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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「未来の義兄(おにい)様が一緒ならさらに安心ねザーム?」

「んー? あー……たくさん持って帰ってくる」


 リアーヌと話し込んでいたザームは、リエンヌからの呼びかけに適当に答える。

 そんなザームの態度に口元に指先を当てて困ったように笑うリエンヌだったが、ふと思いついたように口を開く。


「母さんお肉よりシトロネラが良いわ?」

「シトロネラって……レモン(そう)?」


 シトロネラとはスイセンの葉のような硬くて細長い葉を持つハーブで、その葉の匂いがレモンにそっくりなことから、人々に“レモン草”と呼ばれ親しまれていた。


 この屋敷に引っ越すまで住んでいた場所では、育てることもなく近くの森の中で普通に自生しているような植物だったのだが、当然ながらこの屋敷には一本たりとも生えていない。

 ――特に綺麗な花を咲かせるわけでも無いシトロネラは、ともすれば雑草と認識されることも多いようだ。


「出来れば根っこごとお願いね」

「ん。 分かった」


 どう考えても育てる気満々のリエンヌ。

 そしてそんな母の要望に、考える間も無く即答を下したザーム。

 そんな親子に、当日もザームについて回る予定のアストが絶望にも似た声色で小さく呟く。


「狩りで草……?」


「――まぁ、捉え方によっては親思いの優しい息子と言うことに……」


 リエンヌに弱いところのあるヴァルムは、その意見を通すべく、アストから視線を逸らしつモゴモゴとだいぶ無茶なフォローを口にするの。

 ヴァルムが今回もリエンヌを(たしな)めないと理解したアストは、今度こそハッキリとその顔に絶望の色を乗せた。


 ――そんな会話をしている時だった。

 一人のメイドが部屋にやってきて父の帰宅を知らせる。


 しばらくして部屋に入ってきたサージュに挨拶をしたのち、ソファーに場所を移すと、ゼクスは改めて領地行きの話をしはじめた。


(父さん港町だよ! 美味しいものたくさんだよ‼︎ お願い行かせてっ!)


 ゼクスの隣に座って父に向かって念を送りつけるリアーヌ。

 サージュはゼクスが用意してきた書類に視線を落としながら「ふむ……」と腕組みをして難しい顔をしている。

 その様子にゼクスだけではなくリアーヌまでも(これはきっと無理だな……)と考え始めた頃、サージュは腕組をやめながらリアーヌに視線を向けてゆっくりと口を開いた。


「……リアーヌ、うちが持ってる花園があるだろう?」

「――……うん……?」


 父の質問の意味が分からず、首を傾げながら曖昧に頷くリアーヌ。

 チラチラとゼクスや、父の後ろに立つヴァルムに助けを求めて視線を送るが、二人ともサージュの発言の真意を測りかねているようだった。


「あそこに人をたくさん呼んだり、金を稼ぐ方法って、なにか思い付くか?」

「……――それって今の話となんか関係あるの?」


 あまりにも噛み合わない父との会話に、リアーヌは白旗を上げるかのように、父に向かって肩をすくめながらたずねた。


「そうなんだが……――今聞いてみたくなったんだ」


 サージュはそう言いながら気まずそうにソファーにもたれかかると、そのまま申し訳なさそうな視線をゼクスに送りつつ苦笑いを浮かべた。


 サージュとしても失礼な態度だと言うことは充分に理解していたが、これまで生きてきた経験から、こう言った直感にはできうる限り従っていたため、あまり深く考えずに質問を口にしてしまっていたのだ。


「――……そっか?」


 そんな父の答えに納得したような諦めたかのような返事を返して、リアーヌは眉を下げながらゼクスを見つめる。

 そんなリアーヌにゼクスは軽く微笑むと、なんとも思っていないよ。 と言うように少し肩ををすくめて見せた。

 そんなゼクスの態度に安心したように微笑むと、少しいたずらっぽい表情になって同じように首をすくめ返すリアーヌ。

 二人は顔を見合わせクスリと小さく微笑み合い――


「――で、なんか思いつくか?」


 少し憮然とした様子のサージュの声に、揃って微妙そうな表情を浮かべながら視線を逸らした。

 そしてリアーヌは父からの質問にほんの少しだけ投げやりな態度で答えた。


「えー? ――人を呼ぶだけなら、来てくれた人全員になにか配ったらそれなりに人は集まるんじゃない?」


 リアーヌの答えにサージュは顔をしかめつつ首を横に振り「それじゃダメなんだ」と言って、詳しい説明を始めた。


「なんでも、うちの花園にくる奴らが年々減ってるだと。 つまり年々収益が少なくなってるってことだな。 そしたらそれを理由に、来年の予算を大幅に減らすか、他の家に任せよとしてるヤツらが出てきたらしくってなぁ……」

「――まぁ、大変じゃない⁉︎」


 父の説明に、リアーヌが反応するよりも早く、少し離れた場所に座っていた母リエンヌが反応した。

 目を丸めてあんぐりと口を開けて説明を求めるように手を広げながらサージュを見つめていた。


 そしてリアーヌは気が付かなかったが、使用人たちもヴァルムを中心に視線を交わし合ってその憤りを共有していた。


「そのことを教えてくれた奴が言うにはな? 早急に来場者を増やす、もしくは収益が上がれば、そんな文句を言ってるヤツらは黙るしか無いだろうってことらしいんだが……――リアーヌなにか考えつくか?」


 サージュは身振り手振りを交えて主にリエンヌに向かって説明していたのだが、やはり意見を求めるのはリアーヌだった。


「そんないきなり言われても……」


 そう言いながらリアーヌは必死に頭を回転させ始めた。

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