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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 ◇


「お帰りなさいませ、お嬢様――災難でございましたねぇ……」


 ボスハウト邸、玄関。

 リアーヌの迎えに出たヴァルムが、労うように優しい口調で言った。


「ヴァルムさぁぁぁん!」


 その言葉に大きな安心感を覚えたリアーヌは、甘えてまとわりつく子犬のようにヴァルムに駆け寄る。

 ベッティにギフトを奪われそうになった恐怖は、思っていた以上にストレスだったようで、リアーヌは鼻の奥をツン……と、させながらヴァルムに甘える。

 そんなリアーヌの肩や腕をさすりながら、労わるように声をかけた。


「ええ、ええ、このヴァルムが付いておりますとも。 大丈夫でございますよ」


 そんな優しい言葉にリアーヌはうるうると瞳を潤ませるが――

 その直後、お土産の出迎えに出てきたザームがリアーヌの横を通り抜けながらチャチャを入れた。


「……姉ちゃん、コピーするために行ったのにしないで帰ってきたんだろ? 何にもしてねぇじゃん」


 ザームはオリバーが持っていたワッフルサンドが詰まった箱に手を伸ばしながら、茶化すような顔つきで言った。

 そんな弟をジロリと睨みながら、リアーヌは頬を膨らませながらヴァルムに訴える。


「ザームがイジワル言います」

「おい、言いつけ魔やめろよ」

「本当のこと言ってるだけですけどー⁉︎」

「言いつけ魔は言いつけ魔だろ」


 玄関先で言い争うを始めた姉弟に、ヴァルムの笑みが濃くなり、スッと目が細められた時だった――


 リアーヌはその背中に立っていられないほどの悪寒と、吐き気を催すほどの不快感を感じる。

 急にガクガクと震えながら、自分を抱きしめるようにして前に倒れ込むリアーヌを咄嗟に抱き止めたのはゼクスだった。


「っリアーヌ⁉︎」


 そんなゼクスの声と「お嬢様⁉︎」と目を丸くするヴァルムやオリバー、そしてザームの「姉ちゃん⁉︎」と言う声――そして、ボスハウト邸の内部から響き渡った、父サージュの怒鳴り声は同時だった。


「――お前ら今すぐ家を出ろっ!」


 倒れ込んだリアーヌを気づかいながら、背後から聞こえてきたサージュの言葉に困惑するヴァルムたちだったが、メイドが開け放った玄関から、険しい顔つきで母リエンヌの手を引きながら、ズンズンと足早に歩くサージュのことを見つめた瞬間、ヴァルムの表情がキュッと引き締められた。

 そして、リアーヌを気づかいながらも立ち上がると、周りでオロオロしている使用人たちへ号令をかける。


「――旦那様のご命令ですっ!」


 その言葉にハッとした使用人たちはグッと背筋を伸ばし、サージュたちやリアーヌたちに一礼すると、キビキビとした動作で屋敷の中に駆け込んで行った。

 そしてヴァルムは玄関先まで出てきているサージュに向かい頭を下げると「すぐにご準備いたします」と、告げた。


「準備なんてどうでもいい! 今すぐ全員ここから逃げろ!」

「あの……貴方、私も力を使ってみるから……」


 サージュに手を掴まれたまま、引っ張られるように歩くリエンヌが夫に声をかけるが、サージュは一言「後にしてくれ」と言うだけで足を止めようとはしなかった。

 そして玄関先で蹲るリアーヌたちを確認すると、歩みを遅めながらザームに向かって口を開いた。


「ザーム姉ちゃんを運べ。 男爵、馬車に乗せてもらうがいいな?」


 そうたずねながらも、ザームに向かい、さっさとしろとジェスチャーで伝えている。

 促されたザームがリアーヌの腕を持ち、引っ張りあげようとした時、ようやくゼクスが正気に戻り、サージュに向かって声を上げた。


「――馬車は自由に使って下さい。 ……それとリアーヌは俺が」

「早く連れ出してくれりゃ誰が運んだっていい――リアーヌ覚えとけ、そんぐらいすげぇのは、今すぐにその場を離れなきゃダメだってことだ」

「……りょ」


 リアーヌはガタガタ震えながらも、カクカクと頷きながら理解したことを伝える。


(理解はしたけど、二度と体験したくないッス……――え、これで馬車とか本気? ……リバースの危険性をはらんでおりますが⁉︎ いや、これが無くなるなら多少のリバースぐらい構わない気もしてるけど……!)


 リアーヌがゼクスの手を借りながらも立ち上がったことを確認すると、サージュはリエンヌの手を連れながらラッフィーナート家の馬車に近づいていく。

 そんなサージュへヴァルムの声がかかる。


「旦那様、何日程度の避難になるかは分かりますか?」

「分からんし、そんな準備なんぞどうでもいい!」

「……かしこまりました。 ――アンナ。 お前だけ同行しなさい。 男爵、申し訳ありませんが、どこかの宿へ送り届けていただきたく――」


 ヴァルムがそう言葉にした瞬間、リアーヌが感じていた悪寒が、さらにひどくなるのを感じる。


「絶対ダメ! それ無理! 宿屋絶対嫌!」


 そんなリアーヌの言葉に同意するようにサージュも頷く。


「だな。 ……ラッフィーナート家はダメか? なんならどっかの支店の倉庫や屋根裏でもいい」

「それは……」


 ゼクスが口ごもるのに被せるようにヴァルムが口を開く。

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