誓いの丘ー魔女は星空に願うー
空気が澄んだ静かな丘の上に一人、二十代前半位の女性が星空を眺めていた。
「綺麗な星空ですよね」
首から一眼レフカメラをぶら下げた眼鏡の青年が、彼女の後ろから声を掛けた。
「え、ええ。貴方も星を見に?」
突如声を掛けられ、彼女は一瞬驚いたが、直ぐに簡単な質問を投げた。
「はい、僕も星が好きなので。この場所は星空が綺麗に見えて僕のお気に入りなんです」
「あ、そうなんですね」
「・・・・・・僕、季節関係なしによくここに来るんですけど、お姉さんもそうだったりします?」
少しの間の後、青年が問い掛けてきた。
「私は、今の時期だけですかね・・・・・・」
「何か理由が?」
「はい、ここには思い出があって、この季節に星空を眺めていると思い出すんです」
「そうなんですね。あ、僕はそろそろ帰ります。夜道暗いので下りる際に気を付けて下さい」
「はい、ありがとうございます」
青年は丘を下っていった。
(本当は思い出すんじゃなくて、忘れられないんだけどね)
「君と、後何回星を眺められるのだろうか」
「何弱気な事言ってんの? 病気を治したらまた見れるじゃない」
「ふふ、そうだね・・・・・・」
「そうだよ、蒼汰」
車椅子を押しながら彼女は蒼汰という青年を、丘の上に連れ出した。病院には見つからないように。
そうまでして連れてきたのは、彼の寿命が残り僅かである事を占いでずっと前から知っていたから、せめて一緒に病室の窓からいつか一緒に行きたいと言っていた場所に連れていきたかったからである。
「そうだ、絵を描かせてくれないか? 星空をバックにした君の絵を」
「うん、いいよ」
彼の申し出に彼女は承諾した。
蒼汰は彼女から少し離れると、手に持っていたスケッチブックと鉛筆で早速星空を眺める彼女を描き始めた。
そして数時間後、デッサンは仕上がった。
「出来た」
「見せて、やっぱり蒼汰は絵が上手いね」
「ありがとう」
蒼汰は照れて左手で首の後ろを掻いた。
「僕は幸せだった。君に出会えて」
「何よ急に、まるで別れの言葉みたいじゃない」
「ねぇ死なないでお願いだから!!(どうして? 魔女なのに病気を治す術も分からない。願いは、ついで叶わない)」
「はぁ・・・・・・君は魔女だ。ならきっと人間よりもずっと長生きするはずだ」
「だったら何?」
「約束しよう。星が巡り、時が過ぎ、生まれ変わった僕がこの丘で君に逢えたら、一緒に星を見る事を」
「・・・・・・うん、約束」
「それじゃ指切りだ、小指出して」
彼女は彼に言われるまま小指を出した。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った」
二人で歌い、彼女は涙を流しつつも笑顔で誓った。 その後病院に戻った。 そして数日後、彼は息を引き取った。彼女に出来上がったデッサンを渡して。
(私はまた逢えると信じてる、いつかきっと・・・・・・)
「あ、すいません」
「え?」
彼女が声のする方を見たら、さっきの青年が立っていた。
「何かどうしてもお姉さんの事が気になって戻ってきちゃいました。変ですよね、今日会ったばかりなのにずっと前から知ってるような・・・・・・あ! 別にナンパじゃないですからねって何言ってんだろ、僕」
「え?(蒼汰!?)」
彼女は一瞬ドキッとした。それは蒼汰が照れるとする癖である、左手で首の後ろを掻く仕草を青年もしたからである。
「あの~、もしよかったら写真を撮らせて貰えませんか? 僕、写真家なんです」
「あ、構いませんよ」
「ありがとうございます、それじゃ僕少し離れますんで、お姉さんは星空を眺めててください」
青年はそう言うと、彼女から少し離れてカメラを構えた。
「あ、あれ何で涙が」
青年は自分から流れる謎の涙に動揺しつつも、写真を撮った。星空をバックにした星空を眺める彼女の写真を。
「ありがとうございました」
「あの~、撮った写真焼き増しして頂けませんかね?」
「あ、いいですよ。お姉さん、またここに来ますか?」
「はい」
「それじゃ、三日後に持ってきます、それじゃ」
青年は帰っていった。
「願いよ、今度こそ叶って。そして貴方に逢えますように」




