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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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(しかもゼクスは男爵でありつつ、ラッフィナート商会の後継者、それに加えて私は、ゼクスと結婚したら男爵家の奥方って肩書きになる上、それより以前は平民として暮らしていたって知られちゃってるから……下手にゼクスを批判するより、私をワガママ娘! とか批判してた方がずっと安全そう……)


「えっと……リアーヌの要望を断る気なんて無いんだけど……――正直なこと言っちゃうと、うち――ラッフィナート商会が開くパーティーには出席してほしいと思ってる。 もちろん平民の商家が開くものだから、マナーなんてそこそこで大丈夫だと思ってるんだけど……」

「……本当にそこそこでも……?」


 ゼクスの本心を探るように、その言葉に顔をジッと見つめるリアーヌ。

 この婚姻話で、唯一前向きに考えられる要素が、このお茶会に出なくてもいいという条件だけだったためだ。


「……――たまーに貴族も参加するから……その人たちに眉を顰められない程度なら……?」

「一気にハードルが上がりましたけど⁉︎」

「いや、このまま無事に教養学科卒業って肩書きが貰えるなら、全然問題ないから! 俺も出来るだけフォロー入れるし!」


 そのゼクスの言葉にビキリとリアーヌの動きが固まる。

 そしてギギギ……とぎこちない動きでゼクスから視線をはずすと、一言「出来たら良いですよね……?」と弱々しい声声で答えた。


「――お嬢様?」


 そんなリアーヌにゼクスが声をかけるより先に、リアーヌのすぐ隣まで移動していたヴァルムが、少々圧のある言葉でリアーヌを呼んだ。

 その声にビクリと肩を揺らすと、ぎこちない動きにぎこちない笑顔を貼り付けた。


「が……頑張りまぁーす」


(誰にも話してないはずなのに、いつのまにかヴァルムさんやメイドさんたちが私の“マナー試験必勝法”を知ってたのなんでなんだろう……? やっぱり先生がチクったんだろうか……⁇ 先生の癖に家族に言いつけるとか……)


「――うん。 無事に卒業できるなら大丈夫だ」


 そんなやりとりを静かに見つめていた父サージュが、納得したように何度も大きく頷きながらそう言った。


「それはパーティーに出ないって話ね?」

「ああ。 今、問題が無くなったんだから、リアーヌが無事に卒業すりゃ、どうとでもなるんだろ」

「――出なくても問題無くなった……? いいえ違うわね、卒業したんだから参加するようになるわけね……――あらやだ、リアーヌ貴女今のままだったら無事に卒業出来てなかったのね?」


 リエンヌは口元を押さえて軽く目を見張ると、呆れた視線をにリアーヌに向ける。


(――隣からの無言の圧力がやべぇことになってるから、そうゆう不用意な発言は本当に控えていただきたい……)


「――そんなわけないし。 私にはビアンカ大先生という心強い味方がついてるし」

「……だからじゃないかな? そろそろ実力で頑張ろっか⁇」


 やんわりとかけられたゼクスからの言葉に、リアーヌはグゥの音も出せずに、顔を顰めたまま唇を噛みしめ、隣からの圧に怯えながら俯くのだった。



「それじゃ次ね。 実家に帰りたい放題――これはどう?」

「んー……」


 リエンヌがたずねると、サージュは腕組みをしながら難しい顔をして唸り始めた。


「――でもさぁ……それって愛人作るってことなんだろ?」


 ザームが面白くなさそうに唇を尖らせながら両親にたずねた。

 そしてその質問に両親が何かを言うよりも早くゼクスが口を開く。


「うん。 とんでもない誤解だよ? どれだけ実家に帰ったってリアーヌ嬢がちゃんと奥さんしてくれるなら、そんな面倒なもの作りませんからね⁇」


 その答えを聞いたザーム、そして両親は、そっくりの仕草でヴァルムを見つめた。


「――偽りは感じられませんでした」


 コホン……と一つ咳払いをした後で、不本意そうに答えるヴァルム。

 そんな執事の物言いに、今度はゼクスが不本意そうに眉を跳ね上げる。


「――ですが、タガの外れた若い男など手玉に取るのは簡単だと思われますがね……」

「――ボスハウト家の執事ともあろうお方が、ずいぶんと下世話な話をなさる……」


 リアーヌをそう簡単に嫁になど出したくないヴァルムは、その苛立ちのままにフンッと大きく鼻を鳴らした。


 今の会話を分かりやすく変換するならば、

『今どう思っていようとも、女慣れしていない男など、誘われるがままに手を出すものだろう?』

『長いこと貴族に仕えてたって、そんな下品なこと言っちゃうんですねー?』

 ――あたりだろうか。


「ー今のはなんて?」


 二人の会話を聞いて、不可解そうに首を傾げながら姉に質問する弟。

  たずねられたリアーヌは困ったように眉を下げつつ、必死に頭を回転させる。

 貴族特有の言い回しは、小難しいものが多く、解読に時間がかかってしまうリアーヌだったのだが、今だけは口が裂けても「分からない」とは決して言えなかった。

 ――どんな姉であろうとも、弟には良い格好をしたいものなのだ。


「えー……? 若い男など手玉に取ってみせましょう……?」


 突然紡がれた暴論にヴァルムだけではなくゼクスや両親もその動きを止め、ぎこちない動きでリアーヌを見つめる。


「――えっヴァルムさんが?」

「……えっ⁉︎ ヴァルムさんがっ⁉︎」


 その言葉に驚いたザームに聞き返され、ようやく自分がなんと言ったのが自覚したリアーヌはザームよりも驚いていた。


「若い男を手玉に取る方々は沢山いるという話でございます!」


 いつの間にか不名誉な疑惑を持たれていたヴァルムは、姉弟に向かい始めて感情的に声を荒げた。


「――ああ、酒場の姉ちゃんらみてぇなのか……」

「なるほど?」


 ヴァルムの言葉に「ああー……」と納得し合う姉弟。

 そしてチラリ……と互いに視線を送り合うと、スッと顔を近づけさせて小声で軽口を叩き合う。


「――流石のヴァルムさんだってムリじゃんな?」

「……ヴァルムさんでも出来ないことがこの世にあるんだね?」

「そだな⁇」


 そこまで言い合うと互いにニヨニヨと唇を震わせ、二人同時に、ぷふっ……と吹き出した。

 そして口元を手で覆い隠し、クツクツと肩を震わせながら笑い合う。


「あんまりでございます……」


 スクスクと笑い合う姉弟に、ヴァルムの情けないような恨めしそうな声がかかる。


「あ、ち違くて……!」

「お、俺は信じてないよ⁉︎」

「私だって単なる冗談で!」


 二人の言葉にゆっくりと首を振ったヴァルムはそのまま大きなため息をつく。

 そして壁際に控えていた部下たちに視線を送ると、


「――……コレット、アスト早急に授業に組み込むように」


 と、言い放った。


 コレットたちの短い返事を聞きながら、姉弟は絶望に顔を染めながらお互いの顔を見つめ合う。


(ヴァルムさん、あんまりです……)

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