65
誤字報告ありがとうございます!
「――子供なんて、みんな残酷なほどに素直だろ? ……だから早々に『じゃあアイツは俺たちの仲間じゃねえ』ってなって……俺だけお客さま扱い? ――もしくは接待かな⁇」
「それは、つまらなそうですね……」
「ーーうん。 つまんなかったなぁ……だからなのかな……? 俺どうしても本当の友達ってのが欲しくてさ、「もう学校に通う!」ってゴネにゴネて無理やり中等部から学校通ったんだよ」
「――レーシェンド学院の?」
「そう。 お貴族様かつ裕福な家の子たちばかりの魔窟だってウワサの“あの中等部”ですよ」
リアーヌはゼクスが暗黒の学園生活を送ったという話を少しだけ知っていた。
――と言っても誰かに説明されたわけでもなく、ただ情報の中の一つとして読んだことがあった。
ゲームの中でほんの少しだけ、ゼクスの過去の話が語られるのだ。
……ゼクスの痛ましい過去の記憶として。
「――マジでさ……子供なんて、残酷なほどに素直で……貴族ばっかりの教室に、平民なんて俺だけでさ……いやー嫌われたよー。 俺、友達作りに学校通ってたのに、クラスメイトに直接言われたんだよ? 『お前は平民だから仲間じゃない』ってさぁ……」
「うわぁ……」
「ははっ本当、うわぁだよねー……――中等部は一年でも護衛は付けて良かったから、そいつら以外でまともに喋ったのなんか、教師ぐらいだったよ……」
(――そうだ……それでそのクラスにフィリップもいて――まぁ特に意地悪とかはしないけど、助けることもしない――いわゆる傍観者って立場で……――だからこそゼクスはフィリップが嫌いなんだよねー……「どんなに綺麗事並べたって、お前は自分のためにしか動かないんだろ?」って絶対に信用しない――まぁ、フィリップの性格に関してはその通りなんですけどー)
そこまで考えたリアーヌはゼクスが先程言った言葉に引っ掛かりを覚え、これまでの自分の人生を思い返していた。
(――待って……? 護衛くらいしかまともに喋ってない少年時代……?? ……あれあれ? 本当待って? ……私ってさ、子供の頃は家の手伝いやら、お小遣い稼ぎに出かけてて……そりゃ挨拶するくらいはする近所の子達はいたけど……――そこから父さんたちとあのお屋敷で暮らすようになって――……遊んでくれたのは少し年の離れた庭師見習いのお兄さんで……――きっと友達の枠には入れてないから……――なるほど? ……ザームがずっと側にいたから気がつかなかったけど……ビアンカってば私の初めてにして唯一の友達なんじゃない⁉︎)
「――リアーヌ嬢? なんだかおかしな顔つきになってるけど……⁇」
黙りこくったまま、眉間にシワを寄せギョロリギョロリと右に左に大きく視線を揺らしながら、これまでの人生を振り返っていたリアーヌ。
そんな彼女に対し、心配そうにそっと声をかけるゼクス。
「あ、いえ……あの……――ちょっと今、衝撃的な事実が判明してしまったもので……」
「衝撃的な……?」
「――私もビアンカと出会うまで友達ゼロでした……」
「――え……?」
リアーヌの衝撃的な事実の告白に、ゼクスは困惑しきった声をあげるのだった。
「……いやいやいや! だってリアーヌ嬢、ずっと街には出てたんだろ⁉︎」
「……はい。 バイトとお手伝いの日々でした」
「――よく働くいい子だねー……?」
思っていたよりもハードなリアーヌの日常に、ゼクスは言おうとしていた言葉を飲み込んで、リアーヌの当時の頑張りを褒め称えた。
「――けどボスハウト家に入られたら暮らしは好転したわけだろう……?」
「確かに自由になる時間は増えたんですけど……なにぶんお屋敷の中で暮らしてたので同年代と言えるのはザームのみでした……――ちなみに、たまに庭師見習いのお兄さんが遊んでくれたんですけど……友達のくくりに入ると思います?」
「――個人的な意見だけど……入らないかも……?」
「となると、やっぱり私の友達ってビアンカだけってことになりますね……」
「なっちゃうのかぁ……」
笑いを堪えているような、眉をしかめるのを我慢しているような、なんとも言えない顔つきでそう言うと、ガシガシと首や後頭部辺りを乱暴に掻きむしるゼクス。
なにやら小声でブツブツと呟いていた。
「マジかよ……オレ結構本気で気にしてて……こんなあっけらかんと……」
そんなゼクスを見つめながら、リアーヌはふと、さらに恐ろしい事実に辿り着いてしまった。
「――ゼクス様どうしましょう……?」
「……どうしたの?」
「さらに重大な事実が判明してしまいました」
「さらに⁉︎」
「――まだ学校に通っていないザームは友達がゼロです……」
「――わぁーお……」
あんぐりと口を開けながら、かろうじての相槌を打つゼクス。
「……あの子にもちゃんと友達が作れるでしょうか……?」
しょんぼり……と眉と肩を大きく下げながら不安げに紡がれたその言葉に、ゼクスは(弟思いなのだな……)と、ほんわかすると同時に、今まで友達がゼロだった姉が、たった一人友達を得たことにより、いまだにゼロの弟を心配している、という目の前の状況がなんとも滑稽に思えてきてしまった。
リアーヌは本気で弟を心配しているのだから、ここで笑うなど不適切だとゼクスだって理解はしている。
――してはいたが、そう思い笑いを堪えようとすればするほど腹の奥から堪えきれない笑いが迫り上がって来ていた。
「あー、ふっ……んんっ! きっと出来るさ! ふふふ……んんんっ」
本人は真面目な顔を取り繕っているつもりでいるようだが、明らかに笑い混じりの言葉にリアーヌの眉がクイっと跳ね上がる。
そしてジトッとした湿っぽい眼差しをゼクスに向け、不満そうに唇を突き出す。
「……わりと笑い話じゃないんですけど……」
ボソリ……とそう言われて、その時のリアーヌの少々残念な顔つきにとどめを刺されたゼクスは、盛大に吹き出し、フルフルと肩を揺らし始めた。
言外に「笑うな」と言ったつもりのリアーヌだったが、その言葉がトリガーになって笑いを始めたゼクスに目を見開いて驚く。
しかし時間が経つにつれ、その目は再び湿り気を帯びて唇も再び尖り始めた――
皆様のおかげでこの作品もランキングの100位以内に入れてもらうことが出来ました!
嬉しい☺️
ありがとうございます!




