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濡れ衣で「偽の紙を張った」と寄合に晒された傘張りは、印判を伏せて張りません——梅雨で、お宅の傘だけ破れましたわね

作者: 真神 慧
掲載日:2026/08/04

【寄合の座】


笑い声が、開いた番傘の内側でひとつ大きくなりました。


文次さんが柄をひねると、油紙の裂け目がぱくりと開きます。そこへ太い指を突っ込み、よく通る声でおっしゃいました。


「見ろ。環が偽の紙を張ったから、ひと雨でこのざまだ」


文次さんの身内が「偽の紙だ」と語尾をなぞり、町衆までつられて笑います。寄合というものは便利ですこと。ひとりでは言えないことも、隣が歯を見せればたちまち名案に聞こえます。


わたくしは破れ目を覗き込みました。紙の継ぎは剥がれていません。反った骨の先が内側から紙を突き、雨を吸ったところへ二度、三度と押しつけられております。


そのすぐ脇には、わたくしが十二年使ってきた印判の跡がありました。文次さんの店の名の下へ、小さく押す決まりの判です。働いた者を示すための印が、今日は罪人を見つける目印になったらしい。ずいぶん働き者ですわね、判まで。


「何か言うことはないのか」


「継ぎではなく、骨が紙を突いております」


「言い逃れか。紙が本物なら破れん」


文次さんは傘を閉じ、また開きました。傷んだ骨が同じ場所を突きます。証拠を自ら二度も増やしてくださるとは、たいへん親切なお方です。


「紙と骨さえ揃えば、張る者など誰でも同じだ。お前だけの仕事のような顔をするな」


「そのような顔をしておりました?」


「口答えするな!」


声を張った拍子に、文次さんの羽織の裾が卓へ広がりました。上等な鼠色。あれ一枚で番傘が十四本、少し紙を落として十三本半。骨の反り一本には銭を惜しみ、人の背へは十四本分を着せる。人の勘定とは不思議ですこと。


「文次の言うとおりだ。張り替えなんぞ、紙を貼るだけだろう」


町衆のひとりが言い、身内がまた笑いました。文次さんはわたくしへ破れた傘を突き出します。


「偽物を張った分は、手間賃から引く。今後は俺の見立てどおりにやれ」


わたくしは傘を受け取り、飛び出した骨先を指の腹で確かめました。削り直せばまだ使えます。けれど、それを口にすれば、偽物を張った女が失敗を取り繕っていることになるのでしょう。


「承知いたしました」


頭を下げると、笑い声がもう一度、傘の中へ集まりました。


破れた紙より、あちらの口のほうがよく開きます。こちらは張り替えられますけれど、あちらは骨から直さねばなりません。惜しいこと。手間賃が出ないので、わたくしは触りませんが。


    *    *    *


【十日後・傘置き】


五月の雨は、軒先へ細い筋を何本も垂らしておりました。


文次さんの傘置きでは、身内の若い手が新しい油紙を骨へ載せています。紙はわたくしが偽物と呼ばれたものと同じ束から取った品。十日前には人を罪人にした紙が、今日は本物の顔で糊を待っております。紙にも出世がございますのね。


「継ぎは真っ直ぐ合わせろ」


文次さんが腕を組みます。


若い手は言われたとおり、骨の上へ紙の継ぎを置きました。糊刷毛が近づいたところで、わたくしは傘を横から見ます。一本だけ、骨の中ほどがわずかに浮いている。乾いた日には眠り、雨を含むと外へ反る癖です。


継ぎを二分ずらせば、骨先の力は隣の紙へ逃がせます。真っ直ぐ張れば見栄えはよろしい。その代わり、ひと雨ごとに同じ場所を刺すでしょう。人も傘も、見栄えだけ真っ直ぐなものほど内側で無理をいたします。


隣で骨を束ねていた徳蔵さんへ、わたくしは顎を向けました。


「こちら、何年でしたかしら」


徳蔵さんは骨から目を上げません。


「去年で四年目だ」


「やはり」


四年目の夏に片側だけ干され、秋に一度、戸へ挟まれた骨です。家ごとの扱いは傷に出ます。あそこの軒は浅い、こちらの土間は湿る、その家の子は傘を杖にする。町の人が忘れても、骨はたいへん執念深い。


