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2人の距離

掲載日:2010/11/11

ドキドキキュンキュンを目指しました。

駄文かもしれないですが、お付き合いください。

「ねぇ、明日どうする?」

 千秋は言った。雅哉は少し考え、「千秋が決めて」と告げる。千秋は少しだけ顔を曇らせた。

「雅哉って、いつも、そうだよね」

「え?」

「…いいよ」

「千秋?」

 首を傾げて、千秋の様子をうかがう。しかし、千秋は先ほどの拗ねたような表情をすぐに切り替え、努めて明るく言った。

「じゃ、明日は、私が雅哉のアパートで料理を作ってあげるね。その前に、買い物でもしようか。いつもとあんまり変わらないけどいい?」

 千秋は雅哉に問う。どういう答えが返ってくるか、分かっていたけれども。

「いいよ、そうしよう」

想像していた言葉と一語一句違わない返事。千秋はまた少しだけ顔を曇らせたが、顔を伏せていたため、雅哉は気付かなかった。


明日は千秋と雅哉が付き合って3カ月の記念日。

2人は付き合うまではずっと友だち関係だった。千秋が恋の相談を雅哉にするほどの仲の良さであったのだ。

それが崩れ、恋人関係に変わったのは、雅哉の一言からだった。

「好きだ」

失恋をし、涙を流す千秋の頭を撫でながら、雅哉は小さく呟いた。

聞こえなくてもいいと思っていた。嗚咽交じりに泣いていた千秋には聞こえないと思っていた。

しかし、その声は千秋に届いていたのだ。

千秋は少しだけ驚いたが、その告白を聞いた途端胸が熱くなるのを感じた。

 失恋したばかりだというのに。

 友だちだと思っていたというのに。

しかし、胸の熱さは、「恋」だった。

「そっか。好きだったんだ」

そんな想いが千秋の胸にストンと入ってきた。

燃え上がるような、焦がれるような恋ではなく、昔からあった事実のように、やけにすんなりその気持ちを受け入れた。

だから、千秋は頷いた。


 けれど、そんな始まりだったからであろうか。雅哉は優しかった。

もちろん、千秋と友だち関係であった時も、優しかったが、それとはまた違う優しさだった。

「気を遣われている」

千秋がそう気付くのに、そう長い日はいらなかった。

どこに行くのも、何をするのも、千秋の意見を優先してくれた。

大学生2年生の2人は比較的時間の余裕があるはずだが、理系の雅哉は、先輩の実験の手伝いにかり出されることも多く、忙しかった。また、遊びに行く時、いつだって雅哉が全てを持ってくれた。

千秋が割り勘を提案しても、いつも断られた。

そのお金を稼ぐため、雅哉のバイト時間は以前の倍以上になった。

 それでも、一週間のうち、3日以上は会う時間を作ってくれたし、電話にも付き合ってくれた。「会いたい」と言えば、いや、直接言わなくても寂しいということが口調から分かれば、雅哉はどんなに忙しくても千秋に会う時間を作ったのだ。

