92
「鳴らすと幸せになる鐘、とか……?」
リアーヌの言葉にサージュがピクリと反応を見せる。
リアーヌは昔見たテレビ番組の記憶を頼りに、案を出していった。
「あとは恋愛運が良くなるスポットとか作って、二人の縁が結ばれて決して離れないようにって願掛けしながら鍵かけて――とか……?」
最初に少しの反応を見せたきり、なんの反応も返さなくなってしまった父に、少し不安になりながらもリアーヌは説明を続けた。
「――良さそうだな」
「本当⁉︎ やったぁ!」
ニッと笑ったサージュの言葉に、リアーヌは腕を振り上げて喜ぶ――すぐにヴァルムと目が合い、おずおずと下げられたのだが、リアーヌはニマニマと笑いながら良い案を捻り出した自分を褒め称えていた。
「それで――その恋愛運のスポットや願掛けってのは、具体的にどんなことをやるんだ?」
(――むしろそれが分からずになぜ良いと思ったのか……――ギフトの力なんだろうけどー)
「……フィーリングだけで生きるの良くないと思うよ……?」
「――だがそれで今までうまくやってきたんだぞ?」
「それはそうなんだろうけど……」
その言葉がウソ偽りのない本心だと理解しているリアーヌだったが、それでもやはり納得がいかず、ゴニョゴニョと言葉を口の中で転がすように答えを濁した。
「――なぁ。 鳴らしたら幸せになる鐘なんて、本当にあんのか?」
父親の様子から解決策が出て、話は終わったのだと認識したザームが、リアーヌが座るソファーの背もたれに、身を乗り出すようにもたれかかりながらたずねる。
リアーヌはその言葉に少しだけ唇を引き結ぶと、小さく肩をすくめながら口を開いた。
「……幸せなんて人それぞれじゃん?」「……まぁな?」
「例えば恋人と一緒に鳴らして楽しかったら幸せになれるでしょ?」
「ええー……」
リアーヌの答えにザームはガッカリしたような、どこかリアーヌを責めるような色の声を上げる。
しかしリアーヌはその声に取り合うこともなく話を続けた。
「家族で鳴らして「わー鐘鳴らしてるうちの子かわいいー!」ってなったらハッピーだしさ」
「……サギじゃん」
「ちゃんと幸せになってるんだからサギじゃありませーん。 ――大体、なんの苦労もなくタダで手に入れた幸せなんだから、そんな贅沢言わないで欲しいですな!」
フンスッと鼻息も荒く腕組みしながら、少しわざとらしい様子で言い放つリアーヌ。
ウソだ、サギだと言われてしまえば、それまでだが、観光地にあるような鐘のほとんどは、そういうカラクリで成り立っているのだと確信していた。
「――まぁ、そっか……?」
『なんの苦労もなくタダで手に入れた幸せ』という言葉が意外にもしっくりきたザームは、それもそうだな……? と頷いて見せた。
「縁結びの鍵っていうのは?」
リエンヌも疑問に思っていたことをリアーヌにたずねる。
「どこかのフェンスとか柵? どこでも良いんだけど、そこに二人で鍵――錠前をかけるの。 で、その錠前の鍵はどこかに捨てちゃう……あぁ、専用の回収場所を作ってもいいかもね。 で、鍵がない錠前はもう二度と外せないでしょ? だから二人は二度と離れられません。 っていう願掛け?」
「あらあ! 素敵じゃないっ」
リアーヌの説明に大きく反応したのはリエンヌだった。
瞳をキラキラと輝かせながら満面の笑みでリアーヌを見つめている。
「でしょー?」
リアーヌは母の言葉に、嬉しそうに鼻をツンッと高くした。
「――その鍵、近場で売ったら、たくさん売れるわよぉー!」
「確かに。 ピンクでハート型ーとかにしたら、みんな喜びそうだね?」
「まぁまぁまぁ! 売れるわっ売れるわよっ!」
ギフトを使っていたリエンヌはリアーヌの意見に、頬を紅潮させ興奮気味に言った。
「あーじゃあ、全体的にガッツリ縁結びストポットにしちゃう? ピンクとかハートとかの小物で飾り立てて、二人ギリギリ座れるようなベンチたくさん置いたりしてさ?」
「――おっそれ良いぞ!」
今度はサージュがリアーヌの意見に顔を輝かせる。
指をパチンッと鳴らしながら上機嫌で大きく頷いている。
「もー、父さんそればっか……」
そんな父に苦笑いを浮かべるリアーヌ。
「――なぁ、美味いもんは?」
ザームが後ろから顔を突き出しながらたずね、ヴァルムの咳払いによってゆっくりと背筋を伸ばした。
リアーヌはそんな弟の姿にクスクス笑いながら少し考えながら口を開いた。
「んー……じゃあ、大きめの1つの飲み物に2つのストローとか、いかにもあーんしやすそうな大きさのお菓子とか……?」
「プチシューだな⁉︎」
「いや、普通にチョコとかでもよくない?」
「じゃあチョコかかったプチシューだな⁉︎」
「……じゃあそれで。 ――案外おあつらえむきかもね、どっかの国じゃチョコレートは“愛の妙薬”って言われてるらしいし……」
「……そうなの?」
肩をすくめながらそう言ったリアーヌにゼクスの控えめな声がかかる。
「――あれ? 違いました⁇」
「――……いや? そもそもそんなの証明することは難しいからねぇ……?」
そう言いながらニヤリと、商人めいた腹黒い微笑みを浮かべるゼクス。




