俺は俺の道を行く(ご主人様/作者/創造主編)
「おい、作者!」
久々にるほーの夢を見た。
そう言えば仕事が忙しくて二週間くらい書いてなかったか。
疲れはとれていないのか、夢の中でも体がだるい感じがする。
「疲れているみたいだな」
「ああ。続きが書けなくてごめんな。多分、来週には書けると思う」
催促の夢かと思って、そう言ったが、るほーの表情は険しいままだ。
もちろん、王子様ルックスのるほーだ。
だって、大魔神バージョンだと夢見が悪いじゃん。
前回一度元に戻してやったが、一度夢でその姿で出てきたら心臓が止まるかと思ったので、王子様ルックスに戻してしまった。
最近はめりーもるほーの美形バージョンに慣れてきたらしく、追い回さないので大丈夫だろう。
「どうかしたのか?」
るほーの表情は険しいが、何やら悩んでるように見える。
珍しいこともあるもんだ。
だから聞いてしまった。
「ちょっとお前に聞きたいことがある。いいか?」
本当、るほーは丸くなったよな。
ライアンのほうが逆にうるさいくらいだもんな。
あいつ、全然俺のこと気にしないし。
まあ、いいや。現れるとちょっとうるさいので、ライアンのことを考えるのはやめよう。
「いいけど。悩みか?」
「悩み?この大魔神るほーに悩みなどはない。ただ気になることがあってな」
それを悩みっていうのではないか?
そんなツッコミをいれたくなったが、俺は黙って続きを促した。
るほーの話はこうだった。
ドリームランドに100を超える登場人物が一気に現れ、翌日くらいにあっという間に消える現象が多発しているらしい。
「消える前、奴らはひどく暴れていた。なんだか可哀想になってな」
可哀想。
るほーからそんな言葉を聞かされる日がやってくるなんて、本当、変わったなあ。
いやいや、感慨に浸っている場合じゃない。
「作者がエタった作品を消していっているんだな」
「エタ?」
「ああ、完結できず放置されている作品のことだ。エタっても置いておけばいいのに。いつか書く気になるかもしれないし」
「……同意だ。現在のドリームランドは無限の世界だ。だからどんなに多くの登場人物が現れても壊れることはない。だが、あいつらの創造主は消す」
るほーは相当怒っているらしく、王子様ルックスでも怒りの炎がうっすらと見える。(まあ、夢だかんな)
「……るほーみたいに、作者の夢にその登場人物たちが現れることはできないのか?」
「無理だ。思いが違いすぎる」
「思い?」
「ああ、わしみたいに具現化するには、作者がどれくらいその物語に想いを込めているかが、鍵となる。だから、あのセレスの夢に奴の登場人物が現れることができた。あいつは最初は嫌な奴だったが、奴は自分の物語を好きだったからな」
「ああ、セレス。そういえば今受験で書いてないみたいだけど、まさかドリームランドに迷い込んでる?」
「ああ。しっかり現れたぞ。だが他の奴らと仲良くやってる。あいつはもう消すことはないからな」
セレスこと筆山リコちゃんは同じサイトで小説を書いている執筆仲間だ。今年は高校受験生。以前、作品を消しそうになったところ、俺みたいに登場人物が夢に現れて、どうにか削除を阻止したみたいだ。
こうやってキャラと話すと、なんだか続きを書こうという気になるんだな。
「わしは悔しいぞ。消すくらいなら最初から生み出さなければいいのだ。あいつらが不憫すぎる」
俺はるほーの言葉をただ聞くしかない。
そういうオンライン作家をたくさん知っているからだ。
受ける作品を書きたいため、受けなかったら消す。
また未完作品が多いと読者からの心象がよくないとかで、消す。
作品を消すのは作者の自由だ。
その物語に思い入れがないなら、削除なんて迷うこともないだろう。登場人物がまさか、ドリームランドに迷いこんで、そこから消えゆく苦しみを味わうなんてしらないはずだから。
俺も最初は知らなかった。
消えていきそうなるほーを見て、初めて知ったんだ。
るほーが現れないと、俺は執筆をやめてるか、作品を消しているかだ。
だから、本当に何も言えない。
「作者。静かだな」
