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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 そんなやりとりにゼクスはすぐさま反応する。


「いやいや、それではこちらも筋が通せません。 ギフトの中でも攻撃魔法系のギフトは大変に人気の高いもの……それをコピーしておいて礼もしなかったとあっては、我が家の恥となりましょう……――どうかご理解を」


 そう言いながらにこやかに頭を下げるゼクス。


 金で解決できるのであれば儲けものだと理解しているゼクスはここで多少ゴリ押したとしても、受け取らせてしまえばこちらのものだと考えていた。

 ――そしてそれはフィリップとしても理解していて、リアーヌをまだ諦めていないフィリップは、とりあえずの対策として礼金を受け取らない、という選択肢を選びたいようだった。


「――大丈夫になりそうですか……?」


 ラルフとゼクス――引いてはフィリップとゼクスが互いに牽制し合い、誰も言葉を発しなくなったタイミングで、会話が終了したのか? と判断したリアーヌが、ゼクスの背中に向かって小声で確認する。


「……うん、絶対大丈夫にするから。 ……ちゃんと信用して?」

「うぃ……」


 リアーヌの声に、すっかり毒気を抜かれたような表情を浮かべたゼクスは、こっそりと振り返ってリアーヌと同じように小声で返すが、静かなこの部屋ではその会話の全てが筒抜けだった――


(――ゼクスがここまで自信を持って請け負ってくれるってことは大丈夫ってことなのかな? ーつまり私ってば借金まみれ生活を回避できたってこと……だよね? ……それにしてもやっぱりギフトって貴重なものって扱いなんだなー。 ――ヴァルムさんがコピーするの断ってくれて良かったよ……多分うちじゃまともな礼金とか出せなくて、ヴァルムさんがガッカリしちゃうところだった……)


 そんな事を考えながら、ホッとしたように大きく息を吐くリアーヌ。

 

「――……ちょっとあいつと話あるからリアーヌここで待っててくれる?」


 背中から聞こえてきた場違いな安堵のため息に、再びリアーヌを振り返ったゼクスはそういうと、フィリップに視線を向けながら少し腰を浮かせた。


 金で解決できるという可能性の裏側にはリアーヌのぶっ飛んだ発言からの予測不能なリスクが潜んでいるのだと正しく認識したゼクスは、そのリスクを嫌い元々の予定通りフィリップとの舌戦を繰り広げる決意を固めたようだった。


「……知らないうちに借金とか……」

「うん、絶対しないから。 ちょっと待ってて?」


 疑いの眼差しを向けてくるリアーヌに有無を言わせない笑顔を向けるゼクス。


「……はぁい」


 その言葉に不本意そうに唇を尖らせたリアーヌだったが、何故だかメイドたちから続々と差し出されるお茶会用の可愛らしい小さめなお菓子の数々に瞳を輝かせながら、ご機嫌でゼクスたちの話し合いが終わるのを待つ。


(この大きさなら一口で食べても問題無い……! 私も食べられる……!)




 時たま耳に入ってくる会話があまりにも不穏すぎて(言葉のキャッチボールというよりもドッチボール……)などと考えつつ、パラディール家のお菓子を堪能するリアーヌ。


(――あ、このチョコめっちゃ美味しい。 お土産にくれたりしないかな……)


 そんなことを考えつつ、ふと自分の周りをチラリと見つめる。

 この部屋で一番大きなテーブルとソファーに案内されたはずだが、現在そこにはリアーヌしか座っておらず、パラディール家のメイドたちが2、3人脇や後ろに控えつつリアーヌの世話を焼いてくれている状態だった。


(あれ? 他の3人――あ、あっち行ったんだ。 ……もはや友達っていうか侍従)


 リアーヌの視線の先には、ここよりも少しコンパクトなソファーセットに向かい合って座るフィリップとゼクス、かろうじてパトリックがフィリップが端のほうに座っているが、イザークとラルフに関してはまさに侍従のようにフィリップの後ろに立っている。


(ケジメつけるの多分私だから、私が蚊帳の外なの意味分かんないけど……――待ってろって言われたんだから待ってていい――んだよね?)


 そう考えたリアーヌがお菓子に手を伸ばすと、メイドがすかさずお菓子の説明やお茶の説明を始め、リアーヌをドギマギさせる。


 ――メイドたちもリアーヌが話し合いに加わらないよう妨害しているので、リアーヌの判断は正しいようだ。




(――この調子じゃ、今日はケジメとか付けられないんじゃない……?)


 フィリップたちの話し合いは長引き、リアーヌのお腹がお菓子とお茶で満たされてしばらく立っても終わる気配が無さそうだった。


 本来ならば同席が許されないメイドたちに席を進め、おしゃべりを楽しんでしまうほどには手持ち無沙汰だったリアーヌだが、日が暮れ始め、メイドたちが部屋の明かりをつけたりカーテンを閉めたりと仕事に取り掛かかったタイミングで、ゼクスたちは(おもむ)ろに立ち上がった。


 それを確認してシュッと背筋を伸ばすリアーヌ、そして髪や制服を素早く直してくれるメイドたち。

 それに小さく礼を返しながらもゼクスたちの行動を観察する。


 立ち上がったゼクスたちはお互い素晴らしく不機嫌な表情を浮かべたまま、ほんの一瞬触れ合う程度の握手を交わし、さっさと手を離すとお互いににこやかな笑顔を浮かべ合う。


 ――そしてそのまま話し合いは終了したようだった。

 白々しいほどの笑顔を浮かべ合い、別れの挨拶を交わし合うと、そのまま視線を合わせることもなく、ゼクスはリアーヌをエスコートしながらサロンを出て行く――


 話し合いがどうなったのか、ケジメはつけられたのか、何も分からないリアーヌだったが、帰りの馬車の中で、金銭ではないがラルフにはちゃんとお礼のを受け取ってもらえたのだという説明をされ、ホッと息もとらしたのだった。


(――あ、家に帰ったら本当に私の借金になってないかどうか、ちゃんとヴァルムさんにも確認して貰お。 ――まだ働いてもいないのに、借金抱えるとかイヤすぎる……)

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