「それが嬉しくないわけじゃないんだけどな…」

千秋は思う。

雅哉が自分のために、会う時間を作ってくれることは本当に嬉しい。けれど、それは、雅哉の意志というよりは、義務のようである気がして仕方ないのだ。

千秋には、雅哉が怖がっているように感じた。

それでも、そのことに言及することができなかった。雅哉が恐れていることは、千秋が信じていてほしいと思っていることだと分かっていたから。


 記念日当日。千秋は10時から支度を開始していた。

待ち合わせは、13時に駅前であり、大学へ自宅通いである千秋はバスに乗れば15分くらいで駅に着く。しかし、待ちきれなくて、早めに支度を始めたのだ。

数日前に買ったばかりの白いコートをクローゼットから出す。

そのコートは、以前の千秋ならば買わなかったであろうものだった。

けれど、千秋は知っていた。雅哉が以前付き合っていた人は、同じようなタイプのものを身に着けていたことを。

 以前誰かと付き合っていたことを責めたいのではもちろんない。

ただ、そういう服が似合う子が好きなのかな?と考えだしたら、買っていただけだった。

家に帰って、袋から出し、ハンガーにかけクローゼットに並べた時、千秋は少しだけ笑った。

その日買ったばかりのコートは他の服と違い大人っぽく、一緒に並べられるとそれだけが浮いてしまうほど、他の服とタイプが違ったからだ。

二十歳を迎えたばかりの千秋は、まだまだ大人っぽいと言われるような服装は似合わない。

それでもそのコートを買った自分を想い、

「やっぱ、好きなんだな」

そう改めて思った。

いつからだったのだろう、と考えても答えは出てこなかった。けれど、ずっと前から好きだったような気がする。

失恋をして涙を流すほど好きな人がいたにもかかわらず、だ。千秋は、自分のいい加減さに少しだけ呆れ、ため息をついた。

こんな自分だから、いけないんだ。

両頬を軽く叩き、自分を叱咤する。


 せっかくの記念日なのに、こんな気持ちにならなくてもいいだろうと、思考を中断させ、化粧に取りかかった。あまり濃いのが好きではないと言っていた雅哉のために、ナチュラルメイクを施す。髪の毛も整え、コートを羽織った。

外は、冷たい風が吹いていたが、日差しは温かい。手袋を付けようか迷った末に、そのまま玄関に置いていった。

冬に恋人とのデートなのだ。お約束だってしたくなる。


 千秋は、左腕にはめた腕時計を見た。時間は13時15分前。

少し早く来すぎた、と思ったが待ち合わせ場所にはもうすでに雅哉の姿があった。

「雅哉~!」

「千秋、早いね」

「それを先に来てる雅哉が言う?」

「それも、そっか」

「雅哉こそ早いじゃん」

「うん。実はさ、さっきまでバイトしてたんだ」

「え?土曜日って何もない日じゃなかった?」

「そうだったんだけど、今月頭くらいから入ったんだ」

「私聞いてない」

「あ、ごめん。…でも、千秋、俺がバイト入れると心配するからさ」

「だって、最近の雅哉忙しすぎだよ?大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。俺、健康だけが取り柄だから」

「でも…」

「本当に大丈夫だから、ね。この話はおしまいにして、デート楽しもうよ」

「……」

「ほら、そんなふくれっ面しないで。俺なら本当に大丈夫だし、無理しないって約束するからさ」

「…わかった」

 千秋は渋々頷いた。

それを見て、雅哉はほっとしたように笑みを浮かべ、歩き始める。

しばらくして、雅哉は千秋の手を見て言った。

「あれ?千秋、手袋は?忘れた?」

「えっと…お約束をしたいなぁって思って」

「お約束?」

「うん」

 そう言って手を伸ばす。その頬はほんのりと赤い。

「いいよ」

 雅哉はその手を軽く握った。2人手を繋いで道を歩いていく。

 雅哉の手は温かかった。

けれど、それがそれまでバイトをしていたせいなのかと考えると、千秋は少しだけ切ない気持になる。

「どうして?」

声に出せない想いが千秋の胸を駆け巡った。


 その日のデートは楽しかった。

服を見て、ぶらぶら歩き、通りかかった映画館で面白そうなものをやっていたため、それを見た。

上演が終わると、2人で映画の感想を言いながら、またぶらぶらと歩いた。

ずっと手は繋がれていた。

雅哉の家に戻る途中にスーパーに寄り、食材を買った。

そういう何気ないことが、雅哉といると全て温かく感じた。そんな雰囲気が千秋は大好きだった。

 その日の夕飯は、シチューとサラダだ。

料理への挑戦を始めたばかりの千秋は、あまり凝ったものは作れない。それでも雅哉は笑顔で「おいしい」と言ってくれた。雅哉も半分くらい手伝ったのだけれども、「料理が上手い」と千秋を褒めた。