「うん。まあ、色々考えてしまって」
「そういえば作者も最初は消していたな。奴らと一緒だ」
「……うん。あの時は本当にごめん」
「悲しかったぞ。だからこそ、あいつらの気持ちがわかるんだ」
その日は結局、何も解決策というかあるはずがないのだが、るほーを慰めることもできず、夢は終わってしまった。
翌日、昼休みにちょっと気になってググってみた。
とりあえず削除を繰り返すのは上昇志向が強い人のはずだ。だから、某チャンネルで掲示板を見る。
「あ、いた。この人か」
作品をよく消す行為、しかもランカーだと話題になる。
だからすぐに誰かわかった。
サイトに戻って、その作者を検索する。
「あ、書籍化作家だ。でも1年前かあ。すごいな。処女作で書籍化。そんで1年後の今、作品を消しまくってるのか」
残ってる作品はどれもポイント3千以上だ。
「天上人だな」
俺はポイントはいつも2桁。さすがに長いシリーズなので、1桁はなくなってきてる。ありがたいことだ。
「苦しんだろうなあ」
書籍化なんてしたことないし、ランキングに乗ったこともない。
だけど、一度書籍化という成功を掴むと、もっと上を目指したくなるんだろう。他の書籍作家のことも気になるだろうし。
「あ、新作だ」
自動更新され、新しい作品名が飛び込んできた。
それは長いタイトルで、流行を盛り込んだものだった。
「追放された悪役令嬢は隣国で力に目覚め無双する〜今更戻ってきても言われてももう遅い」
こういうのが流行りなんだな。
悪役令嬢が無双ってなんだろう?
普段はテンプレには手を出さないが、クリックしてみた。
「面白い。テンポがいいなあ」
俺はそう思って、ブクマをしてポイントを入れる。
仕事が終わって、サイトにアクセスするとその作品が消えていた。
っていうか、作者自体が消えていた。
「退会。筆を折ったのかな?」
そう思ってググってみたら、どうやらバンされたらしい。
複垢かあ。
「もったいないなあ。面白かったのに」
どうにも気になって、俺は作者名をググって他のサイトで彼を探す。
「いた」
俺が使っているサイトの競合サイトで頑張ってるみたいだった。
「すごいなあ」
けれどもそこでも同じ行為を繰り返していて、結局バンされていた。
一週間後、るほーが夢に現れた。
表情はすこしだけ晴れやかだった。
「何かあったのか?続きは明日書くつもりだからな」
「ああ、わかってる。作者、大量殺人がやっと終わったぞ」
「大量殺人?物騒だな」
「あまりにもひどくてな。わしがそう名付けたわけではないぞ。ドリームランドの住人がそう呼び始めたのだ」
ドリームランド、殺人。
ああ。キャラが消えていくやつか。
まあ、住人からしたら突然消えていくから、殺人とも言えないことはない。
作者からしたらちょっとひどいけど。
「大量殺人していた奴がどうやら書くのをやめたらしい。おかげでドリームランドは平和だ」
るほーは笑顔でそう言ったが、俺はすこしだけ胸が痛かった。
あの作者の気持ちがほんの少しわかったからだ。
もし作者がもう少し、物語に想いを込めていたら、きっと登場人物が具現化して、彼を慰めたんだろうな。
いつか、また書いてくれるといいなあ。
面白かったから。
とりあえず、作者名を覚えていたので、1年前に刊行された彼の書籍を買うことにした。
「密林でレビューもするか!」
「密林?」
「なんでもない。明日、頑張って書くからな。でもるほーは王子様のままな」
普段ならるほーは元に戻せっというところなのだが、彼は何も言わなかった。
王子様の姿も板に付いてきたらしい。
「……じゃ、もうそのままでいいかな」
「よくないぞ。今シリーズはこれで我慢してやる。次回は、元に戻せ。ライアンをぎったん、ぎったんにしてやる」
っていうか、作品はすでに勇者vs大魔神ではなく、コメディになりつつあるがな。
俺の作品は本当読まれない。
だけど、こうやって待ってくれているるほーたちがいるから、書けている。
久々に続きを書きました。
今の思いを全部込めてます。
これからも頑張って書こうと思います。