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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「や、ごめ……ふふっ――んんっ あー……でも弟君はその辺りのことは気にしなさそうな方に見えたよ?」


 リアーヌの表情に必死で笑いを堪え、ゼクスはすぐにそう言い繕ったが……言い終わった瞬間、自分の唇が歪んでしまうことは堪えきれなかった。

 その歪んだゼクスの口元に、さらに目を細めたリアーヌだったが、それを指摘していると話が全然進まないと、こちらも大きく息を吐いて気持ちを切り替える。

 そして小さく肩をすくめながら答えた。


「――幸い、私たちには友達ではなくても、かまってくれる人には恵まれていましたし……――ザームのことだから、言われなきゃ気がつかない可能性が非常に高いんだろうな、と……」

「あー……」


 リアーヌの言葉に大いに納得してしまったゼクスだったが、あまり大袈裟に同意をするのも角が立ってしまうと判断して、短い言葉で同意するに留めた。

 そして、頭の中でリアーヌの言葉を咀嚼するように繰り返した。


『――幸い、私たちには友達ではなくても、かまってくれる人には恵まれていましたし……』


「――うん。 ……きっとオレも恵まれてたんだろうなぁ……ハハッ だよなぁ……?」


 そして納得するように何度も大きく頷きながら、ヘラリ……とその相貌を崩した。


「――いや、今は弟の話をしていますけど……?」


 急に自分の話をし始めたゼクスに対して、リアーヌは怪訝そうな表情を向けながらも、そこに少し呆れを滲ませた。

 その言葉にゼクスは「ぶっはっ!」と咽せるように噴き出すと、そのままテーブルに肘をつき、顔を隠すように頭を抱えるとフルフルと肩を震わせ始める。


 クツクツと笑い続けるゼクスだったが、内心では信じられないほど驚いていた。

 ずっと触れないようにしてきた長年のコンプレックスが、こんなくだらない会話で、自分の中から一切のしこりを残らず、完全に消え去ってしまうなんて思ってもいなかったのだ。


(――悩みを悩みとも思わない人もいる――話じゃ聞いてたけど……それって心構えの問題で、ガチで悩むそぶりすら見せないヤツが存在するとは思わなかったなー……)



 リアーヌの表情に乗ったほんの少しの呆れが、怒りに変わり始めたところで、ようやくゼクスの笑いの虫がおさまった。

 ゼクスはハァ……と大きく息をつきながら、笑いによって滲んだ涙を拭う。


「……ごめんごめん。 弟君の話だよね? ――いや、あの彼だったら、学院に通い始めた途端に友達の10人20人ぐらい簡単に作っちゃいそうだなーって思ったらおかしくなっちゃってさー」


 解消されたとはいえ、さすがについさっきまで抱えていたコンプレックスについて説明する気はないらしく、ゼクスはヘラリ……と笑いながら適当な言葉を口にする。

 そしてリアーヌに向かって申し訳なさそうに眉を下げ、両手を擦り合わせて見せた。


 そんなゼクスの言葉を聞いたリアーヌは、ザームの学園生活を想像して、むぅ……と顔を曇らせる。


「……リアーヌ嬢?」


 急に大人しくなってしまったリアーヌを不思議に思ったゼクスはそう声をかけながらリアーヌの顔を覗き込む。

 ゼクスと視線があったリアーヌは少し言いにくそうに視線を逸らすと、唇を尖らせながらボソリと、呟いた。


「――いきなりそんなに作られると、負けた気になってしまうので……ちょっと……」


 そう言ったリアーヌの顔つきがあまりにも子供染みていたこと、そしてつい先程までは弟に友人が出来るのかどうかを親身になって心配していた姿とのギャップに、ゼクスは再びテーブルに肘をつき身体を震わせることになった――


 そんなゼクスの態度が面白いわけもなく、リアーヌはキュッと口をすぼめて顔中で不機嫌さを表現していた。


 やがて身体の震えが治まってきたゼクスはリアーヌの態度に慌てて、追加のスイーツや、家族への土産としてチョコレートの詰め合わせの注文をしてリアーヌのご機嫌を伺った。

 そんなゼクスに(なんて太っ腹! そっか……金持ちとのデートって二度美味しいんだ……)と輝く瞳を向けるリアーヌ。


 ――好きなもので釣って、婚約者との仲を深めようとしたゼクスの作戦は、見事に功を奏したようだった。




 帰り道の馬車の中。

 甘いものでお腹を満たし、隣の席には沢山のチョコレートが詰められた美しい木箱を眺めては、ホックホクの笑顔を浮かべているリアーヌ。

 よほど満足しているらしく、ゼクスからの「婚約者になったんだし“リアーヌ”って呼び捨てでもいいかな?」という提案に、あっさり「いいですよー」と、返してしまうほどには大満足な初デートだったようだ。



 その日の夜。

 リアーヌは自分の部屋でベッドの中でデート中に食べたフォンダンショコラの素晴らしさに思いを馳せていた。

 そして、ふと思い出す。


「――あれ? ゼクスの子供の頃の友達の話って、イベント会話だったような……?」


 そう呟いたリアーヌは必死に頭を回転させて、記憶の中にある情報をかき集め始めた。


(多分、最初の好感度アップで出現するイベントだったハズ……? ――正直最初のほうのデートなんて糖度激低だから回収できるスチル以外あんま覚えてないけど…… どの選択肢を選べはいいのか? だけは多分覚えてるけど――ただ、チョコレート店でデート中に発生するイベントなんか無かったような……? いやでも子供の頃の話は……――えっ? ってことはつまり……)


「――私ってばイベント発生させちゃった……?」

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