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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「その……卒業したら、ってお話なんですけども……」


 モゴモゴと口の中で言葉を転がすようにしゃべるリアーヌに、ビアンカはため息混じりに相槌を打って話の続きを促す。


「そうしますと、ラッフィナート商会と繋がりができる……的な?」

「――契約の話よね?」


 すでに知っている情報を言いにくそうに伝えてられたビアンカは怪訝そうな顔つきでリアーヌに疑問を投げかけた。

 その質問にリアーヌはすぐに答えることができず、言葉を詰まらせる。

 そんなリアーヌの態度に眉を跳ね上げたビアンカは、再び鋭い視線をリアーヌに向けながら口を開いた。


「さっさと話しなさい?」


 そう言われたリアーヌはビクリと肩を震わせたが、いつものように脊髄反射のような返事をすることは無く、覚悟を決めたような真剣な瞳をビアンカに向けていた。


「……放課後時間もらえる? ちゃんとゆっくり話したい」


(とりあえず、どうして黙っていようと思ったのか? ってトコだけは、なにがなんでも細かく詳しく説明しないと……!)


「……分かったわ」


 いつに無く真剣な様子のリアーヌに、ビアンカはなにか事情があったのだろうと、大体のことを察し――多少の不本意さを滲ませつつではあったが肩をすくめながら同意した。

 ――そんなビアンカの反応に「ええー⁉︎」と、面白くなさそうな声を上げるゼクス。

 冗談めかした言いかただったが、そこにはハッキリとした不満が含まれていた。

 それに二人が反応を返す間も無く、ゼクスの言葉は続けられた――


「『婚約しましたー』って一言で済む話だと思うけどぉー」


 いたずらを披露する子供のようにニヤリと歪めた口元を、その大きな手で覆い隠しながらゼクスは言った。


「――えっ?」

「……ちょっ⁉︎」


 ポカンとした表情で、リアーヌとゼクスの顔をゆっくりと交互に見つめるビアンカに、信じられないものを見るような顔つきでゼクスを見つめ続けるリアーヌ。

 ――そこに顔の半分を手で覆いニヨニヨと笑っているゼクスも加わり、なかなかにカオスな集団が出来上がっていた。


「――あ、もしかして自分で言いたかった?」


 ゼクスが手で口元を押さえながら続けた言葉にリアーヌの頬がヒクリと引きつる。


(言いたいとか言いたくないとかじゃ無く、それは絶対私が説明しなきゃいけなかったヤツでしょうがーっ! え、なに考えてんの⁉︎ まさかイケメンだからってなに言っても許されるとか思ってらっしゃいますっ⁉︎ ー割と思ってそうだな……これまでの人生この顔面でかなり優遇されてきてるだろうし……)




「……リアーヌ――怒ったのかい……?」


 無言でなにも答えを返さないリアーヌの反応を窺うように言ったゼクスは、不安そうな顔つきでリアーヌに近づいた。

 そして小さな声で「その……ごめんよ……?」と言いながら、身をかがめてリアーヌの顔を覗き込んだ。


(ひえっ……顔が近い……! まつ毛長っ⁉︎)


「――リアーヌ……?」


 再度呼びかけられ、飛ばしかけた意識を取り戻したリアーヌは、目の前にあるゼクスの顔面から逃れるように後ろにのけぞると、早口で捲し立てるように「あの大丈夫です。 本当大丈夫なんで! 本当にっ……!」と答えた。

 いまだに混乱している心の中では(なんかいい匂いがする⁉︎)と叫びながら。


「――そう?」


 リアーヌに近付けた顔はそのままに少しだけ首を傾げてたずねるゼクス。


「はい……っ!」


 目の前から顔をどかさないゼクスから距離を取ろうとのけぞり続けているリアーヌは、そのままの大勢でコクコクと何度も頷いた。

 その答えに少しつまらなそうな表情を浮かべたゼクスは「ふーん……」と呟きながら体勢を元に戻した。

 リアーヌもホッと息をつきながら体勢を戻すと、隣で置いてけぼりになっているビアンカに気まずそうに視線を向けポソリと呟いた。


「その……まあそういうことなんだ……?」

「――おめでとう……で、いいのかしら?」

「……多分?」

「なら、おめでとう?」

「アリガトウ……?」


 お互いに首を傾げ合いながら、答えを探り合い、微妙な顔つきで祝福するビアンカと受けるリアーヌ。

 そんな二人――リアーヌに面白くなさそうな視線を向けたゼクスは、また少し微笑むと再びリアーヌに顔を近づける。


「え、俺との婚約ってそんな微妙な感じなのぉー?」

「い、ぃぃぃいいえ⁉︎」


 再びのけぞりながら答えるリアーヌ。


(だから近いんだってば! なんなの⁉︎ 一体どんなキャンペーンが始まったら、ゼクスの距離感がこんなにもガバガバになるの⁉︎ え、課金した⁉︎ 私ってばいつのまに課金してたの⁉︎ そんなシステムあった⁉︎)


 リアーヌの声にならない叫びは誰の耳にも届かず、また仮に届いていたとしても、その質問の意味を理解できる人物はこの世界には誰一人として存在しなかった。

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