「何をこそこそ言っている」


文次さんがこちらを向きました。わたくしには背を反らせ、徳蔵さんには声を半分ほどにします。骨師の仕事を止めれば、自分の傘が一本も組み上がらないことだけは、紙より厚くご存じらしい。


「継ぎを二分、ずらしたほうが保ちます」


「また自分だけ分かるという顔か」


「顔のお話がお好きですのね」


徳蔵さんが、短く咳をしました。笑ったのではありません。あの方は咳と笑いの置き場所がたいへん近いだけです。


文次さんは刷毛を若い手へ渡しました。


「真っ直ぐ張れ。紙と骨が同じなら、出来も同じだ」


糊刷毛が紙の上を走ります。白い継ぎ目は、命じられたとおり見事に真っ直ぐでした。


わたくしは傘置きの端に積まれた修繕待ちを数えます。十一、十二、十三本。うち四本は、雨が強くなれば骨が反る。文次さんの羽織一枚より一本少ない。なるほど、羽織を脱いで傘へ掛ければ、数だけは合いますわ。


「環」


徳蔵さんが呼びました。


差し出された骨を受け取ると、親指の腹で削り具合を確かめます。言葉はそれで足りました。


わたくしたちは四年目を覚えている。文次さんは、真っ直ぐな継ぎ目だけをご覧になる。


雨は、どちらの顔も立てません。


    *    *    *


【二十日後・店先】


破れるときの番傘は、存外に明るい音を立てます。


ぱつん、と紙が鳴り、文次さんの店先で開かれた傘に細い口ができました。雨粒はそこを見逃しません。待っていましたとばかりに筋を作り、客の肩から袖、袖から足袋へ流れていきます。


「先ほど張り替えたばかりでしょう」


濡れた客が傘を傾けました。反った骨が紙を突き上げ、真っ直ぐな継ぎの脇を裂いております。まことに律儀。同じ張り方なら同じ場所から破れると、骨が身をもって教えてくださいました。


傘置きには、同じ傷の傘が三本戻っていました。文次さんは裂け目を指で押さえ、こちらへ聞こえる声を出します。


「雨が強すぎたんだ。こんなもの、誰が張っても同じだ」


身内が「同じだ」と続けます。


おや。十日前には、誰が張っても同じだから環でなくてよい、でしたのに。今日は誰が張っても同じだから自分も悪くない。言葉とは番傘より便利ですこと。骨がなくても、よく開く。


「環、ぼさっとするな。破れた紙を剥がせ」


「わたくしの見立ては、偽の紙を張る見立てでは?」


「今はそんな話をしていない!」


今を選べる方はお強い。昨日も十日前も、都合が悪ければ濡れた土間へ流してしまえるのですもの。


わたくしは傘へ手を伸ばさず、その日の手銭を数えました。油紙一枚でほぼ消えます。晩の菜が一品減り、汁はずいぶん見晴らしがよくなるでしょう。具のない汁というものは、椀の底まで一望できて爽快です。ちっとも嬉しくありませんけれど!


日が落ちてから、わたくしは油紙を抱えて近所の軒へ入りました。昼に雨漏りしていた古い番傘が一本、土間へ伏せてあります。持ち主はもう休んでおり、頼まれてもおりません。


