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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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(――うわ、あの人の腰ほっそ⁉︎ コルセットで締め上げてるんだろうけど……それでもじゃない? めっ細……――あの人の内臓の数、私よりも少なくないと説明がつかないくらい細いんですけど……――うわ、あの二人組、どっちも髪の毛とぅるっとぅるじゃん! いいなぁー……髪の色も似てるし姉妹かな? どんなお手入れしてるんだろ? 生まれつきの髪質だったら髪を呪うな。 ……この世界、美形が多い割にスキンケア系が全然なんだよね……――いや、美形が多いからこそスキンケアを怠っている説……? おいこの世界、ジミ顔がとてつもなく生きにくい世界なんだが⁉︎)


 道ゆく人を見つめながらそんなことを考えていたリアーヌ、その視界がいきなり遮られ、道ゆく人が見えなくなってしまう。

 そのことに顔を歪めながらも、少し立ち位置を変え、そして道ゆく人々を再び眺めながら、スキンケア特にヘアケアについて思い悩む。


(――この世界、シャンプーどころかリンスがないとかムリなんだよなぁ……――昔、テレビでリンスがない時はお酢がリンスの代わりになるって雑学見たことあるんだけど……あれの割合ってどの程度だったんだろう……見よう見まねでやってはいるけど……――正直、匂いのほうが気になる……ーテレビで試してたアイドルの女の子は「匂いとか全然気にならないですぅー!」って言ってたのに……――ここにきてあの番組のやらせ説が急浮上……――だけど、そもそも私の記憶が曖昧だからな……だってそん時は、リンスが無かったらヘアオイルでええやろ……とか思いながら見てたし……ぶっちゃけヘアパックしようと思った日なんかリンスやコンディショナーすっ飛ばす時だってあったし……――もっと真面目に見とくんだった……でも記憶の中の桶には結構なお酢が入ってたような……?)


 そこまで考えたリアーヌが、うーん……と唸りながら腕を組んだ時だった。


「――おーい、お嬢ちゃーんっ! 聞こえてるぅー⁉︎」


 いつのまにかリアーヌの前に立っていた男が、大声を張り上げながらリアーヌの顔の前で手をヒラヒラと振り始めた。


「ぅえっ⁉︎ あ……えっ?」


 どうやら考え事に没頭しすぎて、目の前の人物に話しかけられていたことに全く気が付かなかったようだ。


「――ようやくか……」


 そう言ったのは声をかけてきた男の隣に立っていた男性で、呆れたように苦笑いを浮かべていた。


 この男からすれば、どうして今の今まで考え事を続けられたのか疑問に思うほどに、隣に立つ友人の声はうるさかった。


「――えっと……?」


 考えごとを中断させたリアーヌは、自分に話しかけてきた人物が二人いると分かると、さらに目を大きく見開いて驚く。

 キョド……と視線を揺らしながら自分になにか用があるのか? と、少しの恐怖の乗った視線で問いかける。


「……もしかして本気で聞こえてなかったか……?」


 大声で話しかけてきた――暗い紺色の短い髪をツンツンと立てている男が、やや呆れたようにたずねた。

 リアーヌはその言葉に気まずげに視線を逸らしながらも曖昧に頷く。


「そっかぁ……」


 リアーヌの答えに大きく息をつきながらの少々大袈裟にガックリと肩を落とす短髪の男性。


 そんな男性の肩を少々乱暴に叩きつつ、やや引きつった顔でリアーヌに愛想笑いを浮かべて見せる連れの男性。

 こちらの男性は、短髪の男性よりもやや小柄で、白い髪の中に黒い髪が入り混じった――白虎のような色合いの髪が特徴的だった。


「つまりは……俺たちとどっか行かねぇか? ってお誘いだ」

「そう! 行こうぜ? もちろん俺たちが奢るしさ!」


 そう言ってニカっと笑う短髪の男性だったのだが……

 その笑顔にリアーヌの中の“なにか”が警告を発する。


(なんか……変な感じ。 これっていわゆるナンパってやつだと思ってるんだけど……違うのかな……? ――いや待って? ……普通、二人組でナンパするなら二人組に行かない⁇ だってこれじゃ確実にどっちかボッチになるよ⁇ なのに奢り? ――怪しすぎる……)


「……お腹いっぱいなんで」


 リアーヌが言ったこの言葉は誘いを断るためのものであったが――散々飲み食いし終わった後の本音でもあった。


(あれもこれも食べていいって言われて、テンションアゲアゲでお腹いっぱい食べちゃったよ! 正直、ちょっとスカートがキツイ‼︎)


「ーじゃあ紅茶の美味しい店行くか! この先にいい店があるんだよ、な?」

「ああ、あそこか。 いいんじゃないか? すぐそこだし」


 そのやりとりに、やはりリアーヌは違和感を感じ取る。

 そして、なぜか幼い頃食糧確保を兼ねて行った、川遊びのことを思い返していた。


(……なんか、川魚を罠に追い込んでる時の父さんたちみたいな顔してる……――あれ? その場合、川魚は私なのでは……⁇ ナンパだから? ……え、本当? これ本当にナンパ⁇ ――もしかしてこれ……ナンパ詐欺というやつでは……?)


 その可能性に気がついたリアーヌは、ゴクリと唾を飲み込むと、いざという時走って逃げられるように、男たちとの間に距離を取るべくジリジリとその立ち位置を微妙に変化させる。

 しかしリアーヌが動くたびに、胡散臭い笑顔を浮かべた男たちも場所を移動して、リアーヌと大通りの間に立ちはだかるように動く。


(――あ、これ決定だわ。 このままこの二人に着いて行ったら、妙な商品を買わされるか宗教の勧誘を受けるか、マルチ商法に勧誘されるかのどれかだ。 ……もしかしたらこの世界特有の詐欺があるのかもしれないけど、これ絶対に普通のナンパじゃない)


「……あの、確認なんですけども」


 リアーヌはとりあえず時間を稼ぐことを目標に、あわよくば騒ぎになって警邏隊(けいらたい)がやってきてくれることを期待して、少し声を張って男たちに話かけた。


「おう!」

「……相手は私では合ってます?」


 首を傾げながら言ったリアーヌに、短髪の男も首を傾げながら答える。


「……そりゃ声かけてっからな……?」

「……その、自分で言うのも悲しいんですけど――もっと可愛い人やスタイル抜群の人が他にたくさん……」


 居ますけど……と通りに視線を流すリアーヌ。

 その視線に釣られるように振り返った二人の男は、通りを楽しそうに往来する華やかで愛らしい女性たちの姿をしっかりと確認することになる。

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