 夕食を食べ終え、2人で他愛ない話をしていた。

ふと、雅哉が席を立ち、何がを探し始めた。

「はい」

 席に戻った雅哉は小さな包みを出し、そう言った。

「何?」

「開けてみて」

 千秋はピンクのリボンが付いているその包みを開ける。中にはネックレスが入っていた。

「これって…?」

「前に可愛いって言ってたよね?」

 雅哉が千秋にプレゼントしたのは、前回のデートの時、千秋が「可愛い」と見惚れたネックレスであった。

「え?…でも、なんで?」

「三か月記念」

「…ごめん、私、なにも用意してない。一緒に過ごせればいいかなって思ってて。本当にごめんね。今度さ、雅哉のプレゼント一緒に見に行こうよ」

 そう言う千秋に雅哉は笑って首を振る。

「いいよ、俺は。こうやって千秋と過ごせれば十分」

「でも…」

「いいんだって、俺なんかにプレゼントしなくて」

 その言葉に、千秋は俯いた。

様子の変わった千秋を不審に思ったのだろう。雅哉が顔を覗き込もうとする。しかし、その前に千秋は顔を上げた。

「…ねぇ、俺なんかって何?」

「え?」

「俺なんかって、何?いいって何?…私だって、雅哉にプレゼントしたい。雅哉に喜んでもらいたいよ」

「その気持ちだけで十分だよ?だけど、そこまで言ってくれるなら、一緒に見に行く?」

「…それって…誰の意志?」

「え?」

「誰の意志?」

「ごめん、千秋。言っている意味が良く分かんない」

「私たちって付き合ってるんだよね?」

「え?」

「付き合ってるのに、なんで?なんでこんなに距離があるの?」

「…」

「始まりがあんなのだったから、私のこと信じられない気持は分かるけど…でも、こんなの…」

距離が遠すぎる。最後の言葉は、口には出せなかった。涙が頬を伝い、後から後から流れ出る。

雅哉はそんな千秋を見て、下唇を噛む。

すぐに千秋を抱きしめた。

「ごめん」

 小さな声が千秋の耳に入る。

千秋は雅哉の胸に頬を押し付けた。雅哉のにおいが鼻孔をくすぐる。

「ごめん。千秋が悪いわけじゃない。…俺が、弱いだけ。…俺がずるをしたから」

「ずる?」

 鼻が詰まった声で聞く。

「弱ってる千秋につけこんだ。…そんなつもりはなかったんだけど、でも結果的にそうなった。…俺、本当にずっと前から千秋のこと好きで、でもそれまでは友だちだったから、千秋は友だちだと思ってるって、だから、千秋に想われていないのなんて当たり前だって、割り切れたんだ」

「…」

「でも、千秋と付き合うようになって、…千秋が傍にいて、毎週のように会って、彼氏と彼女で…。怖くなったんだ。千秋が離れて行ってしまうことが。友だちでいた時みたいに割り切れなくなってた。だから、必死で千秋を繋ぎとめたかったんだ。…そのために、バイトして、色々買ってたりして、『良い彼氏』になりたかったんだ。千秋を繋ぎとめておきたかった」

 千秋は、雅哉の声を聞きながら、大切な事に気が付いた。

千秋はまだ、声に出して「好き」だと伝えていない。

態度では示していた。心の中で、いつも思っていた。

「ああ好きだな」

雅哉が笑うたび、心の中にその言葉と一緒に温かい気持ちが広がった。だから、何回も言っている気になっていた。けれど、気が付けば一度だって直接伝えてはいなかった。

謝らなければいけないのは、自分だった。

大切な人を不安にさせていたのに、それを認めることが怖くて、答えを先伸ばしていた。

弱いのは自分だった。

 千秋は雅哉の背中に腕を回した。ギュッと力を込める。

「あのね、…私、雅哉が好きだよ。たとえ、食事が割り勘でも、『会いたい』って言った時なかなか会えないとしても、わがままになっちゃても、それでも、雅哉が好きだよ」

「…千秋」

「良い彼氏なんていらない。雅哉がいい。だからさ、無理とかしないで。そのままの雅哉が好き。他の誰でもない雅哉が好きだから」

「うん」

 雅哉の腕に力がこもる。苦しい位の抱擁。

それがひどく愛おしかった。

 千秋も自身の腕に力を込める。


「好きだよ」

言葉が重なり、2人の距離がゼロになった。


いかがだったでしょうか?

コメントや評価など何かしていただければ、幸いです。


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[一言] こんにちは! 柏木 柚葉です(_ _) この小説、少し共感できます* ありのままの好きな人が一番好きですもんね++ 最後の終わり方も題名にぴったりで(って当たり前なんですけどw) やっぱ…
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