傘を開くと、骨の一本が弱っていました。紙だけ替えれば次の雨で折れます。さて、手銭に続いて睡眠まで番傘へ変わる夜でございます。


背後で木の擦れる音がしました。


振り返ると、徳蔵さんが戸口に立っています。何も言わず、削り直した骨を一本、わたくしの脇へ置きました。親指の腹が平たい手は、そのまま懐へ戻ります。


「徳蔵さん。晩餉は」


「食った」


「嘘ですわね」


「お前もだろ」


短いお返事で、空腹が二人分になりました。増やしてどうするのです。


わたくしは古い骨を外し、徳蔵さんの骨を入れました。紙の継ぎは反りから二分ずらし、糊を薄く引きます。最後に内側へ印判を押すと、小さな印が油紙へ沈みました。


誰も見ておりません。褒める人も、手間賃を払う人もおりません。


それでも雨は明日も来ます。雨には寄合の評判も、文次さんの羽織も通じませんから、たいへん話が早いのです。


    *    *    *


【その夜・寄合の座】


卓の上へ、預かっていた刷毛を置きました。


糊鉢、裁ち板、紙包みの帳面。文次さんの店から任されていた品を、ひとつずつ持ち主の側へ返します。寄合の人々は、最初こそ面白そうに見ておりました。


「何の真似だ」


文次さんが刷毛を取り上げます。


「偽物を張った者の印では、品の確かさを保証できないのでしょう」


「誰も辞めろとは言っていない。俺の言うとおり張れと言ったんだ」


「はい。ですから、今後は決まりを厳密に守ります」


わたくしは懐から印判を出しました。


十二年、紙を張るたび内側へ押してきたものです。朱肉の残った面を下にして、卓へ伏せます。小さな木の音がしました。


「印のないものは張りません」


身内のひとりが吹き出しました。


「自分で印を伏せておいて、何を言ってるんだ」


町衆にも笑いが移ります。文次さんは腕を組み、勝った方の顔で頷きました。


「そうだ。お前の印などなくても困らん。紙と骨を揃えれば、張り手はいくらでもいる」


わたくしは最後の紙包みを文次さんの前へ滑らせました。何本張れるか、数えませんでした。


軒の浅い家。土間の湿る家。骨を戸に挟む家。四年目の骨、七年目の骨、去年削り直した骨。数えようとすれば、いつも勝手に番傘へ変わったものが、そのときだけ一枚の勘定にもなりませんでした。


「わたくしはこの一判に、十二年、この町の梅雨を押してまいりました」


笑い声が途切れました。


奥にいた者が口を閉じ、その隣も歯を隠します。最後まで笑っていた身内のひとりは文次さんの顔を見ましたが、文次さんも次の言葉を出しませんでした。


十二年。これは番傘の本数にできません。


わたくしは伏せた判から手を離しました。


徳蔵さんが立ち上がります。卓の脇に置いていた骨の束を抱え、わたくしの隣へ並びました。


文次さんの声が、急に細くなりました。


「徳蔵まで何をしている。骨の仕事は残っているぞ」


「知ってる」


「なら座れ」


「環が立った」


徳蔵さんはそれだけ言い、先に戸を開けました。


外では雨が降り始めていました。傘は一本しかありません。徳蔵さんが持ち、わたくしが入り、肩を半分ずつ濡らします。


十二年、町の人を濡らさぬようにしてきたくせに、自分たちの肩はまるで下手ですこと。


けれど振り返りはしませんでした。


    *    *    *


【一月後・講元の家】


真砂さまの家には、開いた番傘が六本並んでいました。


どれも二度以上、梅雨を越した傘です。内側には見慣れた印判の跡があり、紙の継ぎは骨の癖に合わせ、ほんの少しずつ場所を変えてあります。六本とも違う。揃えて美しく見せるより、破れないほうを選んだ仕事でした。


徳蔵さんは傘を一本ずつ指しました。


「こいつは五年目。そっちは三年。奥のは七年目に骨を二本替えた。あの家は軒が浅いから、紙を厚くしてある」


真砂さまは口を挟まず、傘の内側へ手を入れました。印の周りを指でなぞります。


徳蔵さんが六本目を閉じました。


「あの娘の判が入ってたから、あの傘は梅雨を越してたんだ」


「そう」


真砂さまは一度だけ頷きました。柔らかな声なのに、もう決まったあとの響きがします。何度も言わない方は、言葉を値切りません。


「環さん、こちらへ」


座敷の端で小さくなっていたわたくしは、膝で進みました。小さくなったところで背丈は変わりませんが、こういう場では気分だけでも三寸ほど縮んでおくのが礼儀です。


「二十年前、私も同じ笑いを聞いたよ」


真砂さまの昔語りは、その一行で終わりました。


代わりに、盆の上から印判を取りました。寄合の卓へ伏せて置いたものを、真砂さまが講の預かりとして引き取ってくださったのです。真砂さまは朱のついた面を上へ返し、わたくしの掌へ載せました。


