言葉の後、ゆっくりと扉が開く。そこには―――

 「あれ……?」

 「おかしいですね……」

 誰も居なかった。見えるのは扉を開くキヌの真剣な顔だけ。これは一体どういうことか。不可視の種族など聞いたこともないが……。

 「あー、すまん。下だよ下。あぁ、眠ィ。ったく、こんな時間に事件なんて、犯るほうも考えて犯って欲しいもんだ」

 床から声が聞こえた。私が急ぎ、長テーブルの下を覗くとそこには顔を洗う黒猫が。

 「キヌ……この一見すると普通の猫にしか見えないのが、まさか?」

 「そのまさかさ、猫叉なんて今はもう見なくなって久しいがねぇ」

 肩を竦めてキヌは扉を閉めた。話は聞くつもりらしく、部屋に入ってきてお茶の準備をし始めた。

 「こう見えてもお前らの十倍は生きてるってぇの。あぁ、茶はいらねぇ。猫舌なんだよ俺は。水くれ水」

 器用に席に着くと、背筋を伸ばしてお嬢様と対面する。先ほどまでせわしく揺らめいていた二叉の尾もピンと天を衝く。

 「クロだ、字はねぇ。署に居たのが俺だけだったから、来た。本当は俺は管轄外なんだがなぁ……そもそもここのモンじゃねぇし。あぁ、これは愚痴だ。聞き流してくれ」

 気だるそうなのは猫の本能なのか、それともこの”クロ”と名乗る猫叉だけがそうなのか。

 「私はファ=スニーラーク=桜です。父母は帝都に出張へ行っているので、この屋敷の一時的な主となっています。この人狼は私の執事をしてもらっているシロです。そこのメイドはキヌ、二人とも私によく仕えてくれています」

 お嬢様は己の責務を全うしようと、必死に『有名氏族の令嬢』を演じている。私とキヌに出来る事は、恭しく礼をする程度のことだ。

 「あぁ、こりゃご丁寧に。で、まぁなんだ。現場見せてくれよぉ、そいつが一番だ」

 きっとこの猫叉は今までこうして、良くも悪くも気ままに生きてきたのだろう。”クロ”という名前にどこか親近感の湧いていた私は、その生き方も己の『自分の心に従って生きる』という考えに重なり、さらに距離が縮まるのを感じた。

 「現場は私の部屋です。キヌ、案内を頼みます」

 私が椅子を引くと同時にお嬢様は立ち上がり、部屋から出て行こうとする。キヌは恭しく扉を開けて、廊下に控える。

 「…………ふひっ」

 頭を下げているキヌが一瞬だけ、イタズラ小僧のような笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。彼女は一体、何を笑っているのだろうか。



 「……おいおい、本当にこの部屋で事件なんてあったのかよぉ?」

 辿り着いたお嬢様の部屋はすっかりと修理されてしまっており、そこでの闘いの跡をひた隠してしまっている。これじゃあ調査も何もあったものじゃない。

 「すみません、どうやら従者たちが直してしまったらしく……」

 浮かない顔をしているお嬢様を見ていると、やはりキヌを止めるべきだったかと後悔の念が湧いてくる。だが、お嬢様の快適な生活のことを考えると修繕こそ急務であった。今となっては正解は分からない、ここは最善を尽くしたと事にしよう。

 「ま、良いか。ここで起きた事を話してくれりゃ良い。どうせ死体は―――ふあぁ、眠い。死体は取ってあるんだろぉ? 気にすんな、俺もめんどい」

 (本当に警察なのですかね……)

 そのような疑問もどこ吹く風、彼は私に説明を求めた。お嬢様に促され、身振り手振りも交えてその時の状況を解説する。

 「―――んにゃ、だいたい分かった。確かに全員殺したってのもそれじゃ仕方ない、かぁ。死体を確認してみないと分からないが、まぁその執事さんがしょっ引かれることは無いだろうよ。それで、だ。お前さんに一つ聞きたいことがある」

 ゆらゆら揺れる尻尾で私を指すと、黒猫は片目を閉じて問うてきた。

 「人を殺すってのはどんな気分だ? お前さんは何でそんなに平然としてられる?」

 何ともつまらない事を聞くな、と心の中で溜息を吐いた。お嬢様にもキヌにも問われたことがあるが、いつだって答えは同じだ。

 「特にありません」

 「ぁん? 特にぃ?」

 警察相手にこんな事を言っても大丈夫なのだろうかと少し不安になるも、嘘を吐く必要も無いはずだ。

 「はい、それほど。私には何の関係の無い者達です。名前も知らなければ思想も知らない、そんな者達の死に、私は何の感情も湧きません。ただ、お嬢様を守れて良かった。それだけです」

 お嬢様に死を運んできた者が、私という番人に阻まれてその死に飲み込まれてしまった。死んで当然、人を殺そうとした者が死ぬのは全く当然だ。

 黒猫はそっぽを向いて「……ったく」と舌打ちをした。私の考えとは相容れなかったようだ。そしてそのまま部屋から出て行こうとする。

 「……何でこう、人狼ってのはどいつもこいつも馬鹿ばっかなのかねぇ」

 そうボヤキ、肩を落として部屋から出て行った。彼――クロにも人狼の知り合いがいるのだろうか。その者なら私の気持ちを理解してくれるのだろうか、私のような欠けている人狼の気持ちを。


 中途半端なところで切れてしまっていますので、次回更新をできるだけ早く行いたいと思います。

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