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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「しかし……本当にそこまで自分の家のことに鈍感でいられるものか? ……この間もあの家が買い取った採石場から、金が出土したとかなりの話題になっていたはずだが……」

「――実際はそれほどでもなかった……という可能性が……?」


 フィリップの言葉にパトリックは(だとすれば、子爵夫妻が娘であるリアーヌの耳に入れない場合もあるのだろうか……?)と、わずかな可能性を口にする。


「出土量がどの程度なのか、知るのは簡単ではないが……陛下へと献上された金塊の量は決して少なくはなかった……あれを差し出してなお――となるとな」

「……さすがに全て差し出したとは考えにくいですね?」


 フィリップとパトリックはそう話しながらチラリとラルフたちに視線を送る。

 そうしないといつまで経っても会話に入ってこない友人たちに水を向けたのだ。


「……ウワサでは、先代子爵夫人も大量の金塊を持って諸外国を回り豪遊三昧とか?」

「ああ……そんな新聞が出回っていたな?」


 ラルフの言葉を肯定するようにイザークは大きく頷く。


 毎日家に運ばれてくるようなお堅い新聞ではなく、街中で小銭一枚で売っているようなゴシップ満載の新聞ではあったが全てがデマというわけではなく、貴族との関わりがほとんどないと言っても過言ではない記者たちが書いた――いわゆる二流三流と呼ばれるゴシップ新聞。

 なんのしがらみも忖度もない、そんなゴシップ紙のほうが、貴族のウワサ話やあれこれを、誰に配慮することも邪魔されることもなく赤裸々に綴っていた。


「なるほど……? ――まぁ……金塊を持っておらずとも、ベアトリアス花園の運営費だけでもかなり優雅な旅になるだろうがな」


 フィリップは苦々しそうに言って肩をすくめる。

 口にすればするほど、リアーヌをラッフィナートに取られてしまったことが悔やまれた。

 そこにリアーヌ自身のギフトも加味すれば、ここで簡単に引けないほどには魅力があり過ぎた。


「そう考えますと、やはりこの縁組は――最悪の一手でしたね……」


 そう言いながらパトリックは面白くなさそうに顔をしかめる。

 フィリップ側にとって“最悪”ということは、ラッフィナート側にとって“最高”だということだ。

 考えれば考えるほど、今のラッフィナート商会にとって、リアーヌ以上の婚約者はいないように思えた。


(――あくまでも条件的には、ですが……)


 心の中でそう付け加えながら、自分の中の淑女像とはだいぶかけ離れたリアーヌを思い返し、パトリックは苦笑いを浮かべる。


「金を吐き出させたい家が金を産みだし続ける家と、ですか……」


 イザークがそう言いながらヤレヤレ……と言いたげに首を振る。


「――しかもラッフィナートのほうは、まだ男爵です……」


 ラルフもそう言いながら顔をしかめる。


「――あの関係にどうにか(くさび)を打ち込みたい……」


 フィリップはそう言いながら意味ありげにパトリックを見つめた。


「しかし……ラッフィナート男爵家の婚約は陛下の許しを得た正式な契約です。 ボスハウト家にも手出しできるかどうか……」


 パトリックはフィリップが自分にゼクスとリアーヌの婚約をどうにかさせようとしているのだと勘違いをして、じっとりとイヤな汗をかきながら困ったように言葉を重ねていく。


「手はあるんだ。 あの二人が婚約しようと結婚しようと、我々がほんの少しでも影響力を持っていたいだけだ。 ラッフィナートを通さずに手を借りられば上々――そんな状況への道筋が欲しいだけなんだ。 もちろん君がイヤならばこの話は無かったことにしてもらって構わない」

「道筋、ですか……」


 はっきりとした願いを口にしないフィリップに、パトリックはその心の中で大いに慌てしつつ、必死に頭を回転させながらパトリックは心の中で(こんな時に試すのはやめてほしい……!)と毒づく。

 フィリップはたまにパトリックたちを試すような物言いをして遊ぶクセがある。


 例えここで答えが分からずとも、例え見当違いなことを言ったとしても、その関係性に大きな変化は起こらなかったが――しかし必ず、小さな変化は起こる。

 そしてそれが積み重なってしまえば……

 ――実際、答えに窮してばかりいた者たちはいつのまにかフィリップの側から居なくなっていた。


(――今更そんな恐ろしいこと考えたくもないっ! 考えろ‼︎ 道筋……楔……――重要なのはリアーヌ嬢との繋がりだ。 それもラッフィナートを通さずともリアーヌに直接働きかけられるような影響力……――)


 そこまで考えてパトリックは困ったように少し唇を引き結ぶ。

 現状で、そんな影響力を持っているであろう人物に行きつき――そしてその人物だった場合、ここで即答するわけにはいかない打診であると理解してしまったからだった。


「私はもうムリ(・・)でね……――パトリックが手を貸してくれるならば、と思ったんだが……」


 その表情の変化から、フィリップはパトリックが正しく自分の願いを汲み取ったことを理解した。

 そして満足そうに微笑みながら「ご両親に聞いてみて欲しい」と続けた。


「――かしこまりました」


 パトリックはそう礼を取りながら覚悟を決めていた。

 時期尚早という言葉が頭の中にチラつくのは拭えないが、それでもパラディールにとって多少の影響力を持てるこの申し出は、なんとも魅力的な賭けだった。

 そしてそれは両親も同じように感じると思えた。

 

 そして――パトリックが早々に覚悟を決めた理由に、その人物が幼い頃より聡明であったこと、そして……美しいと好ましく思っていたこともあった――

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