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「では次は、今日回れなかったお店を中心に見てまわりましょうね!」
「次回も可愛らしいお店の中で休憩したいですわ!」
「ああ、あの時間は楽しかったですわね⁉︎ お茶会に似ているのに全然違って!」
「次回が楽しみですわぁ」
「それではまた明日」
「ご機嫌よう」
ご機嫌に立ち去っていく友人たちに手を振りながら見送り、店内にはビアンカたちとリアーヌたちだけになった。
最後の友人が外に出てドアが閉まった瞬間、リアーヌは大きく深いため息をつきながら、ブツブツと文句をこぼし始めた。
「――マジ、アイツ余計なことしかしやがらねぇ……次ってなんだよ……? もはや私に対する嫌がらせなんじゃないか……?」
「……相変わらず責めた発言するねぇ?」
ゼクスは困ったようにパトリックを見つめながら肩をすくめる。
その様子でフィリップを通し、レオンに伝わる可能性を理解したリアーヌは、思い切り顔をしかめて恨めしげにパトリックを見つめたあと口を開いた。
「……閉じまぁーす」
残りの三人はそんなあからさまなリアーヌの態度に、困ったように笑いながら肩をすくめあう。
「――じゃあ……俺たちは以外に散策できちゃう立場なんだけど……最近デートも出来てなかったことだし? ――ご一緒いただけますか?」
少しの雑談を四人で交わし、リアーヌの機嫌が直り始めた頃を見計らい、ゼクスは芝居がかった口調と態度でリアーヌに手を差し出す。
「――ものすごく甘いものと、なんかスッキリする飲み物が飲みたいです……」
「……頑張ったね?」
「はい……」
手を重ねながら話し合うリアーヌたちに苦笑を漏らしながら、パトリックもビアンカに話しかける。
「――僕らも気軽に出来てしまうのだけれど……」
「……二人きり、というのは以外に少ないのかと?」
「あー……それはあるかもしれないねぇ? ――では、数少ない貴重な機会、僕と楽しんでいただけますか?」
「――喜んで」
差し出された手に自分の手を重ねながらはにかむビアンカに、パトリックも柔らかく微笑み返す。
その手を繋いだままビアンカを店の外に誘導しながらパトリックは口を開いた。
「まずは本屋かな? ビアンカが興味のある店にたくさん行こうね?」
その言葉を聞いて思わず足を止めるビアンカ。
そんな態度を不思議そうに見つめられ、ビアンカは少し恥ずかしそうに店内を振り返った。
「……では、あちらの棚でシーリングスタンプを見てからでもよろしいですか?」
「――……いいのかい?」
ビアンカの提案に嬉しそうに微笑み返しながらビアンカの見つめる先に視線を送るパトリック。
そこには自身が好んで集めているシーリングスタンプの器具や蝋が種類豊富に取り揃えられていた。
その視線にビアンカは少し気恥ずかしそうに視線を伏せながら「その後は本屋に行っていただけると……」と、言いながら二人は店の奥へと身体を向け直す。
「――では、この辺りで」
パトリックがビアンカをエスコートしながらリアーヌたちに会釈する。
それに二人も軽く頭を下げながら、だいぶカジュアルな別れの挨拶を返した。
「ごゆっくり」
「また明日ねー」
ビアンカも軽く「またね」と返し、二人は仲睦まじそうに寄り添いながら店の奥まで歩いて行った。
「――じゃあ……俺たちはドコ行こっか?」
店の外に出たゼクスは大通りを見回しながらたずねる。
「ええと……」
(大通りにあるお店で、どこか行きたいトコあったかなぁ……? ――美味しくってもマナーとかに気を使わなきゃいけない高級店はパスでしょ?)
「そういえば学院近くにある店が、新商品でスフレを出したんだって。 出てくるまでに時間はかかるらしいけど出来たてのスフレが食べられるって評判らしいよ?」
「――出来立てのスフレ……!」
(なにその美味しそうな響き! もう絶対そこ! あ、もうすでに私の口はスフレの口です!)
「行ってみる?」
「ぜひ!」
普段ならば馬車で移動する二人だったが、この日はせっかくだから……と大通りを二人並んでのんびり歩いていく。
その周囲を騎士たちが五人も六人も取り囲んでの散策だったので、周りから見れば“のんびり”とは遠くかけ離れていたが、本人たちはそこまで気にすることなく興味深そうに辺りをキョロキョロと見回している。
「――そういえば、大通りはよく通りますけど、お店はあんまり来たことありませんね?」
「大通りは観光客向けの店か、王族が来ても対応できるような店が多いからねぇ? 前者はともかく後者は、リアーヌ好きじゃないだろ?」
「……客に過剰なマナーを強要する店は好きではありません」
「――客が客に求めてるトコもある気がするけどね……?」
「……他の人ジソジロ見るのはマナー違反なのに……」
「そりゃそうなんだけどねー?」
ブッスリと顔をしかめるリアーヌにゼクスはクスクスと笑いながら、大通りを歩き続ける。
途中、いくつかリアーヌの興味を引く店を冷やかしたり、ゼクスがよく来るという店で買い物を楽しんだりしながら目的の店を目指す。
「――このままだと、スフレのお店に着く前に日が暮れるかもしれません……」
少し興味を惹かれた店に「入ろうか?」とたずねられ、リアーヌは不安そうに答える。
そんなリアーヌに、ぷふっと吹き出したゼクスはケラケラと笑いながら答えた。
「そしたらまた次来ればいいよ。 婚約の凍結も解除になったんだし、なんの問題もない――だろ?」
「……また、散策してもいい……?」
「もちろん。 ――こんな豪華な護衛は付かないけどね?」
声をひそめ、冗談めかして答えるゼクスに、リアーヌはクスリと笑顔を浮かべながら、芝居がかった様子で答える。




