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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

日常その1

作者: obol
掲載日:2026/06/18

死をあがなえ

そして生の輝きを


そのスローガンを元に彼らは町を闊歩していた。

彼らの思想は、生きとし生けるものすべての救済

しかしながら理想というのは時に皮肉である。

彼らが声高に叫べば叫ぶほど、必然的に思想の先鋭化並びに排他的な救済の範囲

必ずしも万人受けというものはあり得ないのである。

それすなわち、同じ人間が同時多発的に存在しうることになるからである。

私は没個性的でシュレーディンガーの猫のような人間だ。

名を羽飼羽子という。はねはねとよく呼ばれている。

私自身あだ名のように、特に考えないようにそして、考え込んでも軽く考えて生活しているのだ。

そうしていないと、この世界の矛盾や不合理その他もろもろのドロドロした真実に心を持っていかれてしまうから。

この世界、私が暮らしているノヒンという国のアワンイコ地区はかなりほかの地区と比べて貧しい。唯一良い点を言えば海がきれいなことくらいだ。

青い空青い海のどこかで聞いたフレーズのような夢うつつのような世界である。

しかしながら、そこで暮らすとなるとなかなか思うようにはいかないものだ。

貧しさが原因の争い、諍い、幸せになれる薬があふれていてその中で私たちは生きている。

人々はなぜか、貧しくなると声高に平和や愛などを叫びたがる。現実への逃避なのか?

しかし、逃避の先は受け入れがたい現実なのだ。

知人や友人も逃避を続けて、私は先日親友を失ってしまった。

あの日、私たちは普段いかない区域の歓楽街で遊んでいた。

「はねはね、次どこにいくよー?飲みすぎてふらふらするんだけどさ、久しぶりの休みならやっぱりはっちゃけなきゃ!!」

すごく溌剌な彼女は、都柄章子。あだ名はトガちゃん。

私は、彼女の溌剌さに影響されるように今思い返せばこの時点で帰るべきだったと思うが、あまりよろしくない提案をしてしまった。

「トガちゃん。少し裏通りの穴場なお店探してみない?やっぱり冒険はできるときにしていったほうがいい気がしてさ。」

そんな私の意見に優しいトガちゃんはすぐ同意してくれた。

「はねはねそれ大賛成。私の直感を信じて!私についてきて!!」

風のように歩き出した彼女に私はついていった。

そこからあまり思い出せないんだけど、裏路地のお店に入って、そこから眠気が強くやってきて、気づいたら朝だった。

私は、てっきりトガちゃんも流れで解散したものだと思ってそこまで気にしていなかった。

そこから5日後、私はトガちゃんの近況をニュースで知ることになった。

訓練された抑揚と言っての役割を遂行していそうなニュースキャスターの声で

「5日前、ウスタバ区の路上で身元不明の遺体が見つかり、警察が殺人事件と断定して捜査本部を設置していた事案で、

新たな事実が分かりました。警察は本日、DNA型鑑定などから、遺体の身元をナニヲ区の都柄章子さんと特定しました。

また、その後の司法解剖の結果、都柄章子さんの体内から多量のアルコールが検出され、死因は急性アルコール中毒と判明しました。

遺体に目立った外傷がなく、現場の状況などから、警察は多量の飲酒による自殺の可能性が高いとみて、事件性の有無を含め慎重に裏付けを進めています」

そこから先は何も覚えていない。空は茜色、空気はひんやりしている、空気は肺から逃げたがっていて生きることにしがみつく本能とともに自分を取り戻した。

ただ、流す涙も時差があって、喪失感も言葉で形容しがたい感覚も嫌というほどトガちゃんがいなくなったということを知らしめる。

私の体だったはずの体はいう事をきかないそれでも時は流れる。気づけば太陽の光が届かないほどに空は真っ黒になっていた。

私は、重たい体をなんとか動かしてお湯を沸かし始めた。

水が熱せられて温度というものが上がって限界を超えた水たちが空気に離散していく。その一連の流れを見ながら必死に考えないようにしていた。

それでも押し寄せてくるトガちゃんとの記憶。水がお湯に変化する前に私の体から出ていくしょっぱい味の水。私の体温で熱せられていたのかとてもとても暖かかった。

私はこうして生きている。けれど真実は残酷で、トガちゃんはもう戻ってこない。思い出の中に取り残された彼女は、私と一緒に歩むことはできないんだとやかんの音で受け入れた。


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