小さな木片が、妙に熱く感じられました。


「講の張り替えを、あなたの名で請けてもらいたい」


「わたくしの、名で」


「ほかに誰の名を借りるの」


女衆が車座を少し広げ、わたくし一人分の場所を作りました。誰も慰めの言葉を並べません。椀をひとつ渡され、煮えた小豆の甘い匂いが鼻先へ上がります。


汁粉でした。温かい。しかも餅が二つ。二つ! 油紙一枚へ晩餉を吸い取られた身には、餅二つなど大名の扶持です。


「冷めますよ」


女衆の声に、わたくしは慌てて箸を取りました。


「これですわ。梅雨は温みが命ですのよ。冷えた土間は十二年で人を辞めさせますの」


徳蔵さんが椀を覗き込みます。


「俺の餅は一つだ」


「働きの差では?」


「骨、返せ」


「まあ、六十二歳が餅一つで拗ねませんの」


女衆の肩が揺れました。寄合の笑いとは違い、わたくしの椀から餅が逃げる気配はありません。


印判を握ったままでは食べにくく、わたくしはそれを膝の脇へ置きました。今度は伏せません。朱の面を上にしたまま、温かい椀を両手で包みました。


    *    *    *


【梅雨・町の辻】


雨脚が強まった昼、文次さんの店先で番傘が一本、派手に裂けました。


反った骨が真っ直ぐな継ぎの脇を突き破り、油紙を縦に割ります。傘を差していた客は頭から雨をかぶり、軒へ飛び込んだときには襟まで濡れておりました。


「またか!」


客が傘を振ると、溜まった水が文次さんの羽織へ飛びました。番傘十四本分の鼠色へ、大きな雨染みがひとつ。お値段を思えば、たいそう豪勢な染め物です。


文次さんは傘を奪い、裂け目を押さえました。後ろの傘置きは空です。修繕待ちばかり増え、貸し出せる傘が残っておりません。


——紙も骨も同じなのに、なぜ俺の家の傘だけが破れる。


文次さんの目が、裂け目から骨へ移りました。けれど指は、二分ずれた継ぎを一度も作ったことがありません。


辻の向こうを、別の客が古い番傘で歩いてきます。先月、夜に直した近所の一本でした。雨を受けても紙はたわまず、替えた骨も静かに開いています。


「あれは環さんの判だ」


軒の下の誰かが、傘の内側を見て言いました。


別の番傘が続きます。三年目、五年目、七年目。骨の癖に合わせた継ぎが雨を逃がし、その内側には小さな印が残っています。寄合で笑った口が、今度はひとつずつ、わたくしの名を呼びました。


「環さんに張り替えを頼めるか」


「うちのも見てもらいたい」


「先にこちらを。明日使うんだ」


まあまあ。人の心は梅雨空より忙しい。笑った日には偽物、濡れた日には環さん。番傘なら開いたり閉じたりにも骨が要りますのに、口は骨なしでよく動くこと。


「順にお預かりします。骨を見てから日を申し上げますわ」


わたくしは濡れた傘を一本だけ受け取りました。誰が笑ったかは数えません。代わりに骨を数えます。こちらのほうが仕事になり、お米にもなります。実に健全。


そこへ真砂さまが女衆とともに来ました。


文次さんは裂けた傘を抱えたまま、店先から降ります。


「真砂さま。うちは代々、講の張り替えを取り仕切ってきた家です。少し傘が重なったくらいで、よそへ回されては筋が通らない」


寄合では卓を震わせた声が、真砂さまの前では軒から落ちる雨ほど細くなっています。家の格は、困ったときだけ差せる傘なのでしょう。骨がなくても大きく開けて便利ですこと。


