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(うちの花園って、でっかい池がある、でっかい公園でしょ……? ――ぶっちゃけあそこって、春くらいしか花咲いてないんだよねー……で、その花が終わっちゃうと、花なんか一本も咲いてない殺風景な公園の出来上がり……――多分、春以外で人が来る目的って池のボートぐらいでしょ……? ――潔く春以外閉じちゃうのが一番お金かからないんじゃない……? まぁ収入もなくなるわけですけどー……)
「えっと……そもそも春以外に見るものないのが問題でしょ? だったら夏に花が咲く種類の植物を植えるとか、紅葉が綺麗な木をたくさん植えるとか……――あとは冬に雪が降ったら幻想的になるような場所を作っておくーとか⁇」
リアーヌの答えを聞いていたサージュは、顔をしかめながら首を横にふった。
「――きっとそれじゃ間に合わねぇんだ。 もっとすぐに人を呼べる案はないか?」
「すぐって……」
(――つまりは、もっと観光地っぽくするってこと……? 公園で観光地って言ったら――)
「ライトアップとか? 夜の公園に入れる日を作って、花や木、池とかもライトアップしてさ! デートとかで人気出るかも⁉︎」
ナイスなアイデアを思いついたと、前のめりになったリアーヌが軽く腰を浮かせながら少し興奮気味に言った。
しかしサージュの顔から眉間の皺が消えることは無く、やはり顔を顰めたままため息混じりに口を開いた。
「――ダメそうだ」
「えー⁉︎ なんで⁇ 絶対綺麗なのに……」
唇を尖らせながら言ったリアーヌだったが、こう言う時の父の直感に逆らうつもりもないらしく、面白くなさそうにドサリとソファーに倒れ込んだ。
そんなリアーヌを気づかうようにゼクスが視線を送った。
ゼクスの視線に気がついたリアーヌは、すぐに尖らせた唇を引き結び、慌てて背筋を伸ばすのだった。
「リアーヌが言いたいことは分かるが、嫌な予感がするからやらない方が良さそうだ」
(ライトアップで嫌な予感って……――なんで? お金がかかりすぎる……とか⁇)
「――恐れながら」
サージュの後ろに立っていたヴァルムが控えめに声を上げた。
その声にサージュやリアーヌだけではなく、ゼクスやリエンヌたちも視線。向ける。
ヴァルムには、どうしてサージュがリアーヌの案を採用しなかったのか、その理由に心当たりがあった。
そしてこの場でそれを指摘できる者が自分しかいないであろうことにも――
「当家が管理している花園は王城と隣接しております。 どちらも広大な敷地を有しているためにかなりの距離があるように見えますが、敷地だけで考えるならば隣り合わせなのです。 ――その隣り合っている施設が、夜間に不特定多数の人間の出入りを自由にした――とあっては、何が起こらずとも当家の責任を追求するやからが大勢出てきましょう……」
「あー……それは無理っぽいですね……?」
ヴァルムの言葉に口を窄めながら答えるリアーヌ。
(お城の近くにあるのは知ってたけど、あそこらへんって、お城の敷地だったんだ……鼻園から見えるお城、そこそこ遠かった気がするけど――さすがは王城、デカ過ぎワロタ)
「おそらく許可がおりないかと……」
ヴァルムはそう言いながら頭を下げると、控えめに一歩後ろに下がった。
それは、これ以上は口を挟まないと言う意思の表れで、それを理解したリアーヌたちはヴァルムから視線を外すと、軽くソファーに座り直して、再び話し合いを始めるのだった。
「うーん……あと、人を呼べそうなイベント……――あ、あの池を凍らせてスケート場とか⁉︎ 夏でも涼しいよっ!」
良い考えを思いついた! とばかりに人差し指を立てながら満面の笑みで語るリアーヌ。
しかし両親の――今度は母リエンヌの表情が特に渋く歪められている。
「あの池をギフトで凍らせるってことか?」
「そう!」
「……あの池って、あの大きな池のことよね?」
「もちろん!」
渋い表情の両親とは対照的に、ご機嫌でニコニコと笑いながら答えるリアーヌ。
ギフトの力があればどんなことでも解決できると思い込んでいる節があるようだった。
「――出来るか?」
サージュは少し首を逸らして、離れたところに座っているリエンヌに向かって質問を投げかける。
「……え、出来ないの?」
父の視線に釣られるように母を見つめながらリアーヌはポソリと呟いた。
「冬は良さそう……でも夏はダメね。 そんな大量に氷のギフト持ちを雇ったら、予算なんかすぐに使い切っちゃうわ」
リエンヌはギフトの力を使うと、フルフルと頭を振りながら答える。
「げぇー……氷のギフト持ちってそんなに高いんだ……」
そんな母の言葉に、ご令嬢らしからぬ声を上げ盛大に顔を顰めるリアーヌ。
しかしヴァルムの短い咳払いを聞くと、慌てて表情を取り繕ってヘラリ……と笑って見せた。
(結構重要な話し合いをしてる今くらい、お行儀とかちょっと大目にみてくれたっていいのに……)
恨めしげにヴァルムを盗み見るリアーヌだったが、ヴァルムがすでにリアーヌを見つめていたため、すぐさまバチリと目が合ってしまう。
そのことに動揺したリアーヌはさらにヘラヘラっと笑顔を濃くしてゆっくりと視線を外すと、「えっと……他にはなにか良い案ないかなぁー?」と、芝居がかった口調でとぼける。
(――だけど難易度高過ぎじゃない? だってそんないい案があるならみんなとっくの昔にやってるわけで……それが難しいからみんな頑張って町おこしとかやってるんでしょ? ――町おこし……? なんかテレビでそんなのやってたな……⁇ えっと……あれは確か――)