真砂さまは空の傘置きを見ました。次に、雨を受けている客の濡れた肩を見ます。


「講の張り替え先から、文次さんの家は外します」


「待ってください。今までの付き合いが」


真砂さまは帳面を女衆へ向けました。


女衆が帳面を開き、文次さんの店の頁へ線を一本引きます。紙の上を筆が通っただけです。それでも空いた傘置きの前で、文次さんの手から裂けた番傘がずり落ちました。


客はそれを拾わず、わたくしへ濡れた傘を差し出しました。


「環さん、頼む」


「骨を一本替えます。紙の継ぎも二分ずらしますので、三日くださいませ」


文次さんは口を開きましたが、真砂さまも町衆も、もうそちらを見ておりません。


胸の奥で、梅雨雲が一枚めくれました。あら、たいへん。晴れ間とはこういう顔をして現れるのですね。傘張りには少々、商売上困るほど眩しいですわ。


わたくしは新しい依頼だけを抱え、雨の辻を渡りました。


    *    *    *


【夏・新しい傘置き】


最初の一判は、思ったより小さな音でした。


自分の店の土間で、わたくしは張り終えた番傘の内側へ印判を押しました。文次さんの店の名はありません。朱の中にあるのは、わたくしの名だけです。


新しい傘置きには、講と本家筋から、わたくしの名で請けた番傘が並んでいます。右から三年目、二年目、初めての張り替え。軒は深く、土間は乾き、徳蔵さんの骨はどれも機嫌よく揃っておりました。あれだけ欲しかった自分の店なのに、壁の雨染みまで番傘六本分に見えるあたり、職人の頭は独立しても自由になりません。


客が仕上がった傘を受け取りました。


「環さんの傘だね」


わたくしの名を呼んでから、表で傘を開きます。夏の日が油紙を透かし、内側の判を明るく浮かせました。


「ええ。骨の一本一本まで、わたくしが見ました」


言ってから、少しだけ背筋が伸びました。自慢は番傘と同じで、開く場所を選べば人の邪魔になりません。たぶん。店の中なら、まあ、わたくしの土地ですし!


昼すぎ、講の女衆が鍋を抱えてきました。暑い日に温かな汁粉とは、なかなか攻めた差し入れです。けれど梅雨を越した身体には、その湯気がひどく馴染みました。


車座になりかけたところで、門前に影が立ちました。


文次さんでした。


羽織は着ていません。手には破れた番傘が二本あり、後ろには修繕を待つ束が積まれています。


「環」


町衆の前で呼んだときとは違う声でした。


「戻ってくれ。張り手が足りない。お前が前と同じように受け持てば、うちも講へ話を通せる」


謝る代わりに、戻れば役に立てるとおっしゃる。文次さんの中では、わたくしの十二年はまだご自分の店の道具箱に入っているらしい。蓋を開ければ、いつでも同じ場所にあると。


わたくしは手を拭き、門前まで出ました。


破れた二本は、どちらも反った骨が真っ直ぐな継ぎを突いています。直し方は分かりました。必要な日数も、油紙の量も、徳蔵さんへ頼む骨の太さも。


分かることと、引き受けることは別です。


「印のないものは張りません」


文次さんの顔が固まりました。


わたくしはそれ以上、申し上げませんでした。説教は紙より高くつくうえ、貼ってもすぐ剥がれます。無料で差し上げるには惜しい品です。


戸を閉めると、徳蔵さんが作業台へ新しい骨を一本置きました。


「次」


「はいはい。汁粉が冷める前に一本ですわよ」


「二本だ」


「餅を一つしかもらえなかった恨み、まだお持ちで?」


徳蔵さんは答えず、平たい親指で骨の反りを確かめました。女衆が椀を並べ、わたくしの分を作業台のいちばん近くへ置いてくれます。


わたくしは新しい油紙を広げました。


骨の癖を読み、継ぎを二分ずらし、刷毛へ糊を含ませます。店先には自分の名の入った傘が並び、その内側で、乾きかけた朱の判が夏の日を受けておりました。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。

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